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太陽系の王様 THE KING OF SOLAR SYSTEM  作者: Novel Factory♪
第一章『光の掟』
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第一章『光の掟』・第一話『夕暮れの大地・常夏の城』Part4



「君は・・・・・この世界の人間じゃあない、ですよね」

 ごくり、と唾を飲み込んで、聞こえるか聞こえないかというほどに小さな声でその問いに答えを返す。

「私は・・・・・・せん」

「はい?何でしょう?」

「私は・・・・何も知らないんです」

「・・・・・それは・・・・・どういうことですか?」

「何も・・・・・覚えてなくて・・・・・」

「名前も、家も・・・・家族も?」

 こくり、と綾乃が頷く。

 少年は僅かに驚いた様子を見せたが、それは彼の中で確信へと変わる。

「じゃあやっぱりその可能性が高いです。きっと、記憶を飛ばされてしまったのでしょう」

「記憶が・・・・飛ばされた?それって・・・・?」

「近頃、いるんですよ。自分が誰か分からない、ここがどこなのか知らないという方が。でも、その人達は大体が次第に記憶を取り戻します。そうして、この世界と並行して存在する異世界が存在することが知られるようになったのです」

「異世界?」

「はい。その異世界はこちらより未来を進んでいるらしく、“表世界”と名付けられました。それに対し、こちらは“裏世界”と名付けられたのです」

「じゃあ・・・・・私は、その“表世界”ってところから来た異世界人で、こっちの世界に来る時に記憶を失くしちゃって・・・・・・でもそれは、しばらくしたら戻る、っていうこと?」

「そういうことです」

「・・・・・・・・。」

 大き過ぎる事実に、綾乃は考え込んだ。

 と、突然チチチと鳴きながら一羽の鳥が少年の頭向かって飛んで来て、そのままちょこんととまった。

 全身は基本黄緑色で、頭の辺りはオレンジ色。

 二色のグラデーションが愛らしい、スズメ位の大きさの小鳥だった。

 少年がそっと手を伸ばし小鳥を撫でると、小鳥も嬉しそうにその手に頭を擦り付けた。

「その、鳥・・・・・・」

「ああ、この子はですね、数日前出会ったんですけど・・・・・どうしてかついて来ちゃうんですよ。・・・・・ほら、クゥ。」

 呼ばれて、クゥという名らしい小鳥は、差し出された少年の手に移った。

 服のポケットから何やらクッキーのような焼き菓子を取出し、少年はそれを与え始める。

 はた、と何かを思い出したのか綾乃の方を振り返った。

「そういえば、持ち物で何か手掛かりになるものとかは無いでしょうか」

 綾乃の少し膨らんだ制服のポケットを指差す。

 どうやら、自分がポケットから焼き菓子を取り出したことでその可能性に行き着いたようだ。

 その意図を捉え、ポケットに手を突っ込んでごそごそと手探りで捜索を始めてすぐ、四角くて固い物体を出した。

「あ・・・・・何これ・・・・学生証?」

「何て読むんだろう・・・・・こう・・・・おう・・・学園?・・・・・私立、皐嘔学園中等部二年A組・・・・・篠原綾乃?」

 そこに写る写真は、間違いなく自分のもの。

「それが、貴女の名前なのでしょうね」

「篠原・・・・・綾乃・・・・、それが、私の名前・・・・。記憶が無いからなのかもしれないけど・・・・・違和感無い」

「きっとそうですよ。貴女にお似合いの名です。違っていたら、記憶が戻ってから直せばいいんですよ」言って、少年が笑う。

「・・・・・・・あ、ありがとう」

 少年のあまりにも直球な言葉に、思わず顔を赤らめてしまい、更にはお礼の言葉が吃ってしまう。

「綾乃・・・・さん。改めて説明します。ここは、裏世界。そしてあれは、裏世界にある太陽国の城・太陽城です。太陽国は裏世界の国々を総合統治する、二大国家の一つで、現城主は太陽国第十二代国王サフィール=ヴァーイェルド様です。」

「これがお城・・・・・?あ!うわ、何!?」

 純白の城が、太陽国の特徴である夕日のようなオレンジとも赤とも言える色の光で、幻想的な感じに染まっていく。

 そんな様が、綾乃の目に映った。

「綺麗・・・・・」

「はい。」

 二人は見惚れ、その場に沈黙を落とすが、不意に綾乃が俯いた。

「ねぇ、私は・・・・・どうして城の中になんていたのかな・・・・・」

 けれど、少年はその問いに答えようとはしなかった。





「貴女は、これからどうするおつもりですか」

 どうって・・・・・。

 綾乃は明らかに不安そうな顔をした。

「やはり・・・・・。では、僕が国王陛下に取り次いで来ましょう」

「は・・・・・?そこで・・・・・どうして国王様・・・・・?」

 話が跳躍して、さっぱり分からない綾乃はポカンとしている。

「綾乃さんは、先程『どうして城の中にいたのか』と仰ってましたよね?思い出したのですが、つい先日王城にて何らかの儀式が執り行われたそうです」

「えーと、それで?」

 それがどうかしたのかと言いたげな視線を送る。

「表世界から人を召喚する儀式ではないのでしょうか・・・・・と、つまりはこういうことです。」

「それが正しかったなら、私がこっちに来たのは事故なんかじゃなくって、もっとこう・・・・意図的なものがあるってこと?」

「あくまでも仮定の話ですが」と少年は付け足した。

「でもでも、城にいたのは間違いないし・・・・・・何か聞けるかもしれないんでしょ。だから国王様に会うんでしょ」

「はい。その通りです」






「我々のような“パシエンテ”へのご支援、日々感謝申し上げております、国王陛下」

「おお、レン。気にするな。当然のことをしているだけだ」

 ・・・・・・あの人、名前レンっていうんだ・・・・・そういえば名前聞くの忘れてたなぁ。っていうか、“パシエンテ”って何?

 国王らしき男の言葉から少年の名を知るという、思わぬ形での情報入手に綾乃は内心そう呟いた。




 あの後、二人は城の衛兵に国王との謁見を申し込んだ。

 相手が相手なので、承諾される可能性は明らかに低いと思っていた綾乃は、『玉座の間にてお待ちです』という返答に少なからず驚いていた。

 だがそれ以上に驚いたのは、少年の態度。

『謁見をお願いします』と言った時の彼は、し慣れているようで全く動じていなかった。

 城の内装もよく知っていて、『こっちです』と国王の待つ玉座の間に誘導してくれたのも、衛兵ではなく彼だったのである。

 で、そんな彼は今、国王に挨拶の決まり文句を並べているところだ。

 一方『呼ぶまで待ってて』と言われた綾乃は少年の指示で、玉座の間のドアの隙間からこっそり話を聞いている状況である。

「ですが・・・・・・その為、私は陛下にご迷惑をお掛けしている身。申し訳なく存じます」

 どうやら、その“パシエンテ”というのを理由に、少年を含めた人達は何かして貰っているらしい。

 玉座から下りて、片膝をついたまま悲しそうな表情を浮かべる少年の前にしゃがみ込んで、国王・サフィールは慈しむような微笑みを向け、そっと少年の頭の上に手を置いた。

「だから、気にするな。お前は賢く冷静で、何より優しい。私はそんなお前を信頼もしているのだぞ」

「ありがたきお言葉・・・・・」

「だが、レン、実は今・・・・城内で騒動が起こっているのだ。緊急の用件以外は、控えて頂きたい。また後日、いや騒ぎが収束次第使いを送るから、その時話そう。時間を取る」

「お言葉ですが陛下、その騒動・・・・・よもや、大切な客人の消息が掴めないなどでは」

 待ってましたとばかりに口を挟んだ少年に、サフィールは驚きを隠せない。

 更に、離れたところで聞いている綾乃も、本題に入ったことを悟り気を引き締めた。

「・・・・・・そうだ。お前は本当に勘が鋭い。隠し事も出来たものではないな」

「その客人については?」

「気付いたのは半刻ほど前だ。この広い城内を総出で捜索させたが、発見には至らなかった上に、城下に下りている可能性があると、その客人を見掛けたメイドが証言したとも報告が来ている」言いながら、サフィールは玉座に戻ろうと少年に背を向け、歩き出した。

「陛下、私の話は・・・・・その件に関わってくるのです」

「・・・・・どういうことだ?」

「お目通り頂きたい者が御座いますが、お許しを頂けますか」

 問いの言葉を吐き、立ち止まったサフィールの是非を聞かずに少年は立ち上がり、綾乃が覗いているドアの方へ踵を返してまっすぐ突き進んでいく。

 サフィールの方は何事かとその様を目で追って行った。

 ドアが開けられ、綾乃が姿を現す。

「この方、名を篠原綾乃さんと申されます」

 ただ呆然としていた国王の表情が一変した。








『パシエンテ』という語は存在します。意味も一緒です。

スペイン語で、『paciente』と書きます。


何か気になる人、もしくは先読みしたい人は検索してみて下さい。

(ネタバレですが、えーと、はっきり言います。物語に関わってきますが、一話前を書く時に即断即決な感じで出来た設定なので、この小説を書くにあたって設定した謎の中枢にはリンクしません・・・・はい。)


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