第七章『火の掟』・第三話『刃交えぬ戦・交差せし表裏』Part1
「やはり脱出していたんだな。のこのこ戻ってくるなんてどういうアタマしてんだ」
腕組みして仁王立ちしているディライテと、随分と強化された軍勢の前に湊生達は降り立った。
「太陽国に帰るのはどのみち通らにゃなんねーんだよな。残念ながら」
だから面倒くさいこと極まりないことに、お前らの相手しないといけないし。ちょっとこの気持ち分かってくれます?と、失礼にも溜め息をついた。
綾乃はそんな兄を見て、わざわざ敵を増やすようなマネしなくても・・・・・・などと考えていた。
元々敵だけど。
「何!?麒麟だからって生意気な・・・・・・!!」
「ほーら、短絡的で応用のきかない猪突猛進タイプってこれだからダメなんだよな~皆にそんな風に言われない?」
「言わせておけば、何分かったようなことを・・・・・!!」
低レベルな言い争いが両者間で勃発し、本来の目的そっちのけでコンボが続く。
その間に無視を決め込んだレイトがサラに前回同様守護に徹するように指示を出し、魚のぬいぐるみ状態の綾乃とリフィアを引っ張って安全なところまで移動させた。
この時間を稼ぐために言い争いをわざわざしているのだと思いたいのは山々だが、絶対湊生は素であって、そんな考えなどちっとも抱いていないだろうというのが容易に想像出来るのが悲しい。
「ふんっ。表世界出の異界人に侮られるほど俺は落ちぶれてなんかないのさ」
「ほー、お連れさん増えたけどな」
明らかに増えた、ディライテの背後に立つ兵士達を見遣る。
「・・・・っ!!いや、これはだな、冥王星王の命だ!!俺が主張した訳では無い!!」
「いいよ、そんな恥ずかしがらなくても。誰だってビビってしまうものはある。だから気にしなくてもいいんだよ」
「ああそう、それはどうもありがとう・・・・・・って、お前ちょっと黙ってろ!!」
湊生が言い返さなかったことで舌戦はやっと途絶えた。
そのタイミングを見計らって、テイムがディライテに話し掛ける。
「それはいいけどさ。ディライテ、だっけ?ルークつってたよな?」
「な、なんだ急に」
「いや、チェスでポーンが一般兵で平均Eランクなんだろ?その1つ上の階級が小隊長のルーク。なーんか変だなって感じがするんだよな」
「何が」
「いや、ポーン、ナイト、ビショップ、ルーク、クイーン、キングって順がナチュラルな気がしてさ」
「そうか?」
冥王星国の軍階級はポーン(一般兵)、ルーク(小隊長)、ビショップ(中隊長)、ナイト(大隊長)となっている。
それぞれを担っている者は、大体がナイトがBランク(同じランクの者が複数いる場合もある。その中でも選りすぐりの人材が任命される)、ビショップがCランク(同様)、ルークはDランクの者である。
つまり、ディライテはテイムと同じ、Dランクということだ。
「そっかー、お前、テイムと同じランクだったのかぁ。意外と弱かったんだな」
「湊生、何かオレのことまで侮辱してないか」
「いいや?気のせいだよ」
ん?そっか気のせいだったか。と、単純に納得するテイムに、そうだそうだと言う湊生。
綾乃はサラの織り成した結界の中、内心突っ込んだ。
《何言ってんだか・・・・・》
ぼそりと呟く綾乃の傍に、あまりに言い争いが続くので前線を離脱したレイトが降り立ちてくる。
因みに一回結界が作られた後は中からしか出られないので、現在結界越し状態だ。
「大丈夫ですよ、綾乃さん。お二人は現在ああやって情報収集してくれているんですよ」
《ホントかな・・・・・》
言えば、あははとレイトが苦笑する。
やっぱり不安だ。
「ええい、うっとおしい!!」
いい加減邪魔で仕方なかったディライテは魔法で二人を蹴散らした。
「確かにお前らにも用はあるが、今最も用があるのはそこで結界を作っているサラ姫なんだよ!!」
「え・・・・・私?」
サラは突然話を振られて面食らった。
嫌な予感がして、レイトは警戒し始めた。
「わ、私は・・・・貴方にはその、用はないんですが・・・・・・何のこと・・・・でしょう」
一行の中で一番幼く、且つ元々戦闘に不向きな力を持つサラは、ディライテから向けられる視線に恐怖を感じて僅かに肩を震わせた。
とはいえサラの魔力ランクは、戦闘能力は持たないが比較的高く、Bランクである。
つまり、ナイトかビショップのトップクラスでないとその結界は打破出来ないということだ。
でもあくまでそれは冷静を保った状態の時のことであって。
「・・・・・サラ」
兵士達が中心に道を作るように二つに分かれ、そこを誰かが歩いてくる。
呼ばれた声と、その容姿を見てサラが固まった。
黙ったサラに代わり、テイムがその人の名を呟く。
「フェンか」
「フェリシェント様・・・・・・」
フェンといろいろあったレイトは、自身に微かな殺気を纏わせ、緊張感を漂わせる。
「どうして・・・・・・・ここに。お兄様・・・・・・」