第九章『砂の掟』・第二話『昔からの約定・複雑な恋心』Part1
「え・・・・・・どうしてここにおられるのです、父上、母上・・・・・?」
金星城に着いてすぐ、城の奥から姿を見せた男女にレイトは驚きを隠せなかった。
その内、女性の方が駆け寄ってきてレイトを抱きしめる。
14歳にもなってハグ、というのはやはり恥ずかしいらしく、レイトの顔は真っ赤だった。
拒絶とはとられないように自然に離れながら、問い掛けた。
「金星国で議会が執り行われると通知が来たのよ。それで、ちょうど貴方達が来るらしいって報告を受けて待っていたの」
「そうなのですか・・・・・・本当にお久しぶりです。お元気そうで、その・・・・・」
レイトも綾乃や湊生も、違うことが気になっていた。
それに注意がいってしまい、レイトの言葉が戸惑いがちに途切れる。
気付いたエフェリーは微笑んでレイトの頭を撫でた。
実の息子とはいえ、5歳以降数年に一度くらいしか会っていない為、まだ幼く扱ってしまうのは仕方ないのかもしれないとレイトは思った。
「もう結構大きいでしょう。あと、どれくらいかしら。2,3ヵ月?貴方もお兄さんよ、レトゥイル」
「お、お兄さん・・・・・!?」
大きく膨らんだお腹をしたエフェリーを見て、皆の反応はまちまちだった。
海王星国は孤立した国だが、安定期に入った時点で各国に伝達されている筈だった。
テイムはどうやら知っていたらしいが、サラは旅に出る直前まで眠っていたので知らないし、同様にレイトも記憶を失って行方不明になっていたので知らなかったのだ。
表世界なら男の子か女の子かとうに分かっているだろうと思われるが、裏世界にはそんな機械が無いだろうと考え、綾乃は性別を問うのをやめた。
急にお兄さんになると言われ、気が動転しているのをエフェリーは笑いながら、
「そういえば、そろそろお兄様がいらっしゃる頃よ」と話題を切り替えた。
「お父様が?」
「お父様・・・・・・そう、貴女が綾乃さんなのね。お兄様から聞いているわ」
「綾乃、湊生。お、エリィも一緒か」
現れたサフィール王に、噂をすれば何とやら、とテイムが口笛を吹いた。
「今丁度お兄様のことをお話していたのよ」
「サフィール。久しぶりだ」
「トランも。元気そうだな」
仲良さげに話し出した二人は、すぐに表情を暗くする。
地球国で起こったことは、伝達されて皆知っている。
そしてこのタイミングで議会・・・・・・・。
表世界出身の綾乃や湊生、比較的幼いサラは分からなくて当然だが、他のメンバーにはその議題は分かっていた。
「父上、今度のことは・・・・・・・」
トランスの元へ歩いてきて、俯くレイトに、エフェリーがしたのと同様頭を撫でた。
「冥王星国が関係している以上、皆が問題とすることだ。お前が全ての責を負う必要は無い。責任感があるのはいいが、ネガティブになりやすいのだろう?」
「はい・・・・・・すみません」
「レトゥイル」
「何でしょう、父上?」
「責任を全て負う必要は無いにしろ、お前はしなければならないことがある。それもお前のことだ、分かっているだろう?」
真面目な顔で、深く、ハッキリと頷く。
「ならいい。あと・・・・・・」
トランスは他の人には聞こえないようにレイトの耳に囁き掛けるようにして話しだした。
”ジェインから、婚約の話を正式なものとして公にしたいという申し出が来ている。サラネリア嬢にはいずれ告げられるだろうが・・・・・・お前は、どうだ。受けるか?”
「はい。お受けいたします。父上、僕は、その為に金星国に来たのですよ」
「ははっ・・・・・・そうだったな」
自分が金星国に送り込んだのにな、とトランスは苦笑した。