聴覚障害者の日常 ケンミンショー編
夫はいわゆる転勤族だ。
結婚するまでは高知と神奈川と離れ離れだったが、結婚を機に関東圏に転勤した。しかし、たった2年で東北圏に転勤になってしまった。
初めての東北は見るものすべてが新鮮だった。宿舎は古い平屋だったので、冬は家の中でも零下で、濡れ布巾が凍っていた。
トイレは水洗といいながら便器に水が貯まるものではなく、下へ落ちる蓋が開閉し、そのときに水がながれるものだった。
水道管凍結防止の水抜きの仕方をおそわりながら、とても不安な気持ちになったものだ。
また、東北弁、東北の食べ物、見慣れない山菜など、カルチャーギャップに戸惑ったものだ。
このカルチャーギャップで失敗したこと、数知れず。そのひとつをかいてみよう。
宿舎の近くに八百屋さんがあって、値段も安いし量も多い。二人だけにもかかわらず、よく利用した。
ある日、「青なんばん」がプラスチックのザルに山のように盛られていた。アタシは「青なんばん」という名前を知らなくて、見た目はししとうのでかいヤツにみえたので、ししとうみたいなものだと思った。
夫の弁当を毎日つくっていて、お弁当のおかずに、青なんばんを焼いて醤油をまぶす焼きびたしにしたのだ。
その日、早めにお昼ご飯にしようと思い、お弁当のおかずのあまりの青なんばんの焼きびたしを食べた。
とたんに、口の中がカッとなり、むせるし、目からも涙がとまらないし、ヒーヒーいうはめになった。
「青なんばん」は、つまり、青い唐辛子だったのだ。
こちらでは、虫除けにもつかわれるのだそうだ。
ほどなく落ち着いたアタシは、慌てて夫の職場へファックスした。
「お弁当のししとうみたいなものは、食べないで下さい!大変なことになります!」
夫が帰宅して言った。
「キミ、職場じゅうの笑い者だぞ…。」
夫への連絡は、電話ができないのでファックスしか手段がなかったのだが、ファックス文書は衆人の目にさらされてしまうのだ。
それ以来、いろんな失敗しても、夫の職場の人は生暖かい目で色々教えてくれた。
今では、携帯電話があるので、本当に助かっている。