第十四章『闇の掟』・第一話『止まった砂時計・弾けゆく泡』Part6
サラは、あの後すぐに部屋を飛び出していってしまった。
その後を、麗人が追いかけていった。
こうなることは、わかっていた。
流石金星城で生まれ育っただけあって、どこに行ったのか分からなくなったが、レイトから譲り受けた記憶から、二人の思い出の場所を当たった。
思い当たる場所の最後のところ、太陽大命神継承の儀の前に行った、湖の辺に、サラはいた。
もう一人の僕・レトゥイルは、彼女――――サラネリア姫と、婚約していたという。
そんな状態で死を選ぶなんて、レトゥイルも心苦しかったんだろうな。
小さく丸く蹲るサラの姿が揺らぎ、サラの傍に砂羅が現れる。
砂羅は視線を感じたのか振り返り、麗人に気付くと近寄ってきた。
二人はサラの姿が辛うじて見える所まで移動し、小さめな声で話し始めた。
「本当に久しぶり・・・・・・会えて、嬉しかった」
「僕もです。受験合格して、一ヶ月したあたりで一回会って以来、ですか?」
「うん。あーもうホント、変なことに巻き込まれちゃったって感じがするわ」
ふ、と麗人が笑う。
「砂羅さん」
「何?」
「サラネリア姫を、支えてあげて下さい。もう一人の僕は、そのことを凄く心配していたようですから」
それは勿論、と砂羅は微動だにしないサラを視界に留めながら答えた。
「それはそうと、あの・・・・・・桜井君、彼女さんとは上手くいってるの?」
「はっ!?」
麗人はあんぐりと口を開き、思考を停止させた。
「その噂は、どこから・・・・!?」
「お母さんが、聞いたらしいの。その子の、お母さんから」
「その子・・・・・?」
「同じ学校に通ってる子」
ああ、と麗人は納得した素振りを見せた。
その意味が砂羅には分からず、首を傾げる。
「その噂、事実じゃないですよ。悲しいことに、僕は彼女いない歴=年齢ですから」
砂羅さんもですよね、と意地悪っぽく言うと、砂羅は頬を膨らませてそっぽを向いた。
基本砂羅が年齢が上なだけあったお姉さん的な態度を取るが、勉強を教えるという先生的な立場であったことから時折麗人が上から目線になることがある。
「ふん。どうせそうですよ。桜井君はモテるのに断ってて彼女いないんだから私とは違うのよね」
「好きでも無い人と付き合う訳ないじゃないですか」
「まあそうだけど」
麗人は苦笑した。
自分は分かり易い方だと思うのに、気付いてもらえていないのは些か悲しい気がしたから。
かくいう砂羅もそれなりにモテる。
牽制したいのは山々だが、年も学校も違う彼女の傍に居られる訳も無く。
砂羅には家庭教師とか、弟感覚で見られているとしか思えなかった。
友人に告白切りの原因を問われ、何も言うまいとしていたが、裏で噂が飛び交いそうになり家庭教師先の人が好きなのだと言った。
年上好き、と知れるといろいろ言われたが、例の砂羅が彼女だと疑った子は中学から一緒で、そのことも聞いていたのだという。
家庭教師を頼まれて了承して暫くして、何度か付き合ってと言われたが、それも断っていた。
麗人の好きな人が砂羅であると知れると、母親に”付き合っている”ということにしてもらい、砂羅から麗人を彼女持ちと思わせようとしたのだった。
「麗人君には、今いるの、そんな人・・・・・」
砂羅は、元々非積極的なタイプだが、サラとレイトを見て―――言える時に言っておかないと・・・・・・手遅れな気がしてきていた。
不安が渦巻き、でも裏世界の自分達が両想いなら、きっと自分も、と思えて。
「いますよ」と、麗人はあっさり言った。
「・・・・・誰?」
聞きたい・・・・けど、聞きたくないといった表情に内心笑えてくる。
「砂羅さんは?いますか?」
「・・・・・・・・・・・・・・いる」
「すっごい間がありましたね、今」
「き、気のせいじゃない?で、桜井君、その子、誰?」
「砂羅さんが言うなら。ギブ&テイクです」
「え、ええ!?ひ、秘密」
「じゃあ僕も秘密です」
挙動不審になった砂羅にそう切り替えし、麗人は笑った。
「そんなー」
「ねえ、砂羅さん。僕、実は裏世界の二人の事はそんなに心配しなくてもいいと思ってるんですよ」
どうして?と問う砂羅に、誰にも言わないようにと前置いて、
「だって・・・・・・・・」と根拠を述べた。