第五章『火の掟』・第一話『宝玉の意味・湧き満ちる溶岩』Part1
因みに、タイトルの”溶岩”のところは”マグマ”と読みます。
《見てみろよー、綾乃》
「うん、これには毎度毎度驚いちゃうよね」
《入国時はいっつもこうだけどな》
綾乃は確かに、と頷いた。
今日、一行は火星国領土内に入った。
今回も国境線のこちら側と向こう側でまた大きく違っていたのであるが、地球国側は緑溢れる大地と壮大な海、火星国側は大地が所々に裂けて、マグマが噴き出し、火山もたくさんあった。
「何か、体内の水が蒸発していくみたい」
サラが喉を押さえ、少し辛そうな顔をした。
「私も・・・・・って、わぁ!?」
《おい!!》
突如溶岩が吹き出し、触れそうになった綾乃を湊生が突き飛ばす。
噴き出した溶岩は、そのままドロドロと大地の凹部に溜まっていく。
「大丈夫か!?」
「うん、大丈夫だよテイム」
「それならいいけど」
《触れるギリギリだったのに、熱く感じなかったのは変だな》
言われてみれば、溶岩の温度は半端ではない。
だから一定以上近付けばその蒸気でも火傷をしてしまう筈なのに、綾乃も、綾乃を助けようとした湊生も熱いとは一切感じなかった。
「表世界では熱く感じるのかもしれないけど、こっちでは触れなければ大丈夫なんだ」
「触れたら・・・・・どうなるの?」
恐る恐る綾乃が尋ねると、テイムは何も無かったかのように平然と答える。
「一瞬にして全身が溶ける、それだけだ」
《それだけってなあ、テイム・・・・!!》
いや寧ろそれが一番重大な問題なんだろうと言わんばかりの呆れた表情。
「火星国に民が住んでいた頃には、幼児が興味本位で触れ、死んでしまう事件が多発したとか」
いやそもそもここで暮らすのが間違っているんじゃ?とまた湊生は内心突っ込んだ。
どう考えても火星国は生活するのに適していない。
水も無く、食料も無い。
ただ無駄に火山が目につく。
「私、溶岩なんて初めて見た・・・・・」
《右に同じ》
「あら、そうなんですか?」と、サラは不思議そう。
「私達が住んでいたのは、地球国みたいなところで、ところどころにある火山が噴火しない限りは・・・・・・地中奥深くにある溶岩なんてお目に掛かることは無いのよね」
「豊かな国なのね・・・・・表世界かあ、どんなところなの?」
「興味ある?サラちゃん」
サラは深く、些か大げさに頷いて見せた。
流石に火星国は足場に不安要素がある為歩く時はそれどころではないのだが、落ち着ける場所とか寝る前とかに話すと綾乃はサラと約束した。
非常に嬉しそうなサラに、話すなら何を話そうかと考えてしまう。
表世界という自分の故郷に好感を持たれることは、我が身のことのように嬉しいものだ。
表世界の物語とか、学校でのこととか・・・・・話したいことは沢山ある。
それ程、表世界と裏世界の違いは顕著だ。
裏世界のように国境で空間同士が縫い合わされたみたいな季節や土地の急激な変化は無く、経度や緯度、その他大地の状態が異なることにより気候とかがだんだんと変わってくるのが表世界だ。
「綾乃は表世界から来たのでしょ?繋がっているのは繋がっているみたいだけど・・・・・。私、いつか表世界に行ってみたいな」
「うん。そうしたら、一緒に遊園地で遊んだり、ショッピングしたりしたいね」
「遊園地・・・・・?」
おおっと、と綾乃は苦笑した。
また表世界用語を出してしまったみたいだ。
そういえば、裏世界に来てすぐ、レウィンやサフィール王とのお茶会で出されたお菓子に向かって、マドレーヌだとかクッキーだとか、マカロンだとか言って、彼らに疑問符を頭上に浮かべさせていたことを思い出した。
「んー、何て言うか、遊べるところ。とっても楽しいんだよ」
お菓子と違って、これは非常に説明が難しい。
遊園地の説明をしようにも、概念が欠片しかない。
だから、例えることが出来ないのだ。
「綾乃がそう言うんだったら、それは凄く楽しいのね」
「うん、楽しいよ」
「じゃあ、もし、万が一行けるなんてことがあったら連れて行ってね」
約束、と二人は小指を絡ませ合った。