通りかかった人
公園の時計を見ると18時を過ぎていた。
私がこの公園に来てから約1時間。
辺りに人はいない。
この団地に住んでいる人に道を聞こうともしたが、自宅の住所も地名も覚えていない。
それどころか携帯電話は家で充電中。
「バカだなぁ、私……お腹も減ったな」
お金は少し持って来ていたのでコンビニを探すことにした。
(さっき、ここらへんで見たはず…あった!)
コンビニを見つけてパンを買い、再びさっきの公園のベンチに座ってパンを食べ始めた。
「公園とコンビニの場所は覚えたかな」
そう言ってパンを食べていると、どこかで聞いたことのある声が聞こえた。
「へぇ、引っ越し早々家出ですか(笑)」
驚いて振り向くと、今日のHRで星の話をしたクラスメイトが立っていた。
「えと…安斉くん…だっけ?」
ちょっと違うような気もしたけれど、安斉という名字しか出てこなかった。
「惜しい、安藤」
少し笑いながら言われて恥ずかしかった。
「安藤くんか(笑)…下の名前は?」
「祐希」
(安藤祐希くんかぁ、覚えておかなきゃな)
「安藤くん何でここにいるの?」
「友達ん家から帰る途中通りかかった。てかオレの台詞だし、…本当に家出?」
パンを見ながら安藤くんが笑った。
「まさか!これは……その、道に迷って……」
私はさっきよりも恥ずかしくなって顔が赤くなり、安藤くんはお腹を抱えて笑った。
「そ…そんなに笑わなくったっていーじゃん」
ムスッとしてまたパンを食べ始めた。
笑いが治まってきた安藤くんが私の隣に座った。
「最初はマジで焦った…今日学校で何かあって落ち込んでんのか、それとも前の学校のこと思い出して落ち込んでんのかなって」
安藤くんがさっきより真面目な顔をしてる。
が、すぐにまた笑い始めた。
「ハハハッ、なのに道に迷ったって、心配したオレがバカみたい(笑)」
「…ありがとう心配してくれて……あと、道…教えてもらえないかな?」
パンを食べ終わった私が顔の前で手を合わせた。
安藤くんは「いーよ、階段下の道に行ければ良いんでしょ?」と言って立ち上がった。
「そうそう、階段から来たの!」
私も立ち上がって食べ終わったパンの袋をごみ箱へ入れて安藤くんについて行った。
公園を出たとき、安藤くんが振り返って
「あのさ、もう19時になるけど今から時間ある?」
と言った。
いきなりすぎて戸惑ったが、両親も姉も帰りが遅いことを思い出した。
「うん、大丈夫だよ。何するの?」
「ちょっと連れて行きたい所があるんだ」
そう言って安藤くんはまた前を向いて歩き出した。