第十五章『光の掟』・第一話『秒読みする結末・疑惑の未来』Part1
綾乃の意識が消失し、背中から金色の光が弾けた刹那。
格段に増幅した魔力に伴って感じる、己を含むその場にいる者達の魔力。
どれも色も質も違った。
暖かいもの、冷たいもの。
鋭いもの、やわらかいもの。
そして、大きいもの、小さいもの。
どれも同じものはない。
と、その中に別の気を感じてアレンは振り返った。
一つはサラから感じるレイトの魔力。
もう一つは俺の“中”から。
・・・・・感じたことは無いけれど、とても懐かしいものだった。
『君とその子が同化するということは、君の中に潜在的に眠っていた僕の、記憶を―――共有するということ。僕の過去に向き合って、君はそれを背負うことが出来る?』
声は、再度問う。
『君は、受け入れられるの?前世の姿である、この僕と・・・・・・僕の人生とその運命をも』
脳裏に直接響くその声に、アレンは当然、と深く頷く。
『俺は、正式に継承の儀を行った正真正銘の太陽大命神だ。もうとっくに覚悟は出来てるさ。・・・・・自分より、世界を選ぶ。その為には、大切な妹の綾乃でさえ差し出す、冷徹な男なんだよ』
アレンは小さく苦笑する。
そんな人間は嫌だなあと思いはするけれど、良かれと思ってすることは大抵その判断により苦しむ者を生み、罪とその罪悪感なって俺に降り注ぐ。
『それに、・・・・・・ホリス。お前は俺だ。どんな過去でも知る義務がある』
『そっか。君は・・・・強いね』
魔力から感じる気が、ふわりと優しく揺らぐ。
『そうでもないさ』
『あははっ!じゃあそういうことにしておこうかな』
言った次の瞬間、アレンの中に膨大な情報が注ぎ込まれた。
うっと圧倒されながら、アレンはそれを受け止める。
浮かんでくるのは、一人の少年が、牢屋の中で鎖に繋がれ無飲食でただ蹲っている姿。
牢屋の前に立つ、衛兵の声。
そして、自らの父親と呼ばれる人と初めて会った時が、初めて牢屋の外に出た時が、その世界との別れの時だった。
甘い囁きに誘われて、どういうものか知らない『幸せ』という言葉を求めて。
鋭い切っ先に腹部を貫かれる痛みに耐える。
冷たい石の床に広がる赤い水溜りに、その身体は真っ赤に染め上げられていくのを、少年―――ホリスは見詰めていた。
『・・・・・声は僕の願いを叶えてくれた。でも今となっては、それが正しい選択肢だったのか・・・・・・』
『何でだ?』
不思議そうに、アレンは首を傾げる。
『その声の主が、ある代の太陽王だと言ったなら、事態は飲み込めるよね?君なら』
『太陽王ってことは、つまりそいつは冥王星王でもあるってことだよな。・・・・・更に言い換えれば、ある意味お前の父親ってことになるな』
『そうだよ。僕は父親の都合で殺され、父親の都合で生かされたんだ』
『その生かされた形が今の俺、って訳だな。それから、サフィールは待っていたんだろうな、俺と綾乃が今の形になることを。だから綾乃も大切にした。全ては計画の為に?』
『うん。未来の君の子を今に連れて来てるよね。同じ方法で、太陽王は時間を翔けた。魔力を奪うことが出来る今に、・・・・・僕の利用価値があるこの時代に、君という形で転生させる為に』
表世界に転生し、再び裏世界に戻って。
また”ホリス”は、父親に利用されて・・・・・。
ふと、思い出す。
ステアか誰かが、アレンに対して、「表世界から裏世界に、やってきたんじゃなくて、”帰ってきた”感じがする」と。
こういう・・・・・訳なんだな。
『結局は・・・・・上手いこと乗せられていたんだな』
『・・・・・・そうだね。ヤツの敷いたレールの上を辿っていたんだよね、僕達は。ただ、決定的な欠損があるんだって、僕は思うよ』
『え?』
『過去は一つだけど、未来は小さな行動一つで多分岐する。必ずしもやつの思い通りになるとは思えない。現に、可能性の未来では勝っているでしょう?』
『ああ・・・・確かに』
アレンは少し、拍子抜けしてしまった。
必ずこの戦いに勝て、同じ未来を辿るものだと思っていた。
確かに、修正を受けて同じ結末になる、というリフィアの見解も正しいらしい。
でも、その修正を受けたということは、過程が違うから他の時空と同じ結末を迎えたとは正しくは言えないということなのだ。
未来で聞いた内容を、時が過ぎて過去からやってきた自分に一字一句同じことを言うかといえば、そうではないだろう。
少しずつ、過程も、それに伴う結果もズレが出てくるのだ。
考えてみれば、辻褄が合う。
何故なら。
冥王星王でもあるサフィールが、何の為に未来で敗北すると決まっている戦いに本気になる?
未来を知らない者ならいいが、ヤツは未来に行っている。
未来が一つなら、無駄な足掻きなのではないか。
それくらい、誰だって気付く筈だ。
ならどうして・・・・・・。
さあっと青褪めたアレンに、ホリスは苦笑した。
『―――ホラ、僕らに、見落としてる何かがある気がしない?』