第十章『水の掟』・第一話『偽りを紡ぐ歴史・届いた知らせ』Part1
サラとレイトの婚約事件から二日後。
サラが婚約を了承したことで、それは早々に各国に通達された。
綾乃も流石に日が経ってきて素直にお祝い出来るようになって、一度夜一緒に寝てサラ本人と二人だけでいろいろ話したらしい。
国のトップの婚約ともなれば大騒動で、幼い頃からの取り決めではあっても結構大変なことになった。
サラはそんなことはなかった(国王夫妻が対処してくれている為)が、レイトは一度本国に戻らなくてはならなくなり、昨日の早朝ワールドコネクトベルトにて出発していった。
折角想いが通じて一緒に過ごしたいだろうとは皆思ってはいるが、そればかりは仕方なくて。
元々、サラも金星国に留まる予定でいたし、次の水星国ではテイムとも一度別れる。
金星城に来たサフィールから聞いた話だが、太陽国に戻り次第太陽大命神の守護神継承の儀を執り行うらしい。
その時また他の守護神達と会えるし、一人一人ならワールドコネクトベルトで自国と行き来可能であるということでちょくちょく太陽国に来てくれるということにもなっている。
一先ず、何故か一旦先に水星国に行ってくると出て行ったテイム待ちで、連絡が来るまで金星城に待機となった一行は暇潰しに金星城の書庫で適当に本を読み漁っていた。
因みに、サラは自室で勉強中ということで一緒にはいない。
《そういえば、俺コントロール・・・・・・制御が特殊能力じゃなかったっけ?暴走したレイトを止めれたんじゃ・・・・・・・》
執務室のような机に頬杖をついて湊生が問う。
机の近くには客用のソファが向かい合わせに二つと低いテーブルがあり、そこにはリフィアと綾乃が座っている。
「それは・・・・・・多分無理。冥王星の力が使われてたから」と何かの本をぱらぱら捲りながらリフィアが答えた。
《まあそうか・・・。そんな簡単にどうこう出来れば、笛にあんな人数の命要らないよなあ》
ふう、と湊生が溜め息をついて机に突っ伏す。
「湊生、綾乃」
《ん?》
「なに?」
呼ばれて、湊生は少しだけ頭を上げた―――といっても、魚のぬいぐるみだから頭を上げれば上半身起こした形になる。
「お前ら、建界正史って読んだことあるか?」
「私、ある。こっちの世界に来てそういうことについても勉強したし。・・・・・お兄ちゃんは?」
《俺は読んだことは無いけど、夜寝る時レイトから聞いたことがある》
「建界正史って・・・・・・変じゃない?」
建界正史、とは例のとある人がこの世界を生み出したっていう、木星国でステアから聞いた書物のことだ。
金星城に来て、リフィアも読んだらしい。
《変って・・・基本的に全部変だろ。まあ、最後ら辺はリアルだけどな》
「いや、そうじゃなくって・・・」
《じゃあ、どういうことだよ!?》
「表世界にかつて大帝国があったのに、記録に残ってないこと」
リフィアは四大文明が表世界に現れる前に大帝国が存在していたというのだ。
湊生は呆れた顔をして、
《建界正史は別名、“裏世界歴史ノ書”っていうんだ。表世界のことなんて書いてある方が不思議だろ》
「不思議なんかじゃないよ!!失礼だな。とある人はその大帝国出身者ってことだよ」
《何だって!?》
「大帝国は四大文明が成立する直前、海に沈んだって。島国ゆえ、知られることはなく失われた巨大文明。その国で生まれ、裏世界の創設者となった・・・それがとある人だってアタシは聞いてる」
人間の寿命は短く、そのために実際に見た者はいない。
況してや島国で、地形変化の際に水没した国など。
例え昔の人が紙やその他の手段で語り継ぐ時に修飾したものも、冗談だったものも、何百年も経つと過去の事実となる。
だから、無いと断定することは出来ないのかもしれない。
《どうして・・・それがあったって知ってんの?》
リフィアは突然黙り込んだ。
一分程して、
「いたから。アタシが昔住んでた、木星国の村に」
《ちょっ・・・話が解らないって!何がいたんだよ!?》
「とある人」
リフィアが口にした単語で、湊生の脳の情報処理機能が完全に停止した。