第五章『火の掟』・第一話『宝玉の意味・湧き満ちる溶岩』Part3
綾乃は黄色の宝玉をサラに、水色の宝玉をテイムに差し出した。
それを受け取った二人は、直径十センチの玉を凝視する。
くるくる回しながら見ていたサラが不意に声を上げた。
「これ・・・・!このヒビは・・・・!!」
《ヒビ?・・・・お、ホントだな》
「サラちゃん、そのヒビからもう一人の貴女の魂は抜け出て、眠っていたサラちゃんの傍にずっといたんだって。」
《これを今、このタイミングで渡す訳は?》
湊生の表情が少し険しい。
場に会わない行動だと思ったのかもしれない。
綾乃は弁解しようと口を開いた。
「戦いになるなら、その宝玉を体内に取り込んでもらうのが一番かと思って」
どんな効力があるのかは分からない。
けれど、綾乃自身には何の力も無いから。
もしかしたら守り切れないかもしれないから。
宝玉を綾乃が持ったままでいること、それはつまり、綾乃が他の守護神達の命を握っているということ。
表世界で湊生が死んでも綾乃が死ななかったように、本来であれば例え表世界か裏世界のどちらか一方、あるいは両方が亡くなったとしても、また同じ魂を持つ者がそれぞれの世界に生まれてくるのだ。
その輪は無限に続き、絶えることは無い。
そうではあるが、今は表世界の者達が召喚され裏世界に来てしまっていて、宝玉の中に入れられてしまっている。
無理矢理、留めている状態にあるのだ。
湊生と綾乃は、中でも更に例外だった。
同じ魂を持ちながら、表世界で兄妹として生まれ、育ち、兄であった湊生が命を落とした。
魂は新たに生まれてくる訳でもなく、不安定なまま湊生は霊体として裏世界にやってきてそれを追うように後々綾乃も召喚された。
要は、表:裏が2:0から1:1(霊体)、0:2と移り変わって行っていたのだ。
二人の間に一時も安定した時など存在せず、常に不安定・・・・・。
《綾乃の言っていることも一理あるな。お前ら、それを取り込め》
「え、ちょっ、どうやってだ!?」
《飲み込め!!》
「無茶言うな!デカ過ぎるぞ」
「そうですよっ」
湊生とテイム、サラの言い合いが始まり、綾乃とレウィンは顔を見合わせる。
言い分的にはテイムとサラの方が正しい。
直径十センチの玉を飲み込むなんて不可能だ。
「で、湊生さん結局のところどうなんです?綾乃さんもご存じではないんですか?」
《知らん》
「私も・・・・・・でも、取り込むことが出来るのは確実だって。一体化した後・・・・・どうなるのかは・・・・」
「あ、綾乃さんが湊生さんと一体化した時は、確か・・・・」
性別は男性に。
でも外見は綾乃。
髪の毛は短くなり。
「もしかして、一体化することで要素を共有するのかもしれません」
《男になったのに綾乃の身長に変化が無かったのは、多分俺が十四歳で死に、本来なら十七歳だが成長は一切していないからかもな》
レウィンと湊生は冷静を始めた。
「なるほど・・・・」
「綾乃、お前意味分かんの?俺にゃさっぱりなんだけど」
「私も・・・・・」
アホキャラと見せ掛けて、意外にもエリート校出身の湊生と、普通校ながら情報処理能力のある綾乃は理解していた。
当然、言い出しっぺのレウィンは博識なので分かっている。
と、サラとテイムは宝玉を持つ右手に違和感を感じた。
「わわっ!?サラちゃん、テイム、宝玉が!!」
宝玉は、手から吸収されるようにして消えて行った。