第六章『木の掟』・第一話『仮初めの繁栄・常春の世界』Part3
「・・・・先生」
「はい?」
「残り全部分かりません」と、湊生が紙を一通り目を通して言い放った。
それをひらひらと振ってお手上げだと示す。
湊生の隣で、それ以上は教えていませんからねーそれはそうでしょうと思っている元教官レウィンは黙って行く末を案じていた。
と、湊生は殺気を感じて後ろを振り向くと、視界一杯に仁王立ちした本来居ない筈の人物の姿が映った。
・・・・・・クィル。
「アレン様ぁ。お勉強サボってましたね!私はそこを少なくとも三回は教えましたよっ!なのにまったくアレン様ときたら・・・・・・歯ぁ食い縛れ! おりゃあ!」
「ひっ」
「・・・・・・あの、何してるんですかテイムさん」
「お?クィルのマネしてみた。よくやられたんだよな、アレ」
どうやら湊生は幻覚のような物が見えていたようだ。
実際は、クィルの物真似をしたテイムが圧し掛かろうとしていただけ。
流石クィルに家庭教師をして貰っていただけあって、特徴が掴めている。
湊生は彼女から直接勉強を教わったことは幸いなことに無いが、近くで綾乃が踏まれている様を何度も見ているのだ。
想像が出来る分、効果は絶大であったようで固まっている。
それくらい怖れられるクィルはもっと格闘技系で優勝してそっちで活躍すればいいのにと思わずにはいられない。
知識はあるし、彼女に教えられた内容は嫌でも忘れない。
でも、先生には向かないんじゃ。
そう誰もが思う女傑だ。
クィルは勉強を教える時、必ず大きなテーブルの向かい側に座っていた。
その上彼女は超ド近眼なのに眼鏡をかけてなかったので、クィルの言葉からα波を受信して爆睡するテイムは、バレずに済んでいたのである。
けれどたまにそれが発覚することがある。
寝ていたおかげで勉強が当然全然分からない。
テイムがそれを白状したところで、
「歯ぁ食い縛れ! おりゃあ!」といつも圧し掛かりがくるのだ。
椅子に座っていた状態なので、いつもガターンという大きな音が立つ。
大抵次の瞬間にはテイムは完全に気絶していた。
ソファにクィルはテイムを担ぎ上げて連れて行き、寝転がせる。
そしてクィルはアレンの耳元に呟きかけた。
「・・・地球の守護神は氷属性で特殊能力は幻想。火星の守護神は火属性で回数。土星は地属性で把握。天王星は雷属性で強化・増幅。冥王星は闇属性で複写・・・」
こうして無理矢理覚えさせられるのだ・・・・・。
「クィルさん・・・・鬼です・・・」
そんな学習スタイルだと知らなかったレウィンはただただ苦笑するだけだった。