第九章『砂の掟』・第一話『変化する恋模様・捨てられた想い』Part2
「おい、レイト」
レイトを追い掛けてきて、事の次第を全て見ていたテイムが、レイトの肩を掴んだ。
「あ、テイムさん・・・・・見て、いたんですね」と、レイトが苦笑する。
「ああ。一部始終な」
「どうして僕は避けられているんでしょう?何かした覚えは無いんですけど」
本気でレイトは分かっていないようで、首を傾げる。
ちょっと座れ、と先程まで綾乃が座っていたところに二人で座る。
「何かしたんじゃない。何もしないからこうなったんだ」
「それって、どういう・・・・・」
とん、とテイムがレイトの胸を指差す。
驚くレイトに、いいか、よく聞けと前置いて話し出した。
「お前が、優柔不断過ぎるんだよ。はっきりさせろよ、お前の気持ちを」
「僕の、気持ちですか?」
「サラか。綾乃か。お前は、どっちが好きなんだ?」
一瞬動揺した顔を見せたようにテイムには感じたが、そんなこと無かったかのように微笑みを見せる。
「二人とも好きですよ。それに、テイムさんも、湊生さんも、皆」
「だー!!そういう意味じゃない!!おっまえ、頭いいくせにこの手の話題に鈍感だな!だからその好きじゃなくて、恋愛対照的にどうだって聞いてんだよ」
思わず立ち上がったテイムを、きょとんとした顔でレイトは見上げた。
「ちっ。折角俺様がお節介にも、複雑そうに見えて約一名のところでこんがらがっている恋愛事情をどうにかしてやろうと思ったのによ。このままじゃ、お前ら辛いだろうと思ってだな・・・・・!!」
立ち去ろうと背を向けたテイムの服の裾を掴んで、レイトは留まらせた。
振り向くテイムに苦笑いを見せた。
「わかってますよ、はぐらかしてどうにか誤魔化せないかなーと思ったんです」
テイムの優しさが垣間見えて。
言わざるを得なくなってしまった。
レイト本心としても、テイムの言う通り言わずにいるのは正直キツい。
言ったら・・・・・・少しは、すっきりするのだろうか?
「仕方ないですね・・・・・優柔不断な僕の、本音・・・・・・聞いていただけますか」
「おー、言ってみろ。聞いてやる」
異様に興味津々なのが気になったが、彼にだけは、と口を開く。
誰にも言わないで下さいよ、と言えば、妙に深い頷きが返ってくる。
「僕は、ついこの間まで“レウィン”でした。“海王星国守護神レイト”としての記憶を何一つ持たぬ、ただの太陽国の一国民でした・・・・・その時、綾乃さんと出会い、共に旅し、彼女から様々な見たことのない世界を見せてもらって。いつの間にか、僕は綾乃さんが好きになっていました・・・・・・」
「何だ、じゃあ両想いじゃねえか。解決じゃん」
何気に綾乃の気持ちを暴露するテイムに僅かに頬を染め、苦笑しながらもその目は戸惑いに満ちていた。
「いえ、そうではありません・・・・・・取り戻した“レイト”の記憶の中では、自分は姫様だけを見てきていたんです・・・・・」
「サラを?」
「僕らには――――」
続いて出てきた単語に、テイムの思考回路は一時停止した。