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太陽系の王様 THE KING OF SOLAR SYSTEM  作者: Novel Factory♪
第一章『光の掟』
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第一章『光の掟』・第一話『夕暮れの大地・常夏の城』Part2



「お兄ちゃん・・・」

 道路脇のアスファルトの、血が付着しているところ。

 篠原綾乃の三歳違いの兄・湊生は、三年前そこで死んだ。

 一見事故の例としては在りがちな―――トラックがコンビニエンスストアに突っ込むという事故で。

 でも、その事故は単なる事故ではなかった。

 誰も。誰も、乗っていなかったのだ。

 それにも関わらず、トラックは道路を走り、突如として右折して。

 歩道を歩いていた下校中の湊生を撥ね、そのまま近くのコンビニに突っ込んだ。

 運転手はいなかった。

 目撃者はそう訴えた。

 後にトラックの持ち主は発見されたが、100パーセント確実のアリバイがあった。

 警察は轢き逃げ事件として処理し、今もなお捜索中である。

 犯人など、見つかるはずが無い―――綾乃はそう思っていた。

 だって。

 湊生は既に何度も同じような目に遭っていたから―――

 でもいつだって、心配する綾乃に「何泣きそうな顔してるんだよ。大丈夫だって」と、事故に遭った張本人のくせに、まるで何も無かったかのように笑いかけてくれたのだ。

 だから、死んだのが信じられなかった。

 自転車が最高速度になっている時に限って、ブレーキが利かなくなって崖スレスレのところで横転したり。

 頭上に八階建てのビルから鉄骨が降り注いできたり。

 本当に、そんなことはしょっちゅうで。

 その都度、二人の母である明日香は気を失いそうなまでに心配していた。

 無事なことに、異常なまでに安堵して。いちいち泣いた。

 綾乃には、どうしても自然現象には思えなかった。

 もっと、こう―――、意図的な。

 そういう点で湊生は、所謂不幸体質とは明らかに異なっていた。



 もう、彼はいない――――。

 綾乃だって、分かってはいる。ただ、認められないだけで。



 其の時、暗闇の中で立ち尽くす綾乃の目の前に兄の姿が映った。



《待って》



 駆け寄ろうと一歩踏み出す。



《待って・・・・行かないで》



 距離は、一向に縮まることなく。

 寧ろ、近付こうと歩いた分だけ離れていった。

 だんだんとその存在が、薄れて。

 記憶が、拒否するかのように湊生の存在する記憶の断片を吐き出していく。

 気付けば、偶然目に留まったのが兄だっただけで誰か限定といったものではなかったらしく、他の人達も写っていた。

 お父さんに、お母さん、近所の人に貰ったばかりの子犬のメイ・・・・

 その今までの何もかも全ての記憶が、ガラガラと崩れていっていった。

 抜け落ちて、空のようになっていく心。

 それを、綾乃は為すすべも無く受け入れるしかなかった。








(・・・・・ここは、どこ?)

 目覚めた少女は、記憶を全て手放した状態だった。

 表世界から裏世界に来る過程で何らかのショックが加わり、そうなることはよくある。

 おそらく、七人のうち少なくとも半数はそうなっているだろう。

 上半身をゆっくり起こし、自らのいる部屋全体を観察した。

 綾乃の眠っていたベッドの横には、外開きの大きめの窓があり、近くにはベランダもある。部屋の中央には円形のテーブル、そこに椅子が二脚、壁際にはドレッサーやクロ―ゼット等が備え付けられていた。

 全体的に、桜色で統一されている。

 いかにも、女の子の部屋っていうか。

 見たことがない部屋なのは、明確だった。

「・・・・・・!」

 窓の向こう。

 そこには、信じられない世界が広がっていた。

 普通ならば、太陽からの光に地面が照らされているはずなのに、その真逆の光景がそこにあった。

 地面が黄色ともオレンジ色とも赤色とも言える色に輝き、空の彼方は暗黒の闇だった。

 まるで、太陽から宇宙を見渡しているようで。

 すごく、すごく綺麗だけど。

 怖くなった。

 身体が震え始めて。

 記憶を失い、感情に乏しくなった彼女が最初に抱いたもの、それが恐怖だった。

 美しい世界への、感動ではなく。

 綾乃は、不意にベッドから降りて駆け出した。

 ベッドから対極的な位置にあるその部屋のドアを、乱暴に開ける。

 開けっ放しのまま、近くの螺旋階段を駆け下りた。

 ここは。

 ここは、一体どこ。

 自然と、目頭が熱くなっていく。

 なんだろう、直感的にだけれど、帰れない気がして。

 そうしてふと、気付く。

 帰るって、いったいどこに?

 脚の動きが鈍くなり、ついに止まった。

 そうして、また意を決したように走り出す。

 周囲に構っている暇などなくて、エプロンドレスを着た小間使いらしき女の人達に何度もぶつかったけれど、それどころではなかった。

 女の人達の焦った声と、食器が赤い絨毯が敷かれた床に落ちて割れる音がしたが、それどころではなかった。





 一階まで下りてきて、玄関と思われるドアを思いっきり開いた。

 そうして綾乃は、目の前に広がる世界に絶句した。

 窓から見えた、そのままがそこに映る。

 夢では、ない――――。








「どうして、泣いているのです?」

 その声に、綾乃はびくりと肩を震わせた。





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