第八章『氷の掟』・第二話『狂わせる笛音・影を落とす絆』Part3
「交渉しましょう、お兄様。私の魔力は守護し、回復すること。それを差し出すわ。損は無いでしょう?」
「・・・。いいだろう」
《サラちゃん!!》
「サラ!!魔力を渡したら・・・守護神ではいられるけど、それじゃあ!」
湊生が必死でサラを引き止める。
もし魔力を渡したとしたら、他の守護神達の力を借りることで国を守ることは出来る。
けれど、守護神にとって魔力は自分の一部であると宮女・クィルから聞いていた。
まさに、“身を切る思い”なのだろう。
「嫌なの」
「・・・何が?」
今までずっと黙って聞いていたリフィアも、綾乃も、一体何のことだか分からない。
「失って初めて気付く・・・ってあるでしょ?そんなのは、もう嫌なの」
前にレイトを撃って、死んだと思った時。
『失って初めて気付く』
隣にレウィン―――レイトがいなくなって初めてその存在の大きさに気付いた。
物心付いた時にはレイトがいつもいてくれたから、フェンお兄様同様にお兄ちゃんだと思って育ってきたのに・・・いつの間にか溝を感じてしまっていた。
家族じゃなくて、赤の他人だという。
そうやって、他人として見て私はレイトに恋をした。
一つ一つの動作にときめいてしまう。
目が合う度に照れて目を背けてしまう。
そんな自分がいた。
今、レイトは『あの時のレウィン』とは違う。
同一人物なのに、いつも土が付いているような服じゃなくなって、名前も立場も変わってしまった。
それでも―――優しさを含めた“中身”においては何一つ変わっていない。
庶民の身分の時も今も、ずっと守ってくれていた。
だから・・・
だから、今度は私の番!!
フェンがサラに笛を投げ渡し、サラの胸元からオレンジ色の玉が現れてフェンの前に飛んでいった。
「本当にいいのか?あっさりと渡してくれるなんて変だと思わないか?」
「これを割りさえすれば・・・レイト王子は元に戻ってくれる!私が犯した罪・・・・・操られていたとはいえ、打ってしまった私の罪を、償いたい!!だから・・・・・・私の魔力くらい・・・・惜しくない・・・・・!!」
サラが笛を振り上げる。
まさか・・・まさか・・・?
突然綾乃がサラを引き止めに走り出した。
《サラちゃん、やめて!それは!》
間に合わなかった。
笛は地面に叩き付けられ、いくつにも分かれて破片が飛び散る。
それを見て綾乃は思考停止し、フェンは「馬鹿だなあ」と狂ったように笑い出す。
「何も設定して無いとでも思ったか!?人が良すぎなんだよ、サラ。まあ、お蔭で作戦は面白いほど計画通りに進んだけどな。・・・・・その笛は壊されたその刹那、操られている者の心を粉砕するんだ!!」
「!!」
「やっぱり・・・」予想が的中してアレンは頭を垂れた。
「う、うわあああああああ!!」
「レイト王子っ!」
サラが頭を抱えて悲鳴を上げるレイトを見て泣き出す。助けようと思ってしたことが、結果的にレイトを苦しめたのだ。
(姫様・・・・・・)
声が聞こえてきて、サラが涙を拭う。
耳に届いたんじゃなくて、直接頭に響いてきたのだ。
(姫様・・・僕を殺して下さい・・・・・・!)