第十四章『闇の掟』・第二話『赤き血の海原・戦いを成す者』Part2
「震えてるわ」
アレンは、リフィアに言われて初めて自分が震えていることに気付いた。
腕を抑え、笑顔を作る。
「ゴメン」
「やっぱり怖いのでしょ?時間は必ず同じ道筋を通るもの。でも・・・・・」
「気付いてた?・・・・・カッコ悪いな」
ううん、とリフィアは頭を振った。
「アストレイン様が恐怖なさっているの?綾乃さんの事?それとも・・・・・・」
「綾乃の事で合ってるよ。俺は怖いんだ。戦いの為とは言え、決められた運命とは言え・・・・・・・綾乃を、俺が殺すんだ」
実の兄に、とアレンは言うと、ついに目尻から涙が溢れだして、リフィアに背を向けた。
未来の自分から渡された紙には、冥王星国に勝つ為の方法が書かれていた。
その方法を取れば、綾乃は・・・・・・・・。
リフィアは震える肩を見て居た堪れなくなった。
後ろから抱き着いて、ただ傍に寄り添っていた。
「・・・・・・・ありがとう、リフィア。泣いたら落ち着いたよ」
「泣ける時に泣かなければ。泣きたい時には泣けなくなってしまいます。出立は明日ですから、今日はゆっくりなさった方がよろしいですわ」
アレンは微笑んで、そっとリフィアの手を引いて自室を出た。
「信じられないけどさ、数年後の未来では、俺ら夫婦になってるんだよな」
「私も驚きましたわ・・・・・・・あ」
廊下の向こうから、とぼとぼとシャルテが歩いてくるのが見えて、リフィアは足を止めた。
「・・・・・・あの」
2人からの視線に耐えられなくなったシャルテが様子を窺うように声を発する。
リフィアが近付いていき、目線の位置が同じくらいになるようにしゃがんだ。
「貴女が、私達の娘・・・・・・・なのですわよね?」
「うん・・・・・そうだよ」
この三人でいたのはこれが初めてかもしれない。
出会ってから、いろいろなことが次々起こってゆっくりなど出来なかったし、シャルテはいつも砂羅や麗人と一緒にいて、話す機会も殆ど無かった。
「確かにあの未来は大きな損失と僅かな利益しか得られないと言われても。私にはそうは思えないのです。この子が生まれてくる未来・・・・・・それでも、ただ損失ばかり大きな未来ですか?」
急に振り返り、アレンの目を見詰めてそう問う。
その目は優しげで、落ち着いていて。
それでいて、厳しい。
頭を振って、アレンは二人の元に近付いた。
「守れるものも、大きいんだよな。可能性、希望、光、その全てを」
「そうですわ。お気持ちもお察し致しますが、大丈夫。アストレイン様はお一人では御座いませんわ。・・・・・・・私と、この子と、他の守護神様方と。だから」
「ああ」
アレンがシャルテの片一方の手を握り、リフィアがもう一方の手を握る。
その普通の親子のような行為もその事実も照れ臭いだけだったが、そこには確実に大切で守りたい物があって。
何故かアレンの心に熱いものが溢れた。