第三章『砂の掟』・第一話『金砂の都・欠如した記憶』Part2
『――――ねえ・・・・今、アナタはどこにいるの?”レウィン”――――』 砂漠の国である金星国は、不可触賤民出身の王(通称”奴隷王”)によって治められている。 その娘であるサラ(サラネリア=ノーリネス)の、護衛兼遊び相手として彼女に仕えていた使用人の息子が、突如行方不明になってしまった。 二年後。久々にサラは彼と再会することになったが・・・・・・!?
「また見たんですか?例の・・・・・変な夢」
朝ではあるが、まだ日が昇ってないくらいの時間帯。
夢が途絶え次第そのまま飛び起きた綾乃は、もう寝られそうになく、近場の大きめな岩に腰を下ろして呆けていた。
そこに後ろから心配そうな声が掛けられ、綾乃は驚いて立ち上がる。
背後にいたその人も、急に立ち上がった綾乃に驚いたようだった。
「エスティ君!?どうしたの!?あ・・・・・もしかして起こしちゃった?」
「いえ。その前から起きてました。それで、綾乃さんずっと魘されていましたから・・・・・また夢見ていたのではないかと思いまして」
「見たけど・・・・・夢・・・・・じゃないんだと思う。ね、エスティ君・・・・・・もしかして金星国の守護神、名前・・・・・サラだったり・・・・・・する?」
自信無さ気に聞けば、レウィンはあっさりとそれを肯定した。
「金星国の守護神はサラネリア=ノーリネス様で、彼女の愛称は・・・・・確かに、“サラ”であると聞いたことがあります」
《ただの夢じゃなさそうだな・・・・・》
自然に会話に入ってきた湊生に、またまた綾乃は驚く。
「わっ!?お兄ちゃん!?」
「俺もいる」と、水星国守護神のテイムも木陰から姿を現して主張した。
綾乃が再度起こしてしまったか問うと、二人は不機嫌そうに頷いた。
どうやら綾乃が飛び起きた時二人はレム睡眠状態であったらしく目が覚めてしまったのだという。
もう一度寝ようとしていたらまず綾乃が、次に綾乃を追ってレウィンがどこかへ行った為、気になってついてきたのだった。
つまり、話は一部始終聞いているということだ。
綾乃が先程まで座っていた岩に座り、腕組みをしてふんぞり返っているテイムは、綾乃の方を突然指差した。
「湊生の言う通り、アンタの見たっていう夢がただの夢じゃないのは間違いないな」
「うん・・・・・・」
「でも、待って下さい!これも伝え聞いたことですけれど、姫は昏睡状態にある筈です。そんな彼女が夢に現れたというのですか!?」
《昏睡状態?どうすんだよ、協力して貰えないじゃねえかー》
言いながら、湊生は取り敢えずそこらの岩に腰を下ろした三人の周りやその真上、時々目の前を泳ぎまくる。
テイムは何故か空中を泳ぐぬいぐるみに興味津々なようで目で追っており、一方レウィンは気にも留めていない。
綾乃に至っては一番酷く、湊生がノーテンキそうな顔をして目の前に来る度に、うっとうしそうにハエの如く手で払った。
「夢に出て来たのは、本人じゃなくって・・・・・表世界のサラ姫。二十数歳くらいのお姉さんで、名前は鈴木砂羅っていうんだって」
「夢を通じて、こちらに干渉してきたみたいですね」
拳を口元に当て、レウィンは考察を立てる。
メンバーの中で一番知能指数が高いと思われる彼に難しいことは任そうという考えの元、湊生は話題転換した。
《そういや、表世界の昔の人は、“夢に出てくるのは相手が自分を想ってくれている証拠”だって考えたんだってよ》
「そうなんですか?何だかロマンチックですね」
「いーや、そうでもねーと思うけどな」
「どうしてですか?」
「不毛だけど、私もそこの人と同意見」
良く思うレウィンに対し、テイムも綾乃も異議を唱える。
まだまだ打ち解けるまで時間が掛かりそうな様子に、思わずレウィンは苦笑した。
「不毛って・・・・・しかも、“そこの人”扱いかよ・・・・・」
《あのな、レウィン。夢は本当はそうじゃねーだろ?昨日お前が言ってた通り、夢ってのはその人の中に眠る潜在的な願望や記憶が関係していると言われてる。そうだよな?》
「はい。学術的にはそうであると・・・・」
《つまりだ。もし、誰かのことを想って想ってやまない奴がいたとする》
そのたとえを引き継ぎ、テイムが説明。
「けど、相手の夢にはソイツはいくら想われていても現れなかった。そして相手は思う・・・・・・・“あの人は、本当に私を愛しているのか”と」
「ああ、なるほど。疑われてしまうからなのですね。そうは考えませんでした!」
「にしてもお兄ちゃんどうして知ってるの?それ、高校の古文の内容じゃないの?」
《友達がさ、前に平安時代に関する本読んでたことがあってさ。教えて貰ったんだよ》
「へえー」
感心する綾乃の肩を、隣に座っているレウィンがとんとんと叩いた。
何、と振り返れば、言いにくそうにしながら
「あの・・・・話・・・・・・ズレていませんか?」と言ってきた。
綾乃の頭上でバタフライから平泳ぎ、背泳ぎにクロールという、昔水泳教室に通っていた時にした個人メドレーを一通り行った湊生は、飽きたらしくレウィンの頭に落ちてきた。
近頃、因みにそこは湊生の指定席となりつつある。
湊生曰く、皆とは違ってバンダナをしているレウィンの頭の上は寝心地がいいとか。
とか言いつつも、頭上だけでなく腕にへばり付き、独力で飛ぶことをサボっていることが多くなってきている。
綾乃だと真っ先に拒絶されるから、そうはしないレウィンの元にいるらしいが、結局のところ剥がされるのが常だ。
《んあ?っていうか、さっきまで何の話してたっけ?》
「忘れるの早っ!!こんな奴に裏世界任して大丈夫なんだろうか不安になってきた・・・・・・」
「右に同じです・・・・・。テイム様、湊生さんに水星国乗っ取り返すために冥王星国を倒す計画には、他の方法を採用した方が得策かもしれませんね」
「分かってくれるか・・・・・?」
「この件に関しては・・・・・そうですね。湊生さんは太陽大命神に向かないかもしれないと常日頃から感じていますし・・・・・」
テイムは政権を奪い返し、肉親を片っ端から殺された復讐を企んでいる。
まだこの問題は解決に至っておらず、一旦保留という形を取っている。
向こうのバックに冥王星国がいるため、やはり長期戦になるのだ。
その鍵になるのが綾乃であり、湊生である。
《好き勝手言ってくれるなお前達。ちょっとは口を慎め》
「お兄ちゃん、二人とも間違いは言ってないと思うけど。私も何気に、お兄ちゃんが、っていうのに不安だったというか」
《あ~や~の~!!!》
「ほ、ホントのことだもんー!!」
「だから、本題の方に戻りましょうって」と、やはり話は逸れる。
「だな」
言い出したのは自分にも関わらず、第三者のように呆れ顔で兄妹喧嘩を傍観するテイムも頷いた。
それからテイムの意見で、そろそろ戻ろうということで寝床兼国境までの移動手段としている乗り物の方へ向かいながら会話は続く。
「綾乃さん、夢から・・・・・他に何か分かったことってあります?」
「それが・・・・・その鈴木砂羅さんは、私に助けを求めてきたの。“助けて。助けて”って。おそらくは、サラ姫を指しての事なんだろうけど、“死んでしまう前に早く来て”とも言ってたの・・・・・・」
「死ぬ!?あのサラがか!?」
一気に全員が青褪めた。
慣れ慣れしい感じのその呼び捨てに、レウィンが尋ねる。
「テイム様は隣国の守護神仲間として交流あったんですよね」
「ああ・・・・・あったはあったが・・・・・関わりは薄かったな。どうしてかについては、レウィン、お前の方がよく知ってるんじゃないか?」
「水問題ですね?」と、レウィンは即答。
それに対してあっさりと「当たりだ」と肯定の言葉が返ってくる。
《水問題って何なんだ?それがどう関係してくんだよ?》
「水星国って聞けば、誰もが“水源の国”を連想します。ですが今、その水星国で確実に水の総量が減少していっているのです」
その問題は国民の不安を煽らない為に特に水星国内では極秘事項とされている。
だが既に国書によって各国の国王には伝えられている事実で、厚い信頼の元レウィンはサフィールから聞いていた。
「水の減少・・・・・・?」
水星国を通ってきた中で、小さな島の集合体みたいな国であるからずっと水は視界に入っていた。
けれど、減少しているだなんて気付かなかった。
しかもそれは、レウィンとテイムの口振りからして何十年、何百年も前からなのかもしれない。
この水星国は、そして隣国金星国では、一体何が起こっているの・・・・・・!?
またイラストを近々載せます!
活動報告もちょくちょく更新してますので、是非ご覧下さい!