第十章『水の掟』・第二話『枯渇した湖・形だけの称号』Part1
「―――――・・・っ」
水星国に着いてすぐ、湊生と綾乃、リフィアの三人はフリーズした。
手紙の文面から読み取れる以上の悲惨さだったからだ。
前に来た時とは比べ物にならない。
木星国に行って帰ってくるまでの短期間で・・・・・・。
枯渇で地面はひび割れ、草木は枯れ、人民は水を求めて城へ攻め込もうとしている。
“水の都”という名は、今となってはただの称号にすぎない。
「酷い・・・」
綾乃が思わず呟く。
前、金星は隣国の水星から水を得ることが出来ないと聞いた際、水星の水が減っているからだということも聞いていた。
その為に金星は敵対していた海王星に水を求めざるを得なかったのである。
水星国に着いて、三人は城へ向かって城下町を行っていた。
と、リフィアが突然何かを指差す。
「お兄ちゃん・・・・・・・・見て」
《ん?》
振り返ると、そこにはまだ六歳くらいの男の子が、特殊な土で出来た家の玄関の前に立っていた。
その子は咳を繰り返しており、頬もこけ、体もほっそりしているのが離れていても分かる。
よく見れば他にもそのような人はあちらこちらに見られた。
「水が無いからだ。水が無くて、野菜が出来なくて・・・・・・輸入にも程度があって、それで」
食べ物が無くても多少は大丈夫だ。
けれど、水はそうはいかない。
「水、金星国からいくらか持って来ているだろう?」
「うん・・・・・それがどうしたの、リフィア?」
「酷だけど、あげるなよ」
《何故だ》と、湊生が若干眉間に皺を寄せる。
見れば如何に苦しいか想像出来る。
なのに、あげるなとはどういう了見だ。
「アタシらそれぞれ、持ってはいても量は無いだろう。それなのに、一人にあげるのは不公平だ。ここまで枯渇していたら生き延びるために大勢の人が寄ってくる。取り合いもする筈。”人相食む”というが、本当にそうだ、食べ物が無くて飢えれば人間同士共食いもする。たった少しの水を巡り、たくさんの人が血を流すことになる」
「そんな・・・・・」
「じゃあ、全員にあげるとかして、一本の水のために争おうとする人々を止めるとかでも言うのえるか?」
「・・・・・っ」
「この状況であげるということは、“責任を取る”ということ。責任も取れないのに与えるのは・・・そんな無責任な行動は、逆に人々を苦しめるだけ・・・」
湊生はくっと歯を噛み締めた。
《確かに・・・そうかもしれない》
湊生は納得して踵を返し、城の方へ歩き出す。
「あ、ちょっ・・・!お兄ちゃん!!」
《俺達は何の為に水星国に来た?》
湊生の言葉に、どうしても苦しむ子供を見ていられなかった綾乃はハッとした。
太陽国に行くのに通るからじゃない。
それぞれの国の平和の為に冥王星と戦っているのだから。
水を蘇らせ、水の都に戻そうと思ってきたのだから。
それさえ果たせれば、皆水が得られる。
そう考えて、綾乃の歩く速さが増した。
三人は城の前で待つテイムに会い、その日は詳しい事情だけを聞いた。
やはり、現状は酷い。
まずは、現在の最大の水の王国である海王星に頼み込んでみることにしたらしい。
書面での交渉は不可能な内容で、テイムは即刻海王星国へ向かった。
夕方、海王星国・・・・・・。
「で、頼めるか、レイト」
「主語が無いですよ、テイムさん。取り敢えず、“既に手配しています”とでも答えましょうか」
にこやかなレイトの声に、テイムも思わず微笑む。
「さっすがレイト!!気が利くな!」
「いえいえ~。予知の力です。」
レイトは、あの事件以来魔力が上がったためかはっきりとした予知が可能となり、冥王星関連の“ロック付き”の情報までも手に入れることが出来るようになっていた。
ただ最近また体調を崩し、母国に戻ってすぐ倒れたことで一騒動あった。
単発的に来る一時的なものなので、元気な時は元気に動き回り、倒れたことで予定通り進まない仕事を片付けていた。
「なあ、レイトも・・・」
「・・・?」
言い掛けて、止めた。
一緒に二日後の“水源散策”に付き合って欲しかったのだが、フェンと対峙した日の数日後からつい先日まで、彼が重体だったことを思い出した。
それはやはり“笛”の力によるのと、力に抗おうとしたことによるのであろう。
何はともあれ、そんな状態の彼を同伴させる訳にはいかない。
加えて、倒れたことをテイムは小耳に入れてしまっていた。
冥王星国の者と戦うことになれば、物凄い戦力となってくれる筈で、心強いけれど。
ダメだ・・・・・。
「・・・いや、何でもない。水のことは任せる」
「はい」