第四章『氷の掟』・第三話『火を吹く銃口・真紅の薔薇』Part1
謎だった半年前。
サラとレウィンに何があったのか。
どうしてサラは眠って死を望んでいたのか。
それが明らかになっていきます!
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とくん。
・・・・とくん。
心音が、嫌に大きく耳を打つ。
お兄様とレウィンの間には、私が知る限り、良好な関係が築かれていた時など存在していなかったように思う。
思い出しても涙が伝う・・・・・。
だって、だって・・・・・まさか、お兄様が、あ・・・・あんなことをなさるなんて考えもしなかったんだもの・・・・・・・。
半年前・・・・・
「あれ?いつもはそろそろ朝食の支度が整ったって誰かが部屋にやってくる筈なのに・・・・・何かあったの・・・・?」
お腹を空かせて室を出て。
辺りを見渡しても人気は一切無く。
両親の部屋に行けば、彼らはまだ深い眠りについていた。
使用人達も、誰一人起きて活動している者はいない、そう思った時、サラの兄であるフェンだけは何も無かったかのように自室から出て来た。
事態に混乱し、どうしていいか分からないサラは、あまりの不安感に苛まれ、殆ど衝動的に兄に抱き着く。
大丈夫、大丈夫と背を撫でてやるフェンの口元が怪しい笑みを浮かべた。
ふうっと、サラは自分の身体が自分の身体ではなくなっていくかのような感覚を覚える。
一応意識はある―――それも、遠退いた気はするけれど。
それよりも、思い通りに体が動かない方が問題だった。
遠退いた意識の中、そのくらいのことしか考えることは出来なかった。
不随意的に、足が一歩前に出る。
微かに視界にぼやけて見えるのは、サラの身からいつの間にか離れ、手を差し伸べてくる兄。
それに体は勝手に応え、手に手を重ねた。
「お、お兄様・・・・・・!?」
辛うじて口を動かし、言葉を紡ぐ。
白き金星城のその全てが、冷酷に映る・・・・・。
「サラ。共に行こう・・・・・お前にも、仕事がある」
何をしようとしているの・・・?
今、こんな状態の時に・・・・。
フェンの後を体が勝手に動いてついて行って、着いた場所はオアシスの果て。
オアシスと砂漠の境界であるのにも関わらず砂嵐が吹いてくることの無い、人通りのまずない場所。
ここで、一体・・・・?
ふと、遠くに人が見えてきた。
その人は、どんどんとこちらに近付いてくる。
自分と兄以外にも起きている人がいるという喜びは、その人が誰であるかということが分かった途端に消えた。
“レウィン”
そういえば、レウィンは起きているのか確認していなかったことを思い出す。
フェンの前に虚ろな瞳のサラは立ち、レウィンはその3メートル手前のところまで来て立ち止まった。
「ひ、姫様!!如何にしてここに・・・・・!!」
サラの姿を目に映し、明らかに驚いた表情を見せたレウィンは、次の瞬間苦虫を噛み潰したような顔をする。
答えようとしたサラの意識は、尚遠ざかっていく。
もう何も分からなくなった。
何かを叫ぶ彼―――レウィンの声は、実際の距離よりも遠くに聞こえた。
すぐ後ろに立っている兄の声さえ、風が木の葉を揺らす音に過ぎない。
「・・・・・・の手によって死ね、レウィン!!」
彼が頽れ、鮮血が飛び散る様を目にして、サラは初めて自らが何をしたのかを悟る。
震える手からこぼれたのは、1丁の銃。
その銃口からは細い煙が立ち上る。
「い・・・・・嫌・・・・・・いやああああぁぁっ」
一気に意識が戻ってきて―――そのあまりの事実にサラは意識を手放した。