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太陽系の王様 THE KING OF SOLAR SYSTEM  作者: Novel Factory♪
第四章『氷の掟』
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第四章『氷の掟』・第一話『新緑の岬・崩れし均衡』Part1



 夕暮れのような橙色の光が差し込む太陽城の大広間。


 無人のその部屋に、同じテンポで時刻む古い大時計の秒針の音が響き渡る。


 それが不意に、動きを止めた。


 何の因果があってか――――その刹那、何かの歯車が音無き音を立て、崩れ落ちた―――。







「本当に・・・・・大丈夫なんですか?」

 氷の浮かぶ冷えた水に布を浸け、限界まで絞ってから湊生の額に乗せた。

 湊生の中身は生身ではないが―――霊体で、それがぬいぐるみにずっと入っていたのだ、やはり負担が掛かっていたのだろう。

 金星城のレウィン用の部屋で、湊生はセミダブルのベッドを占領する湊生の体温は異常に熱い。

《大丈夫じゃねえ・・・・喉痛ェ・・・・鼻水も鬱陶しいし・・・・・》

「風邪・・・・・かなぁ?」

「症状はそんな感じですねー」

 口元に拳を当て、二人は辛そうにしている湊生を見た。

 大量に汗が流れ、息も荒い。

「熱が高いのが・・・・・ちょっと。湊生さん、少なくとも今日はゆっくり休んで下さいね」

《おう。そうさせてもらう。悪いな》

「いえ」

 カタリ、と小さな音が耳に届き、綾乃はドアの方を見た。

 僅かに開いたドアの隙間から、覗く青い綺麗な瞳。

 誰かは・・・・・すぐに、分かった。

 まだ湊生と楽しげに話すレウィンを残し、そろりと綾乃は室を出た。

 開いたドアに驚いたらしく、サラは一歩後ろに下がる。

「サラ姫?」

「え・・・・と、その・・・・・・」

「・・・・・・?」

「な、なな・・・・何でもないの!!ごめんなさい!!」

 サラは、顔を赤くして背を向け、走り去っていった。

「何だったの・・・・・・?」

「綾乃さん?」

 呆然とサラの去った方を見て立ち尽くす綾乃に気付いたレウィンが、室から出てきた。





 サラが目覚めて、既に三日経つ。

 彼女が同行の意を示して間もなく、テイムが国王夫妻を呼びに行った。

 戻ってきたテイムの後ろには、国王夫妻だけでなく金星城の使用人全員だと思われるほどの人数がくっついてきて、室内が人に溢れ返って―――、綾乃達は早々と室を出ることになったのだ。

 出る時一度立ち止まり、振り返ってその目に映ったのは、久しぶりの娘の元気な姿に号泣して抱き締めるシャネッタ王妃と、心配をかけたことを申し訳なく思っているのかされるがままになっているサラだった。

 取り敢えず、それ以来お祭り騒ぎで。

 やっと落ち着いたと思った頃、湊生が体調を崩した。

 あと、サラの同行の件だが。

 事前に報告がいっていた為、サラを起こしたお礼だと言わんばかりに思いの外あっさりとサラの同行を許可してくれた。

 サラの両親は、起きたと知るなり旅の準備を女官に命じてくれていたようで。

 綾乃は、ずっと複雑な思いを抱いている。

 サラが一緒に旅をすることに。

 あと二月の命と言われていた金星国守護神・サラ。

 長きに亘るその眠りが絶たれ、彼女はその最悪の事態を逃れた。

 危機を救ったのは・・・・・レウィンだった。

 昔からサラに仕えていたのは、おそらくレウィンその人で。

 またその眠りの原因になったのも―――おそらく彼。

 記憶は無いというが、彼らの関係は主従関係だけだったのか。

 それとももっと親密な――――!

 綾乃はそこまで考えて、恐怖に頭を抱えた。

「それは、嫌・・・・・・」

 と、コンコンと戸を叩く音がして。

 綾乃は「はい」とだけ答えた。

 部屋の主の許可が出たにも関わらず、戸は恐る恐る、戸惑いがちに開かれた。

 そこから、レウィンの顔が覗く。

「綾乃さん?今いいですか?」

「うん。どうぞ。そこの椅子に座って」

 言われた通り、綾乃の近くにある椅子にレウィンは腰を下ろす。

「湊生さん、少し落ち着いたみたいです。早く治ればいいですねー」

「そう、ね・・・・・・・」

 綾乃の様子を訝しげに思って、レウィンは覗き込むように綾乃の顔を見た。

「最近・・・・、綾乃さん様子がおかしいですよね」

「そ・・・・・そうかな」

「はい。何かあったんですか?」

 どこまでも真剣なレウィンに、綾乃は目を背けた。

「な、なな何でもない、よ」

「吃ってますけど。・・・・・まあ、言いたくないのでしたら、それはそれでいいです」

 レウィンの性格からして、無理矢理言わせることは無いだろうというのは分かってはいたが、綾乃には何だか突き放された感じがした。

 こういう時、放っておいてくれと思いつつ、気に掛けて欲しいと思うのは我が儘だろう。

 そうは思うけど。

 気になって、俯いた顔を僅かに上げてレウィンの顔を見れば、深いバンダナから覗く口元は笑みを乗せていた。

「いつか、言えるようになったら。言って下さい。相談にだって乗りますから」

「・・・・・・ありがとう」

「ね、エスティ君」

「何ですか?」

「これで、二人目だね」

 笑って言うと、レウィンは一瞬驚いた顔をしたが、すぐに微笑んだ。

「正しく言えば、湊生さんを含め三人ですけどね。あとは二人、木星国守護神と海王星国守護神ですが・・・・・・」

「何?」

「海王星国には出来れば行きたくないですね」

「どうして?」

「土星国からは、冥王星国の直轄地だからだ」と、許可なく室の中に入ってきたテイムは、綾乃とレウィンに“話し声が聞こえてきた”と言った。

「あ、テイム様」

「次に行く地球国は、はっきり言って放置状態にある。だから、太陽国サイドの民の一種の旅行スポットとなっているくらい安全なんだ。打って変わって、火星国は軍事基地があってな。危険なんだよ」

 火星国がそのようであるのは、第一防衛ラインとしての役割があるからなのだという。

 因みに、土星国は第二防衛ライン、天王星国は第三防衛ライン。

 故に、たとえ火星国を抜けることが出来たとしても、海王星国に行くのは相当難しいのである。

 何故地球国が放置されているのかというと、これはあくまで推測の域だが、やはり地形的に合わないのが原因なのではないだろうか。

 地球国は、海が広く山も多く、凸凹している。

 隠れやすくはあるが見渡し難く、戦争には適していないのだ。

「なら、本人に木星国まで出て来てくれるように言えないかなぁ」

「無理でしょう。海王星城の使用人すら、王子の姿を見たのは海王星国守護神の継承の儀だけだそうですから。何でも、死亡説とか替え玉説もあって、そもそも実在もしないのではないかとも言われているんです」

「うむ。俺もそう聞くな」

 レトゥイル=シェイレ、海王星国第一王子にして守護神。

 仲間にするのは・・・・・どうやら難しいようだ。

「じゃあ、木星国のは?海王星のことは金星国との繋がりの話で聞いたけど」

「はい、ご説明します」






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