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太陽系の王様 THE KING OF SOLAR SYSTEM  作者: Novel Factory♪
第六章『木の掟』
63/155

太陽系の王様書庫3

これは太陽系の王様Ⅳです。


とうとう第四十部突破!?

早っ!!



この太陽系の王様、記念すべき2006年に始動。


何とも簡単な、「水金地火木土天海冥」という覚え方が気に入っていたのに冥王星が惑星じゃなくなったらアンバランスになるんだよふざけんなー!!

という怒りから書き始めてここまできました。


太陽系の王様Ⅰについて


当時は少年主人公なのは何度も言っていますが、いやホントストーリー違うんだよね。



表世界も裏世界も無く、普通に一つの世界で惑星に人が移住してる設定。

主人公はボールを道路に取りに行って轢かれそうになる子供を助け、病院に運ばれる。



何と彼の血液は黒く、それは魔法使いの資質を持っている証拠!

太陽王サフィールは彼を養子にして、それぞれの国の支配権に関わる宝玉を復讐を企む冥王星王と奪い合う――――とかって話だったような。



初期設定はアストレイン=サン=クラウンっていう名前だったという今だったら恥ずかしい設定が・・・・・・。



現在の太陽系の王様とは傾向も結末も全然違いますな(笑)







「ねえ、君。起きて」

 誰かに揺さぶられ、漆黒のセミロングの髪の少女が目を覚ます。

 まず彼女の視界に入ったのは、彼女を揺さぶった大きなぐるぐる眼鏡の少年だった。

 ゆっくり上半身を起こして辺りを見回すと、同じ室内に他にも寝起きと思われる人達が数人いて、皆何が起こったのか、もしくはここはどこなのかさっぱりのようであった。

「・・・・・何、ここ」

 起こしてくれた少年は、ベッド横の椅子に腰を下ろした。

「さあ、皆知らないみたいなんだ。・・・・・ってあれ?君、その制服、もしかして・・・・・皐嘔学園の?」

 少女がベッドの上に座った際に、肩まで掛かっていた毛布が下がって、彼女が身につけている服装が露わになっていた。

 深緑のお互いのそれを見比べて、少年が驚いたように言った。

「そっちこそ・・・・・」

「じゃ、自己紹介だね。僕は桜井麗人。皐嘔学園中等部二年A組」

「と、隣のクラス・・・!私、B組!名前は、篠原綾乃」

「篠原、さん・・・・・?奇遇だね、同じ天文部でクラスメイトに、同じ篠原って名字の男子がいて。篠原湊生って人なんだけど・・・・」



 同じ部の。


 篠原、湊生・・・・・


「奇遇なんかじゃない。私の、お兄ちゃんだよ、それ」

「お兄さん?篠原に、同い年の妹がいたなんて知らなかったよ!双子?」

「違う。お兄ちゃんが四月生まれで、私が二月生まれ。お兄ちゃんが生まれてすぐに私がお腹に出来たってだけ。それに、私のこと知らなくて当然、元々あんまり自分のこと話したがらない人だから」

「確かに」

 言って、麗人は苦笑した。

 兄妹で同い年と言うと、すぐに双子かと聞かれるが、そうではなく、ただ普通に兄妹として生まれ、たまたま学年が同じになっただけだ。そうではあるが、成長の著しい幼少時においては一つ違いのようなカンジであった。

 そもそも綾乃が彼の通う皐嘔学園に転校したのは四ヶ月前のこと。転勤の多さが原因で両親が離婚し、父親の方についていった綾乃は、過労で父親を亡くしたため母親の元へ行くことになった。久々の我が家に戻った綾乃だったが、そこに優しく、若干シスコンだった兄の姿は無かった。

 彼らの話の内容が、全て過去形なのには意味があったのである。

 湊生は、綾乃と入れ違いで転校した訳でも、最近英語教育としてメジャーな海外留学中という訳でもない。

 綾乃が転校してくる数ヶ月前、トラックがコンビニエンスストアに突っ込むという事件で亡くなっていたのである。

 二人は今はもういない人を経由して話していることを意識して、なんだか心理的に微妙になった。

 そうではあるが、取り敢えず綾乃が転校生である以上、互いを知らないのは仕方ないことであった。

「言われてみれば、篠原と君、そっくりだと思うよ。似てるって言われてなかった?」

「自分自身からすると、なんだか納得いかないけど、言われたことは何度か」

「だろうね」と、麗人は笑った。

 綾乃も釣られて微笑む。

「お兄ちゃんと同じ、天文部なんでしょ?星が好きなの?」

「ああ、うん。趣味なんだ、天体観測。五歳の時、伯父さんに天体望遠鏡を買って貰ってから。以来、毎年夏に田舎の母さんの実家で星を見てるんだ。だからって、そういうの関連の職業に就きたいとは思わないけどね」

 綾乃は、離れ離れになった後の兄を知っている筈の麗人にいろいろな質問をした。

 兄についてや、麗人自身について。

 逆に、麗人からの質問もあった。

 ・・・・それから。

 不意に、綾乃が口を開いた。

「桜井君」

「・・・・?何?」

 そっと綾乃は手を差し出す。

「よろしく」

「・・・・うん、よろしく、篠原さん」




 綾乃と麗人が打ち解けて話し出した頃。

 まだ状況が把握できずオロオロする者もいる中、急に鍵の掛かっていたドアが開いた。

 その途端、話し声が一気に消える。

 ドアが半分程開いたところで、誰かが顔を覗かせた。

「ようこそ、裏世界へ、皆さん」

 ・・・・・・裏、世界・・・・?

 入ってきたその人は、太陽国国王・サフィールであった。

 彼の後ろに一列に並んでいた小間使い達が、サフィールに言われて部屋に入り、中央のテーブルの上に紅茶とクッキーらしき焼き菓子の入ったかごを次々と置いた。

 どうぞ、と一人の小間使いが綾乃にティーカップを差し出してきて、どうも、と礼を言って受け取る。

 少年少女達にとっては深刻な状況なのに、まるで分かっていないような雰囲気だ。

 そんな彼らの姿に、誰もが固まる。

 あんたら、今の状況が分かってんの。

 ティーパーティーどころじゃないんだから。

 それ以前に、聞きたいことが山ほどあった。

 苛立ちがマックスになる。

 血が上っていくのをはっきり感じた。

 耐え切れず、ガタッと椅子を蹴って立ち上がる人がいた。

「裏世界って・・・・そもそも、ここはどこだ!何で俺達はここにいる!」

 召喚された少年少女の中で最も年長であるらしい人が、サフィールに食って掛かった。他はそのようなことはしなかったが、心境は同じだ。

 皆そうだそうだと目で訴えている。

「えっと・・・・それはだな・・・・これから話す。だから、まずは座ってくれ。二組に分けるから」

「二組に分けるだあ?・・・・・それにいったい何の必要があるんだ!怪しいとしか言えないだろ!分けて戦力を減らし、捻じ伏せて何かを強制するんじゃないのか!なあ、答えろよ!そうなんだろ!」

 凄い勢いで彼の拳が打ち付けられたために、テーブルの紅茶がこぼれそうになる。

 サフィールは僅かに圧倒されたような素振りを見せたが、なんとか全員を座らせた。

 皆の視線が、痛い。

「・・・・・君の考えは正しい。流石に捻じ伏せるつもりはなかったが、頼み事があるのは紛れもない事実だ。我々は、裏世界を統べる者として、君達に援助を要請したい」

「援助?」金髪碧眼の少女が聞き返した。

「そうだ。君達の住む世界―――表世界にも、勿論関係のあることだ。私達の説明を聞いた上で、自分達で判断して欲しい。・・・・・あ、武官は出払っているため、文官しかいないので、武力行使という手段は間違ってもしないので安心を」

 ・・・・・武官は出払っている?

 なんか変だなあ。

 麗人は小さく首を傾げた。

「聞くだけ、聞いてみない?」

「そうだな。聞くだけなら」

「私達の住む世界に関係があるって言ってたよね?聞いて損はないと思う」

「確かに」

 では別室で詳しい事情は話すからまずは移動してくれ、と前以て決めていたように六人を三人ずつ二つのグループに分け、別々の部屋へ誘導する。

 一方のグループは年長二人に、金髪碧眼の少女。

 もう一方の、綾乃のグループのメンバーは、麗人とあともう一人、ロングヘアにカチューシャの少女。

 なぜそのような組み合わせなのかはさっぱりなのだが、皆その指示にあっさり従った。

 二グループとも内装と広さが同じ別の部屋に通され、そこにあった椅子に座る。

 それぞれ数人ずつ神官が部屋の中にいて、説明をしようと待ち構えていた。

 ちょっと、緊張する。

「さて・・・何から話せばよいのだか。悪いが質問をそちらからして貰えぬか」

 いざ聞かれると、なんて言ったらよいか分からなくなって、綾乃は黙り込んだ。

 ・・・・・誰か代わりに質問して。

「裏世界・・・って、いったい何のことですか?」

 と、しばらく考えていた麗人が問い掛けた。

 裏世界、と綾乃は口に出さずに心の中で麗人の言葉を繰り返す。

 それを聞くのは、本日二・・・いや、三回目。

 でも、以前にも聞いたことがある気がするのは私だけか。

「それは・・・・今、私達のいる世界のことだ。一方、君達が元住んでいた世界を、表世界という。まあ、重なって存在する以上、表も裏も無いがな」

「では、僕達が裏世界に呼ばれた理由は?さっきの・・・・王様っぽい人は、頼み事があるって。それって、なんですか」

「まとめて質問を聞こう。他には?」

「今はありません。気になることがありましたら、随時質問を」

 なんだか、ほとんど麗人と神官の一対一の会話になりつつある。綾乃とカチューシャの少女からすると、超受動的な会話だ。

「わかった・・・順を追って説明する。その質問も含め、君達の知りたいだろうことは出来るだけ欠ける事無く盛り込むつもりであるから、辛抱強く聞いてくれ」

 返事をする代わりに、軽く頷いてみせる。

「ここは表世界と平行して存在する世界だ。ちょっと違うけれど・・・・・一種のパラレルワールドと考えてくれればいい。コインの表裏のようだが、交わることは決してないといった関係にある」

「もしかして、そういう関係にあるからこそ―――裏世界、だっけ?ともかく、こっちに何かあったら私達の世界に影響があるってこと?」

「更に、もう異変は起こり始めてる。だから呼んだ。そういうことになるよね」

 綾乃が言って、それに麗人が付け加える。

 その二人の言い分は正しかった。

 神官は深く頷いて、続けた。

「裏世界には十の国があって、王家の魔力を持つ者が守護神として統治している。事実上、王は形だけの存在となっている。そして今・・・魔力を持つ者は減り、守護神がいるのは数国のみ。私達各国の神官は予言を受け、それに従い、表世界の魔力を持つ者に裏世界の守護神となって貰うために儀式を執り行ったのだ」

 今まで話していた神官の少し後ろに立っていた別の神官が、

「西暦二〇〇六年、何があったか知っているか?」

 三人は顔を見合わせた。

 そしてお互いに、知らない、と顔の前で手を左右に動かすジェスチャーで返事をする。

「今年は西暦二三四〇年だから・・・三百三十四年前?」カチューシャの少女が呟いて、

「うん。三世紀前のことだよ」と麗人が肯定した。

「ねえ、桜井君。今思い出したんだけど、確か・・・その頃」

 皆が注目してきた。

 間違ってたら嫌だな・・・。

 でも、と綾乃はそのことを教えてくれた兄・湊生を思い出した。天文学に興味があった兄が教えてくれたことだ、聞き間違いや勘違いでない限り、多分間違いない。同じ天文部なら、きっと麗人は分かってくれる。

「惑星の・・・すい、きん、ち、か、もく、どっ、てん、かいって覚え方、聞き覚えない?」

「ああ・・・・そういえば。小学生の頃、理科で」

「そう。じゃあこっちは知ってた?昔は、今の矮惑星の冥王星が惑星扱いされてて、終わりが『どってんかいめい』ってなってたのを」

 麗人はあっと声を上げ、カチューシャの少女は素っ頓狂な顔をして聞いている。

「そうか!あれは、二〇〇六年のことだったんだ!」

「なになに?で、結局その年に何があったわけなん?」

「冥王星が、IAU・・・もとい、国連天文学連合の決定で惑星から外された年だよ!ってことは、裏世界の十国っていうのは、太陽と、水星、金星、地球、火星、木星、土星、天王星、海王星、冥王星の九の惑星を模した国っていうことだ・・・・!」

 麗人は、六人の少年少女の中で一番最初に目を覚ました。そして、誰かが壁の向こうを歩きながら話しているのをたまたま耳にした。

 その中に、太陽国という単語があったのである。

 この国が、“太陽国”という名前なのならば。

 それから察すれば、自然にその答えが導き出せる。

「その通り。冥王星は激しく怒ってしまったんだ。我々神官としては、その決定は仕方なかったことだと思う。もともと、異質な惑星だったのだから・・・。冥王星は今、復讐しようと企んでいる。この太陽国に、この世界に。惑星から外されて後、幾度となく辱めを受けたから。そして、この世界は崩壊の危機にある」

 綾乃は聞きながら、出された焼き菓子に手を伸ばした。他の二人も、それに倣う。

「こちらの世界が失われれば、君の世界も失われる。それが、この二つの世界の事実上の関係。会って数十分の人間だが、信じてはくれまいか。危機が迫っている以上、君達表世界人に頼る他ないのだ」

 そういえば。

 拒否しても、帰らせて貰えなかったら・・・・受けるしかないのでは・・・・・?

 武力行使以外にも、手段があったんじゃないか!

 気付くのが遅かった。

 いや、早く気付いていても、無駄だったけれど。

「具体的には、ウチらは何を?」

 カチューシャの少女は、綾乃よりも情報処理能力が高かったらしく、同じことを考えていたが、まったく同じ答えに行き着いてさっさと本題に戻っていた。

「まず、数日間ここに歴史と地理等についての学習のため滞在していただいた後、旅に出ていただきます。二つのチームに分けたのは、冥王星国にバレないようにというのが理由で、決められた日時に二チームは待ち合わせ、各国の国王に謁見し、その身に裏世界の自分を宿した上で対策を練って下さい。これ以上のすべきことは、もう一人のあなた方から」

「もう一人の、自分・・・・・?」

 麗人は、時空の場合なら、同じ時空に同じ人間が二人いたら時空が歪む、とかいうドラマか小説か何かがあったことを思い出した。

 表世界と裏世界ではそうではないのだろうか。

 そもそも考えすぎか、ドラマの見すぎか。

「僕は・・・・・・手伝います」

「え?ちょ・・・・・本気なの?」

「早く帰りたいなら、やるしかない。たとえ、死ぬ可能性があっても」

「死ぬ可能性って!じゃあ、なおさらっ・・・・!・・・やるしか、ないよね」

 意味不明の接続に、「は?」と皆呆然とした。

 誰かが噴き出すのが聞こえた。

 その誰か―――笑って若干涙目の麗人が、

「篠原さん、考えながら喋った?」と尋ねた。

「あははは・・・・・うん」

 綾乃は無性に恥ずかしく感じた。

「ウチも賛成。やるで」

 カチューシャの少女は、それから改めて自己紹介した。

 名前は本庄明里。綾乃と麗人より一つ年上の、十五歳の中学三年生だった。また二人とは出身地が結構離れているらしい。

 旅の途中で能力的にチーム変えするべきだ、と神官は説明の最後に言ったのだが、三人はまだとうぶんこのチームでいいかもしれないと思った。






「小堀様!世界史のお時間でございます!」

「いやだ!オレは逃げる!せっかく大学でエンジョイしてたのに、また勉強するのはい~や~!」

「逃がすものですか!」

 男のようにゴツイ宮女のスパルタ教育が始まった四日目。少年少女六人はそれぞれチームに分かれて勉強用のテーブルに腰掛け、書物を読み耽っていた。

 一通りの歴史を学ぶためである。

 どうやら“もう一人の自分を身の内に宿す”と魔法が使えるようになるらしく、その勉強もしないといけないらしい。魔法が使えるようになると聞いたのはつい数時間前のことで、その時一番喜んでいたのは紛れもなく、今闘牛のような突進をしている宮女に追いかけられ中の彼だ。

 綾乃の服は約数十万円という超セレブ状態となっているが、それは当たり前、仮にもここは王宮だ。客人にはそれ相応のおもてなしがある。

 それよりも更に凄いのはこの宮女。

「ねェ、クィルさん。“魔力”て、具体的に何?」

 一人で全員の教育係を難なくこなす宮女・クィルは、そうですねぇ、と逃走しかけていた最年長の青年―――小堀疾風というらしい――を羽交い絞めにしながら笑顔で振り返り、手元の作業を続けつつ少し考え、

「魔力を持つ者・守護神には属性と特殊能力がありますね。例えばこの太陽国の守護神・・・・それを太陽大命神というんですが、その場合は、属性は光、特殊能力は制御、時間を司ります」

「セイギョ?」

「他の守護神達の暴走を止めるためのモノですよ。・・・ただ、多くの条件があるので、有効とは言えませんけど」

 聞いて、綾乃はやっぱり裏世界でも太陽は絶対的存在なんだなあ、と感じた。

 今まで学習したことをまとめると、こうだ。

 魔力持ちは守護神になることがこの世界では義務付けられているという。

 大変人数が少なく、裏世界に存在する国全て守護神が揃うことは稀で、魔力持ちの証としては翼と、魔力開放時の瞳と髪の変化が上げられる。



「むう・・・・」

 麗人は唸った。

 本当にこの裏世界の歴史は興味深い。実に結構だ。


 でも・・・・・本当に魔法なんて有り得るのだろうか?


 また、魔法とかって実際には無いというのは常識である。漫画やアクション映画での話は別として。

 だが、真面目で知識が多い宮女クィルまで言うのだ、嘘である訳ないだろうと超常識人間の麗人は頭を抱え、この理を超越した国々の歴史書を見た。

 確かに、第一次魔法大戦と第二次魔法大戦というのがある。それは、元の世界でかつてあった第一次・第二次世界大戦と同じ年にあったことであった。

 どうやら本当に二つの世界は連動しているようだ。

 他にも、革命、紛争、条約締結、大陸発見など・・・表世界であった“世界を揺るがす出来事”は、この世界で何かしらの大イベントがあった年と一致している。

二〇〇六年のところを見た時―――麗人は数秒固まった。

《冥王星、太陽系連盟を脱退。》

「太陽系って連盟だったんだ・・・?」

「はい。桜井様達のいた表世界で冥王星が太陽系の一つというポジションを失くした事で―――惑星の守護していた国の一つである冥王星国を外すしかなかったのです」

 麗人は、立ち上がって窓の側に寄り、窓ガラスに手をついて下を見た。

 その下では、兵士達が訓練中なのだが、度々麗人はそうして彼らを観察していたのだった。

「ずっと・・・」

「はい?」

 クィルは疾風を椅子にロープで縛り付け終え、振り返った。

「ずっと、思ってた。兵見て、軍備強化中っぽいなって。それに、王は僕達が来たばかりの時に、『武官はいない』って・・・王がその時城にいて、武官・・・兵士が一人もいないって普通は有り得ないことでしょ。・・・・それってつまり、冥王星はもう動き出していて、今太陽側はいっぱいいっぱい。負けてしまう可能性だってある・・・ってこと」

 クィルは悲しそうに、深く頷いた。

「守護神の役割の一つが、言っていませんでしたが―――表世界の惑星の守護なんです。彼らは忙しく、もしものことを考えればどうしても前線で戦っていただくことが出来ません。ですから・・・」

 第一次・第二次魔法大戦時だけは、守護神が先陣を切って戦った。

 だが、魔法大戦とは言えど、実質魔法が使える者はごく一部・守護神しかいない。例外はあるが、どちらにせよ他の兵士達は銃や戦車、爆弾といったものでの戦いであり、守護神とその例外を除けば第一次・第二次世界大戦とさして変わらない。

「そんなことがあったのか・・・・・で、オレらがヒーローのようにこの世界を守ればいいんだな!」

 勉強嫌いの疾風も、さすがに異世界の学問や魔法だらけの歴史には興味を示し始めた。

 そう簡単にいくモンですか、まずアナタは勉強なさい、と疾風はクィルにまた叱られていた。

 因みに、彼の小堀疾風という名前は、いろんな方面から(主に怒られている時)聞くので誰もが知っているが、綾乃のグループはそれ以上彼について知らない。取り敢えず、勉強嫌いの不真面目な人という印象が強い。間違いなく。


 クィルはそれから今年・・・二三三五年までの冥王星国の悪事について語り出した。この国―――太陽への圧力、他の国々を支配下に置くなどし、今や、地球、火星、土星、天王星は冥王星によって王族を失って敵となっていることを。

 今年が何年であるかを聞いて、正直綾乃は驚いた。

 表世界が現在二三四〇年であるところからすると、五年も後を行く(要するに、西暦二三三五年)裏世界とは時間軸が違うようだ。

 それでも、同じ年に対応した出来事が起こっているのならば、二つの世界はよほど結び付きが強いということだろうか。

「そういえば、外見ても線路ないやんな」

 明里が麗人の隣に立って同じように景色を眺めた。

「あ、皆さん、ご存知です?旅は徒歩ですよ」

 笑顔でクィルは言い放つ。

 一瞬にして、場の空気は凍りついた。






 第二話『旅立ち・いきなりすぎる受難』





「はーい、Bチーム集合~」

「了解、リーダー」

「アイヨー」

 綾乃が手を高く上げ、仲間の桜井麗人と本庄明里が彼女の元へ寄っていく。

 つい先程まで、(強制で決まった)Aチームリーダー、疾風と(阿弥陀くじで決まった)Bチームリーダー綾乃はサフィール王や神官達と今後について話し合っていた。

 これから行われるのは、その報告会。

「オラ、Aチームも会議すっぞー」

「はいはい」

「ねえ、何か決まったの?」

「いろいろとなー」

 大学生で一番年長の青年、小堀疾風。

 高校生で疾風に次ぐ年齢の少女、野村美咲。

 綾乃、麗人と同い年で金髪碧眼の少女、鈴木砂羅。

 この三人が、Aチームのメンバー。相変わらず、別行動だらけのせいか、お互い相手チームのメンバー個人個人について知らないままであるが、なんとか全員名前だけは把握したようである。

「アンタ、ひょろひょろしてるけど、ちゃんと聞いてたんでしょうね?」

「失礼な!オレをなんだと思ってんだ!」

「なら、どうぞ、証明して。絶対どこかが抜け落ちるんだから」

「はっ、耳かっぽじって聞きやがれ!」

「我慢して聞いてあげるから、さっさと話しなさいよ」

 疾風と美咲が激しい舌戦を繰り広げる。

 たまにこのようなことが起こっているのだが、綾乃たちBチームは、『二人は馬が合わないのではなく、喧嘩するほど仲がいいってヤツだ』、と認識している。

 とはいえ、至って本人達は真剣そのもので、今仲がいいねえなどと言えば、百パーセントこちらに火の粉が飛んでくると思われた。

「疾風お兄ちゃん、美咲お姉ちゃん、お願いやめて!私達にはやるべきことがあるでしょ!仲間割れしてちゃだめだよ!」

「砂羅・・・・」

「砂羅ちゃん・・・・そうね、ゴメン」

 いつも暴走中の二人を止めるのは彼女、砂羅だ。

 今日もまた、目に涙をいっぱい溜めて、訴える。

 流石に、年下にこういうようにお説教されると、なんだか情けなくなってしまう。

 頬を伝いかけた涙を、砂羅はごしごしと拭った。



 その様子を、心配そうに麗人が見ていた。

「ちょっとお、桜井君!聞いてる?」

 綾乃が怒りながら声を掛け、麗人は驚いて振り返る。

「ああ、ごめん・・・・・で、何だっけ?」

「ホラ~しっかり聞いてないからそうなるんやで?」

「本当にすみません・・・・・もう一度お願いします」

 今度は自分がAチームみたいなことになってる、と思った。いやほんと、人のことをあーだこーだ言っている場合ではない。

「仕方ないなあ。旅は徒歩でってのはクィルさんから聞いたからいいとして、Aチームとは別のルートを行く関係で、こっちの方が後から出発」

「・・・・・ていうことは、水星城までは、Bチームのほうが短距離ってこと?」

「そ。時間ずらしても先に着くはず」

 綾乃は手に持っていた地図を広げた。

 そこから、立体映像が浮かび上がる。

 まん丸で、少し地軸が傾いていて、国と国の境がハッキリしたもの。

「うわっ、すごい科学技術!」

「せやんな!」

「でしょ!私もさっき初めて見せて貰った時はびっくりした。因みに、この国境はどうなっているでしょうーかっ!」

 ハイ、と麗人が手を上げ、

「国境を境に、明らかに国と国の環境が異なっている!」

「正解!・・・・ちぇっ、間違ってくれれば面白かったのに~」

「知識問題じゃ負けませんよ!」

 二人の間で火花が散った。

 次は何を出してやろうか、と綾乃は目で言って、

 何でもどうぞ、と麗人も受けてたった。

「ま、アヤ、仕方ないやん。麗人君はウチらと比にならんぐらい勉強してるの、知ってるやろ」

「う・・・・まあ」

 少し綾乃が引っ込んだ。

 差し詰め、綾乃と麗人がAチームの方の美咲と疾風で、明里が砂羅か。

 別にAチームと違っていつもこうな訳じゃないけれど、出した質問には間違ったり悩んだりして欲しい、と綾乃は思う。

 あっさり答えられるのは非常に出題者としてつまらない。

「・・・・・・そんなことはハッキリ言ってどうでもいいんですけど、ちょっと気になることが」

 麗人が話題を変える。

 どうでもいいってあたり、綾乃は不快に思ったが、一応保留にした。

「何?」

「僕ら、何人?」

「そりゃ、六人やろ。あっちもこっちも各チーム三人やから」

 当たり前の質問に、当たり前のように明里が返答した。

「そう。だからおかしいんだ・・・・・守護神いる国の数は過去最低の、太陽国、水星国、金星国、木星国、海王星国、冥王星国の六国」

「ちょうど同じやんか」

「だよね?それのどこが変なの?」

「いくつか言えることがある。一つ目は、僕らはこの太陽城の中を自由に歩き回っていたけど、太陽国の守護神には誰も接触していない。二つ目は、守護神というものはすごいスピードで飛べるらしいし、交通手段だってゼロじゃないのに・・・・・各国の神官は太陽城に来ていて守護神本人は来ていないこと」

 確かに、そうだ。

 綾乃も、麗人も明里も、Aチームのメンバーだって、太陽城の中を王の私室を除けば、自由に出入り出来た。

 でも、誰一人、太陽国守護神―――特別な名称で言えば、太陽大命神には会っていないのである。

 更に、裏世界の危機に急いで儀式を行って少年少女六人を呼び寄せたのだ、そんなに焦るならば、儀式までに各国の守護神が集合していれば、すぐに事は進むだろうに。

 時間がないのに、わざわざ・・・・旅までさせて。

「三つ目・・・・・これが、一番、怖いこと。僕ら六人のうち、一人が・・・・・敵国の、冥王星国の守護神と魂を同じくする者じゃないかっていうことだよ!」

「・・・・!」

 言われて、初めて気付いた。

 もし、自分が・・・・その人なら、私は、いったいどうなるのだろう。

 殺されるのか、牢屋に送り込まれるのか、それとも。

 二人とも絶句して、青ざめた。

「でも変やんな。太陽側ばっかり守護神がおって、冥王星側にはあんまりいないのは」

「だからそれは、今日の授業でクィルさんが言ってたでしょ。冥王星国は他国を自分のものにする際には必ず、王都とその辺境の人が住む村の全てを、何らかの方法で球状に包み込んで消すって。後に残るのは、丸い大きな穴だけだって」

「おお・・・・・そんなことしたら、守護神はいなくなるのは当然やな。守護神は、その国の人以外からは間違っても生まれないって言うし」

「そうそう」

 そうして消された国が、地球国、火星国、土星国、天王星国であった。

 地球国は、冥王星の領土となって尚、緑に満ち溢れている。木星国と海王星国の合いの子と言われているが、常春の木星とは異なり、また海王星と同様に四季がある。

 冥王星がこの国を重要視していないためか危険度は低く、太陽側の国の人は旅行スポットにしているという。

 更には、敵国だと認識していない者だっている。

 火星国は打って変わって絶対侵入禁止区域であると認定されているほど危険な国だ。

 元王都周辺には近年要塞が建設され、木星国の戦争介入を阻む為だと言われている。








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