第四章『氷の掟』・第三話『火を吹く銃口・真紅の薔薇』Part3
《結構歩いたな・・・・・お前ら、足大丈夫か?》
コテージを出て、もう四日程経った。
地球国は横断するだけであったが、予想以上に時間が掛かってしまったのにはその他国とは一風変わった地形が原因で。
まあ仕方ないと言えば仕方ないのだが、こう野宿が続くのも如何なものかと思う。
女性陣が野宿にブーイングするのも分かるし、次の国の火星国なんてオール野宿の予定だ。
疲れが取れるかという点においても非常に気になるものがあるが、何といっても気遣わしげなのはテイムである。
どうやら四日前少し動いた気配があったレウィンは、以来一度も目覚めていない。
徒歩での旅であるから、誰かが背負うことにはなるが、まず女性陣には無理があろう。
男性陣は当のレウィンを除き、湊生とテイムの二人がいるが、湊生は魚のぬいぐるみに入っている為にその役割は自然とテイムに回ることになる。
――――の割に、飄々としているから全然平気かと当初皆思っていた。
それが今日の朝になって、途中から痩せ我慢していたことを口にしたのだ。
流石にこれには皆呆れ返って、けれど時々心配そうに声を掛けるようになった。
「お兄ちゃんは一切歩いてないように見えるのは私だけ?」
《“飛ぶ”と書いて“歩く”と読みます》
「結局“飛ぶ”って書くんでしょ。要するに飛んでるんじゃない」
《そうとも言う・・・・かな?》
飛ぶのには体力がどれ程消費されるのかやや気にもなるが、例え魚のぬいぐるみに人の魂が入ったものとはいえ、鳥が空を飛んだり魚が水の中を泳いでいるのと同じ感じで飛べるのだそうだ。
最初は見慣れなかった魚の飛行も、こう当たり前に悠々と顔の前を泳がれたら次第に慣れていく。
綾乃はもう完全にそれに対して違和感を持っていない。
逆に表世界に帰ってから、「あー、表世界の魚って飛ばないんだっけ」と言うくらいになるかもしれない。
本当に慣れとは時に恐ろしい。
「やっぱり意識の無い人間は重いな」
「赤ちゃんの例でよくあるよね。眠ったら重く感じたってヤツ」
《だな》
と、不意に綾乃の服が引っ張られた。
「レウィン・・・・・・まだ、起きないのかな」
不安げなサラの顔。
でも実際のところ、彼女自身起きて欲しいけど起きて欲しくないという“ヤマアラシのジレンマ”状態にある。
綾乃はそうとも知らず、ただその不安を拭い去ろうと考えた。
そうすることで、自分の不安をも消し去ろうとして。
「大丈夫、お兄ちゃんが言ってたでしょ、一回起きたみたいだって」
《そうそう》
「なら自分で歩いてくれたらいいのによぉ」と、テイムが悪態をついた。
その様子にサラは苦笑しつつも、それでもその瞳は憂いを抱えたままだ。
「でもレウィンはただの人間なの。私みたいではないわ」
「つまり、サラ、お前みたく健康状態に一切異常をきたすことなしに眠り続けることは出来ないってこったろ?」
《だから液体状の果物食わせてんだろ。問題ねえじゃん》
ハア、と綾乃は溜め息をついた。
問題大有りだ。
人間、そんな単純な造りはしていない。
「栄養も十分に取れないし、筋力も低下するでしょ。どこが問題無しなのよ」
《・・・・・おう、スマン。》
「サラちゃん、取り敢えずまだ待ってみましょう。一度起きたんだからまた起きるかもしれないわ」
「うん」
サラが一時的な笑みを浮かべた。
止められていた歩みが再開され、一行は今日中に着くと思われる火星国に想いを馳せた。