表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
太陽系の王様 THE KING OF SOLAR SYSTEM  作者: Novel Factory♪
第四章『氷の掟』
41/155

第四章『氷の掟』・第三話『火を吹く銃口・真紅の薔薇』Part2






 時は一時的に現在に戻る。

 夕食後、寝るまでの時間は各自自由に過ごすことになった。

 綾乃とサラは女子部屋に戻り、それぞれのベッドに寝転んでいるとドアがノックされ、湊生が顔を覗かせる。

「何、お兄ちゃんどうかしたの?」

《暇になった》

「テイムはどうしたのよ?」

《寝てる》

 キッチンを出てまだ二十分も経ってないのに、もう!?

 綾乃はテイムのその偉大な睡眠力に小さく溜め息を漏らす。

 湊生が宙を泳いで綾乃の隣に寝転ぶのを横目で見ながら、サラは自分のバッグを漁って一冊の本を取り出した。

「サラちゃん?その本は?」

 明らかに荷物の重量に大きな影響を与えていそうなその本を指差して、上半身を起こした綾乃が問う。

 湊生も興味津々に本を見る。

「昔・・・・・昔にね、レウィンが読んでいた本なの。読んでみる?」

「え?いいの?」

「うん。はい、どうぞ」

 サラは綾乃が非常に楽しそうに読むのを見て、かつてのレウィンを重ねた。

 そう、あれはレウィンが行方不明になる少し前のこと・・・・・。






「それ、何の本を読んでいるの?」

 サラの遊び相手であり、護衛もするレウィンは、毎晩サラが眠るまで傍に付き添っていた。

 その日も、金星城の書庫から借りてきた本の中から一冊持参してレウィンは主の部屋を訪れた。

 ベッドの傍らにある椅子でレウィンの読んでいる本は、3センチもある分厚いもの。

 サラには到底読む気にすらならない。

 けれど、物語は好きであるからよくレウィンから本の内容について聞いていた。

「あ、これですか?“宝石物語”です。ご存じありませんか?」

 レウィンは3分の2くらいのところに栞を挟み、本を閉じた。

 集中していたようなので中断させて申し訳ないと思ったが、今更で・・・・何というか、後の祭り状態だった。

「ないわ。ね、いつものように読んだところまでお話して?」

「はい、喜んで。これはですね、古代のとある帝国の、一人の巫女の悲しい物語なんです」

「面白そう。それで?」

 目を輝かせて飛び起きるサラに、レウィンは苦笑した。

 これは当分寝そうにない。

 だがレウィンにとっても自身が読んだ本について語るのは楽しいひと時である。

「昔々、アステマ帝国という国に強い力の巫女がおりました・・・・・・」

 レウィンは訥々とその本の物語を語り出した。

 内容はこうだ。

 エルサント大陸にアステマ帝国は二年前まで栄えていた。

 巫女の力を利用して他の国の技術力を遥かに凌駕し、とても恐れられていたものの、次期巫女候補である“サファイアの宝石を体の中に持つ少女”は力の制御が出来ずにいた。

 制御には精神の安定が求められても、生まれてすぐに親から引き離され、更にはずっと幽閉されている子にはどうしようもないことであったのだ。

「主人公の少年は、そんな少女のお目付け役兼話し相手となることになったのです」

「私にとってのレウィンみたいね」

「そうですか?ですが姫様は、その少女みたいに孤独ではないじゃないですか」

 いや別に、その点が似ている訳ではないの。

 そう思ったが、そうねと言って流した。

 物語は続くが。

 少年が少女に仕え始めて間もないある日、巫女の力が暴走して、少年の記憶を全て吹き飛ばしてしまう。

 その後少年は療養のために帝国を去り、少女は笑うことをしなくなった。

 当時、帝国には大きな陰謀があり、逸早く察知した少女はストレスに苦しむ自らの力を酷使してまで阻止しようとしたが失敗。

 誤操作を引き起こし、帝国の全てを粒子レベルまで分解してしまったのである。

「少女は!?少女はどうなったの!?死んじゃったの?」

「大丈夫ですよ、姫様。少女はですね、直前に小さな鍵の宝石に取り込まれてしまっていて、難を逃れるんです。逆にこれが、後々問題にはなってくるのですが」

「良かったぁ・・・・・」

 安堵し、嬉しそうに笑うサラに、結末を知るレウィンも微笑んだ。

「では続きを読みますね?」

 事件後に訪れた少年によって発見され、少女は人間の姿に戻ったのもつかの間、逃げ回った末に力を悪用され、自分の罪を悔いながら『一度でも取り込まれた者のサダメ』として再び鍵の宝石に戻ってしまう。

「そして二人は………」

 言い掛けて、サラを見てその先を言うのを止めた。

 気付けば、サラは既に眠ってしまったのである。

「この先は、また今度お話しますね。おやすみなさい、姫様」

 下がった掛布を首元まで掛け直した。

 その時のレウィンの表情は、決して優しいものではなく、確かに慈愛には満ちてはいるがどこか申し訳なさそうな。

「この続きを・・・・・いつお話出来るのでしょうか。もしかしたら、もう・・・・・・」

 ベッド脇の明かりを消し、本を抱えてレウィンはそっと室を出て行った。





 続き、読んでくれるって言ってくれたのは。


 あれは・・・・・夢だったのか。


 結局、続きは自分で読んだ。


 間違いなく隣室で眠ったままの少年は、あのレウィンだが・・・・・・記憶が無くて。


 記憶を失っている間ならばいいが、もし目覚めて記憶を取り戻し、私が銃を向けたことを思い出してしまったなら・・・・・彼はきっと、自分の前から去ってしまうのだろう。


 確かに自分は姫で、彼は使用人の息子で私の側近だった。

 けれど、実際は実兄のフェンよりも本当の兄妹みたいな関係で。

 そんな身近な人が離れていく・・・・・・それが、怖い。



 お願い、離れて行かないで。


 私のことをどう思っていてもいい。


 どう思っててもいいから、だからお願い、傍にいて・・・・・・・・。











評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ