第八章『氷の掟』・第二話『狂わせる笛音・影を落とす絆』Part2
「これは海王星の守護神を操る笛!これがこっちにある以上、レイトは俺の支配下だ・・・!」
そう言って再度笛を吹き、「レイト、あいつらを倒せ!」と命令した。
ゆっくり首を回し、湊生の方を向いた時にはレイトの瞳は完全に虚ろで、その手には魔力を溜めた玉がある。
大体その球の大きさはランクで分かるが―――初めてレイトの魔法を見た時のは直径10cmくらいだった。
テイムでも15cmくらい。
なのに今―――レイトの手の魔法球の大きさは40cmくらいにもなっている。
「その笛!他の国の分もあるんじゃないのか!?」
湊生は笛がもし全ての国の分あれば、太陽サイドの国はすぐに冥王星の支配下になってしまうのではないのかと不安になった。
どちらにしても、そんな笛を作る技術を持つ国を敵にするのは恐ろしいものだ。
「いや、ない。笛は元来多くの命を引き換えにしないと作れないものなのだ。強い魔力を持つ者になればなるほど多くの命がいる」
「他に笛は無いとすると、レイト一人に数億人の命を・・・!?」
アレンがぞっとして笛を見つめた。
レイトの曾祖父はどうやらそこまで高いランクではなかったらしいから、レイト用に作り直したのだろう。
要するに、失われた四国の人々の命は何らかの方法によって保存されていて、レイトの誕生後から覚醒までの間にその全ての命を使って笛を作った、ということだ。
「レイト王子!レイト王子、聞こえないの!?」
サラが声をかけてもレイトは反応せず、更なるフェンの指示で振り返った。
「風よ・・・」
「レイト!!駄目だ!」
湊生がレイトの魔法を止めさせようとする。
「風よ、我が力の具現なれば・・・踊り狂え!」
強力な、まるで竜巻のような風の魔法炸裂し、湊生や綾乃のいる結界の方を目指して飛んでいく。
結界がある以上逃げ場が無く、その結界は外側からの攻撃なら受け付けるらしかった。
逃げられず、思わず目を瞑った彼らの前に、何かが立ちはだかった。
悲鳴が聞こえ、恐る恐る目を開けると、サラが特殊能力である守護を使って結界を張っていた。
《サラちゃん!!》
「大丈夫・・・・・でも・・・・」
「次だ!次の魔法だ、レイト!」と、フェンが急かす。
「何でだ!フェン、オマエはレイトが嫌いじゃなかったのか!?仲間に引き入れるみたいな真似を・・・!」
「嫌いさ!嫌いだからこそ、レイトの仲間をレイトで殺すんだよ!幸い太陽大命神は魔法に不慣れ。そうなるとレイトに勝る人はいない!」
それからフェンは、「正気に戻った時最高だろ?」と付け加えた。
レイトは本当に優しい子なんだ。
だからきっと、立ち直れなくなってしまう・・・それだけは!
湊生は何か手段が無いかと考え始めた。
光属性魔法(の湊生が取得しているモノ)の中で防御出来るものはない。
「サラ!このままじゃフェンの言う通り反撃出来ずに皆死ぬ!だから頼む、ギリギリまでバリアを・・・・・!」
サラが即座に頷いて、金星の特殊能力の“守護”を使って二重に結界を織り成す。
だが、体力の落ちたサラはそう長く使い続けるのは無理そうだ。サラの守護は、攻撃の強さに耐えられるまで継続するのではなく、残った魔力に対する時間で成立するため、魔力がある内はほぼ無敵状態になる。
「風よ、その可憐なる音を纏い、我が願いに応えて舞え・・・!」
フェンの命令で、レイトが次の魔法を放つ。
ピュ~ルルルル ルルルル~・・・
また笛を鳴らした。
それで、レイトが更に苦しむ。
《レイト君!!お兄ちゃん、レイトが!・・・もしかして、笛を吹く度にレイト君は傷付くんじゃ・・・!》
「そうか・・・!」
綾乃は湊生に言って、それからフェンを睨み付けた。
何て惨い人・・・・!!
「お兄様!その笛を渡して!」
「渡せと言われて普通渡すか?サラ」
勿論あっさり渡してくれる訳無い。
そうは分かっていてもサラは頼んでしまう。
フェンは実の兄だから―――信じたいという気持ちもあるのだ。
レイトが悲鳴を上げ、地面に伏せた。
まだ辛うじて意識はある、という状態だ。
多分、もう一度あの笛を吹けば気を失ってしまうだろう。
「交渉しましょう、お兄様」