第六章『木の掟』・第二話『世界の情勢・埋め集う記憶』Part1
「あっ・・・・と、脱線し過ぎましたわね。実戦に移りますか?」
本来の目的から外れてきていることに気付いたステアは、慌てて立ち上がったが、湊生は頭を横に振った。
「んー、取り敢えず今日は魔法の練習はいいや。ステアが知ってる情報が聞きたい」
「わかりました。ご存じの通り、今、地球国や火星国といった冥王星国領土を治める守護神はいません。こうして一時的ではない持続的あるいは永久的な守護神の欠損を皆“世界崩壊の先駆け”と呼ぶわ」
「“世界崩壊の先駆け”か・・・。で、そもそもの始まりが冥王星?」
「はい・・・・・・」
太陽と冥王星は二つで世界のバランスを保っていて、それぞれは時間、空間を司っている。
そんな関係にある二つの国は、最も離れた位置に国を置いていた。
表世界の惑星を守護する裏世界は、例えば、地球の緯線のように十国が軸に対して垂直に分けられている。北極に値するのが太陽国、南極に値するのが冥王星国だ。
そして十国はそれぞれ違った気候をしている。(画廊4参照。)
国を一歩越えたら緑の大地から一気に砂漠になったり雪が降る極寒の地になったりする。
ただ、各国の境界には“スクリーンウォール”という見えない壁が実際にはあって、通り抜けることは出来ない。
故に、ワールド・コネクトベルト(通称:エスカレーター)に乗る必要がある。
初めて乗る人にとって、国境を越えることは大興奮モノだ。
綾乃も湊生も乗ったことは無いが。
「今までに無かっただけで、別にそんな事例があってもおかしくないと思うけど?」
「まあ、確かに。その可能性はゼロとは言えませんわね。人類が存在するようになってまだ長くはありませんし、守護神は長生きしますから―――今までに歴史上の守護神の数は少ない分、起こってなかったというだけかもしれませんね」
「ん?ちょっと待って。少ないって・・・一度に守護神は十人いるんなら、意外と多いんじゃ・・・?」
「そうですね。今年は2340年ですから、少なくとも七十人はいます。紀元前や、各国建国時以前にもたくさんいたでしょう」
ふんふん、と聞いていて、思わず聞き逃しそうになった湊生は、気付いた途端首を傾げた。
「へ・・・・数合わなくない?」
「湊生さん、守護神は何年生きると思います?」
と、ここですかさずレウィンがフォローを入れるべく問うてきた。
少し悩んで、適当に答えを出した。
「えーと、長生きするってさっき言ってたよな。マックス120年?」
「違います。平均300年です」
「さっ・・・・・・!?」
目が見開き、眉間に皺が寄る。
自身も守護神だから300年生きることになるのだ。
もっとも、一度表世界で死して今霊体である湊生が、同様かは分からない。
彼は本当に例外。
事例が無いため、そこに応用させられないのだ。
「湊生さん!あーつーきーさんっ!大丈夫ですか!?」
「ダメだな。完全に呆けている」
「さっきも誰かさんの影響で石化してましたけど」
「さー?何のことだろな」
冷めた目で見られ、テイムはすっとぼけて明後日の方を見た。