第四章『氷の掟』・第一話『新緑の岬・崩れし均衡』Part2
木星国――――――。
その名の通り、木々の生い茂るとても豊かな国。
特にそれ以外に土地的な特徴は無いのだが、違う点において他国とは大きく違う点がある。
それは一先ず置いておいて、木星国の王家はトルドール家。
現守護神はスティリア=トルドール、略名はステア。
この国では、数十年前に大災害が起こったことがある。
救助と復興はある一家によって成された。
それが、トルドール家。
比較的金持ちの部類に入るトルドール家の活躍により、大災害で出る筈だった被害が格段に減った為、その栄誉を称え―――“永世王家の証”を太陽国側評議会にて決定され、魔力持ちとして生まれたステアはその家に引き取られたのであった。
「という感じですね」
「何かちょっと複雑?」
「まあ・・・・・はい。でも、家族関係は良好だそうです。おそらく、木星国守護神はあっさりと仲間に出来るんじゃないですか、テイム様?」
「あー大丈夫。ステアには俺からちょちょっと声掛けたらそれでオシマイ。アイツと俺は守護神同士年齢が近いから腐れ縁っていうのがあってなー。ま、王子仲間にここの国のフェンってヤツが同い年にいるけど」
やっぱ守護神同士の絆の方が嫌程深いんだよな、とテイムは嫌そうに言う。
その表情が何とも言えないもので、綾乃もレウィンも苦笑した。
不意にレウィンがテイムには見えないように綾乃に向けて手招きしてきて、そっと何かを耳打ちした。
“尻に敷かれているらしくて、殆ど僕状態なんですって”
綾乃はテイムの方を見て、ぷ、と噴き出した。
「な、何だよ!?」
「へーえ。ステアさんに弱いんだぁ。ちょちょっと声を掛けるんじゃなくって、土下座しまくって頼み込むのねー」
「・・・・・・!!!!おい、レウィン!!しゃべったな!!」
「何のことでしょう?」
と、レウィンはそっぽを向いて誤魔化した。
綾乃は綾乃でにやにやしながらテイムを見て。
水星国では本気で殺意を持っていた二人だったが、だんだんとテイムを受け入れてきた・・・・・・ということだろうか?
「あははははははっヒー助けて!お腹がっお腹が痛いあははははは」
「笑うなー!!」
「ツボったんですね。実は笑い上戸!?」
「お前も冷静に分析するなよ!!」
「あはははは」
「だからそれ以上笑うなー!!」
笑い続ける綾乃の頭を軽く殴り、両肩を掴んで前後にガタガタ揺らすも、笑いは止まることなく。
「と、止められなっあはははは」
堪えようとすればするほど、笑いは増して。
同時に腹痛も―――増した。
笑い死にするっていうの、わかるかもしれない。
「はあ、やっと落ち着いた・・・・・で、そういえば木星国の大災害って?」
「流石に詳しいことは知らないんですけど・・・・・地震とか洪水みたいなものじゃありません。確か、木々が枯れ、その大地が原因不明の荒廃を見せた・・・・とか」
「冥王星国の動きが際立ってくるまで気付かなかったが・・・・やっぱそれも、冥王星の陰謀なんだろうな」
「はい。僕も、そう思います」
まず、太陽国は王位を継げる後継ぎがいない。
そもそも、ヴァーイェルド家は本来王家の任を果たしたためにその位を下りなければならない。
それは、守護神を輩出した家が王家となるからである。
もう守護神のいないヴァーイェルド家が王家で居続けるのは本来おかしいのだが、そこには例外がある。
現太陽国守護神であるのは裏世界の太陽国の住人の誰かではなく、表世界の既に死した少年であるということだ。
だからヴァーイェルド家が引き継ぐこととなったが、サフィール以外のヴァーイェルド家の人間は流行病で死んだ。
子供が生まれない、という問題もあったため、二、三人の死でそのような事態にまでなってしまったという。
次に、水星国。
水星国は水の減少が始まっており、旧王家が冥王星国の力を借りて実質的な権力を得ている。
今はまだテイムの存在で全てが旧王家の手中にある訳では無いが、テイムが失脚した時点でおそらく冥王星国は旧王家までも切り捨て、水星国を我が物にするだろう。
おまけに、テイムの一家は旧王家に皆殺しにされているのでこちらも跡取りはいない。
そして金星国。
無事に解決はしたものの、守護神であるサラが眠り続けるという事態に陥った。
原因であるレウィンに何らかの小細工をしたという説が高い。
で、木星国のその荒廃も、冥王星国の仕業かと。
「こうして考えてみると、至る所に潜んでるっていうか、手を伸ばしてるっていうか・・・・・安心していられないね・・・・・・」
「まだ他にも企んでいるんだろうよ」
綾乃もレウィンも、眉を顰めて深く頷いた。
「ねえ」
と、綾乃は俯いてテイムに向けて言った。
「あん?何だよ」
「水星国で・・・・・貴方には、殺されるかもしれないっていう恐怖を味合わさせられて、本当に嫌いだった・・・・・・。でも今、こんな状態だから・・・・・貴方を、頼りにしたい。和解・・・・・したい」
え、と急に切り出したその話の内容に、レウィンもテイムも驚いた。
テイムの表情は真剣なものへと変わり、レウィンは少し不安げな顔で二人を交互に見遣る。
「俺が悪いのはわかってっから、お前次第だ」
「一応、貴方が・・・・・・国のことを思ってとった行動だってことも分かってる。だから・・・・・・その、よろしくお願いします」
綾乃は立ち上がって、テイムの前まで歩いて行くと、そっと右手を差し出した。
拍子抜けな展開に、テイムは苦笑いを浮かべ、握手を交わす。
「お・・・・おう、こちらこそ」
「あの、テイムって呼び捨てにしていい?」
「別にいいけど」
何だか照れくさそうな二人の後ろで、レウィンはにっこりと微笑んでいた。