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空想的な現代社会  作者: 高野知彦
第一章 天魔ヶ原の生徒 編
2/6

第一話 ある高校のはなし(仮題)

 書き溜め一号です。

 テキスト量はそれほどありませんが、楽しんで頂けたら幸いです。

 時は五月、此処ここぼう県某所に存在する、何の変哲へんてつもない私立高校である。何の変哲もないというには御幣ごへいがあるが、《少しばかり》国際色・・・豊かなただの私立校、名を『天魔あまはら高校』といった。

 そこなる高校の一室、第二学年四科…通称『天才的なバカクラス』では、窓際に腰掛け、ぼんやりと空を眺めている一人の女子生徒の姿があった。

 名を榊原さかきばら侑子ゆうこ眉目びもく秀麗しゅうれい、短く切りそろえられた頭髪や気だるそうに外をながめているその様子からは、男子生徒のそれに近い雰囲気ふんいきかもし出されていた。

「侑子よ、何時いつまでそうやって外を眺めておるつもりだ?」

 彼女に声をかけた人物、名を黒田くろだ雅紀まさきといい、オールバックにした髪形からは数世紀も昔の不良漫画に出てきそうなイメージがあるが、その双眸そうぼうは真紅に染まっており、口からは長い八重歯やえば時折ときおり顔をのぞかせている。そう、彼は亜人種とカテゴライズされている中でも長寿命で知られている吸血種と人間の混血児だ。

「…いつから其処そこにいる」

 そんな雅紀の言葉には応えず、侑子は外を眺めているそのままの姿勢で彼に言い放った。その様子は、長年友人として接してきた者への、ある種好意的表現といっても過言ではなかった。

「授業が終わって直ぐだ。貴様は我輩らと約束したではないか。昼は共に学食へ行くと」

 雅紀は呆れた様に言った。

「…もう昼か」

 そうぽつりと呟くと、侑子は大きく伸びをした。なんともマイペースである。

 彼女は椅子から立ち上がると、頭をがしがしと掻き、またぽつりと言った。

「行くか、学食」

 雅紀は声なく苦笑した。


 学食は多くの生徒でごった返していた。侑子と雅紀は二人、学食に着くや否や、見知った顔を捜していた。と、その時。

「サカキバ!クロにゃん!こっちこっち~」

 見回していた二人を手招きする少女が居た。

 彼女の名は宮田みやた創子そうこ。同じく四科に籍を置く、外見は少しばかり目立たないタイプの、一見するとフツーの少女である。が、周囲の人間とはズレたところがある。詳細は後ほど。

 その隣には、防塵ぼうじんマントを羽織はおり、防塵ゴーグルを首からぶら下げた少し目つきの悪い青年が腰掛けている。名をラウギス。ファミリーネームは本人も周りの人間も口にせず、ただ、『ラウギス』という名で通っていた。同じく四科の生徒である。

 さらにその隣には、長剣を携え、祭礼服の様な衣を身に纏い、薄茶色の髪を後方で一本に束ね黄緑色をした瞳をたたえている青年、名をラハキ=ド=ダラハクといい、同じく四科の生徒だ。

 さらにラハキの隣には赤茶けた短髪の前髪を軽く結い、黄色が混じった茶色の切れ長の瞳を宿し、白いシャツに茶色のベスト、青いジーンズと黒いブーツを身につけ、これから森や山にでも出かけるのではないかというような格好をした青年…名をソルト・M・トイといい、これまた同じく四科に所属している生徒である。

 侑子と雅紀は彼らが陣取っている食卓へと合流した。

 雅紀は腰掛けると、忘れていたことを思い出した。

「しまった。我輩、食券を買い損ねておった」

「心配、無用…」

 雅紀にそう返したのは、ソルトだった。

 何を考えているのか、その表情は先程の台詞と同じく無機質で、彼はそれだけ言うと口をつぐんだ。

「そんな事だろうと、予想できていましたので、あらかじめ私たちのほうでご用意させて頂きました」

 涼しげな声で丁寧に説明したのはラハキ。にっこりと笑顔を貼りつかせているあたり、こちらも違う意味で考えが読めない。

「有難い、これは助かる」

 雅紀はにべも無く礼を告げる。すると、ラハキは笑顔のまま無言で食卓のうえにある二つの盆を示した。

 ひとつの盆には、きつねうどん、おにぎり、魔霞マカ茶といったシンプルなメニューが。もうひとつの盆には、激辛で有名な『竜の巣』という名称の真っ赤なピザ、暴君ハバネロ、ビネガーソースという非常に体に悪そうな組み合わせが鎮座ちんざしていた。

「……」

 侑子は後者の盆を、目を輝かせて見ていた。そこには、『ねぇねぇコレ食べていいの?』といった、喜色が溢れ出ていた。

「どうぞ」

 ラハキが手の平で示すと、侑子はたちまちほんわりとした笑みを浮かべる。

「相変わらず、異常な好みだな貴様は…」

うるさい。俺の勝手だろう」

 呆れる雅紀にホクホク顔の侑子、その様子を見つつ顔を赤らめながら何やらぶつぶつ呟いている創子、座ってただ笑顔を振り撒いているラハキ、その様子を無視して自分の食事を始めるソルトにラウギスという面子は、傍から見ていれば異様な光景だっただろう。


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