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太陽系の王様 THE KING OF SOLAR SYSTEM  作者: Novel Factory♪
第十四章『闇の掟』
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第十四章『闇の掟』・第一話『止まった砂時計・弾けゆく泡』Part5






 サラのベッドから少し離れた場所に、水色の宝玉が浮かんでいた。

 それは、サラやテイムが体に取り込んだものと同じもの。

 突如表世界の姿と入れ替わる・・・・・・というより寧ろ、身体の主導権の交代のようなものが起こって戦闘時に困らないようにと、サラとレイトとリフィア、そしてステアには渡されず綾乃がずっと持っていたものだ。

 それが今、何故か独りでに浮かび上がったのだった。

 部屋に飛び込んできた三人は、その光景に首を傾げた。

 冥王星国の影響にしては、何だか間抜けな・・・・・・。

「何なんだ、あれは・・・・・・」

『お父様から貰ってた、レイト君の宝玉だよ!!』

「レイトの!?」

 その刹那、宝玉にヒビが入り、全てが砕け散った。

 中から何か光が飛び出し、弾ける。

 次の瞬間には、床に誰かが倒れていた。

 それを見たアレンが何故か綾乃に急に一時的に身体を返すと言い出し、二人は入れ替わった。

 綾乃には何がしたいのかさっぱりだったが、久しぶりの自分の身体に違和感を感じた。

 魚に慣れてしまったのだ、慣れって怖い。

 まあ、それはいいとして。

 そこに倒れている人を見て、ベッドに座っていたサラが近付いていく。

 綾乃にはその人が誰か察していたが、他の人は綾乃が砂羅から聞いた話は知らないから、多分よく状況が理解出来ていないのではないだろうか。

 サラの反応に注意を向けた誰もが、サラの変化に気付いた。

 ”サラ”じゃない。

 ”砂羅”になっている。

 背は伸び、髪の長さも違うし、顔も大人びている。

 砂羅は床に倒れている少年の傍らに膝をついた。

 と、少年が目を覚まし、上半身を起こした。

 そんな彼を見るなり懐かしさに抱き着いた砂羅は、突然の出来事に驚いて固まった彼を見上げて言った。

「まさか、本当に桜井君までこっちに来てるとは思わなかったっ」

 海王星国守護神がレイトという名前で、加えてバンダナで隠されていた素顔を見た砂羅は、勿論恐らく彼が自分の知る麗人だと想像はしていた。

 実際に会うことは、綾乃が渡さないことを決めたと知った時点で諦めていた。

 それに・・・・・・会うのは気まずいし。

 けれど本当に会えたら、表世界に戻れていない分親近感が積もって思わず抱き着いてしまった。

「・・・・え?えっと・・・・・砂羅、さん・・・・・?」

「うん、久しぶりね」

「はい、お久しぶりです・・・・・あの、ここは・・・・・?」

「それは私が話すよ、砂羅。んと・・・・・貴方、桜井・・・・君だっけ?」

 今まで黙っていた綾乃が、一歩前に出る。

 その腕の中には先程身体を譲り渡して魚になっているアレンがいる。

「あ、はいそうです。初めまして、桜井麗人っていいます」

「こちらこそ初めまして。篠原綾乃です」

 ・・・・・・似てる。

 レイトの数年後の姿がそこにあった。

 優しげな面持ちは些か減り、逞しさをその代わりに備え持ったかのような。

 バックでは、やっぱ似てんなー、しかも名前一緒かよ、とテイムが何か言っている。

 麗人はやっと離れた砂羅に顔を赤らめながら、それでも突き放そうとはせずそのまま傍に立っていた。

 綾乃には、その反応が気になった。

 砂羅は麗人に彼女が出来たという話を聞いたらしいが、表世界と裏世界、考え方や感情が近いなら両想いなんじゃ?って思った。

 彼女側の母親から聞いたのなら、子供の恋を応援するでっち上げだったり。

 そんな気がしてならない。

 綾乃から裏世界の事を聞いて妙にあっさり納得した当の麗人は、

「・・・・・・篠・・・原・・・です、か・・・・」

 ふっと一瞬悲しげな笑みを浮かべたレイトを叱ったのは、思いもよらない人物だった。

『麗人っ!!お前何暗い顔してんだよ?ったく、相変わらずだなぁ』

 どこからか聞こえた聞き覚えのある声に、麗人は反応する。

「湊生!?死んだんじゃ・・・・・!」

『オウ、死んだ。表世界(ムコウ)でな。心だけ裏世界(コッチ)来てんだ』

 言いながら綾乃の腕から抜け出し、麗人に近寄れば、麗人は目を真ん丸にした。

 魚っ!?

「で、それに入ってるんですか?」

『オウサ。飲み込み早いな。』

 麗人が不意に口元を綻ばせた。

「元気そうで・・・・・何よりです・・・・・。あの日・・・・湊生が死んだあの日、日誌を書くと言って放課後残ったのを――――塾があるからと言って、待たずに先に帰ったのを今でも後悔しています・・・・・」

 びしっとアレンがしっぽで頬を張る。

『だから気にすんなよ。いつも言ってんだろ、元々不幸体質だったんだよ、俺は』

「あの、湊生、もしかしてこの子が・・・・・例のキミの妹の綾乃ちゃんですか?」

『うむ。』

 小首を傾げて二人の会話を聞く綾乃に、麗人が微笑みかけた。

「そっか・・・・・。綾乃ちゃん、僕と湊生は中学校の時の同級生なんです」

「え?」

『そーそ。一年の二学期に転校してきたよな、お前。いやー懐かしいわ。今何やってんの?』

皐嘔(こうおう)学園で高等部生徒会長をしています」

 その学校名に驚いたアレンが麗人の頭の上に飛び乗った。

 綾乃もその学校名を勿論知っていて、おお、と声を漏らした。

 麗人の傍らに立つ砂羅はそこに彼が通っていることなど当たり前に知っている。

『超有名私立!!お前ビンボーだろ、金は!?』

「特待生制度ですよ。免除です、免除。加えて返さなくていいタイプの奨学金で」

『やっぱすげーわ、お前・・・・・・・お?』

 宝玉に似た水色の玉が天井付近から降ってきて、麗人がそれを受け止める。

 なんだろうとそれを皆見詰めていると、サラの苦しむ声が聞こえてきた。

 見れば、砂羅からサラに戻り、先程の麗人のように倒れていた。

 恐らく、砂羅だった時は闇気そのものが消えていたような感じだったらしい。

 突然の変化に驚くも、麗人はサラを支える。

「き、きみ・・・・・それ・・・・」

 サラのベッドの脇に立ち尽くしていたジェインが、その水色の玉を見て顔色を変えた。

 麗人はその玉の意味を受け止めた時点で気付いていて、ジェインに向かって頷いてみせた。

 その玉は、レイトの魂のようなもの。

 ある意味レイト自身である麗人は、その玉から考えを伝えられたのだろう。

 サラをベッドに運んで寝かせ、彼女に玉を差し出した。

「何・・・・・?」

「いいから、受け取って」

 もう一人の僕から、もう一人の砂羅さんへの、命を懸けた贈り物。

 玉に触れ、もう一人の僕と知識を共有し、知った。

 今まで皆が何をしていたのかを。

 砂羅さんが、幼くなったのは、何故なのかを。

 もう一人の僕の、願いを。

 サラは恐る恐る受け取り、その玉はサラの中に吸い込まれていく。

 闇気が抜け、サラの身体が水色に輝き、やがてそれは黄色い光に変わる。

 サラの魔力が格段に高まったことは、見ればわかった。

『麗人・・・・・・お前、何を・・・・?』

「アレン様」と、ジェインが声を掛ける。

「アレン様、今の玉が、レトゥイル王子のものだという事は分かっておられますね?」

『ああ。水色だったし・・・・・レイトの、魔力の感じがした』

 実は、と前置いて、サラを助ける方法は本当は一つだけあったのだと告げた。

『何故それを言ってくれなかったんですか!?』

「それは・・・・・・・・その方法で、他の守護神が自らの命を捧げることになるからです」

『今・・・・・・・何て?・・・・・・命を、捧げる・・・・・・?』

 ジェインも、シャネッタもそれを肯定する。

 それはつまり。

 確定ではなく推測の域だったレイトの死が、確定されてしまったという事だった。

 問われたのに沈黙していた麗人が、ようやく口を開く。

「もう一人の僕は、皆と別れた後、冥王星国に囚われ、時空の狭間に幽閉され・・・・・・冥王星王の力になることを拒み、サラに命を託し――――消えました」

 耳元で全てを聞くサラは、ガクガクと震えが止まらなかった。

 目は見開き、現実を否定する。

「リフィアさん」

 麗人に呼ばれ、リフィアは何でしょう?と返す。

「もう一人の僕を捕えたのは、もう一人の貴女でした。湊生、綾乃ちゃん。皆さん、本当に・・・・・・・気を付けて。あと、伝えるように言われたのですが、この先・・・・・・この世界に纏わる謎を知る機会があるでしょうが・・・・・・どうか、驚かないで、だそうです」

『この世界の謎・・・・・・・?それが何かは?』

「分かりません。共有した記憶に、欠損というか・・・・・ノイズのようなものがかかっていて。ですが、この先・・・・・・・甘くないようですね」

『ああ、そのようだな。麗人、お前はこの後どうするつもりだ?・・・・・・・レイトが居ない以上、お前がここに居るのは・・・・・・』

「何言ってるんですか!!戦いには参加出来ませんけど、湊生がここにいるのに、先になんて帰れません!!」

 まあ、自分が残ることで、苦しめる人が居るのは分かっているのだけど・・・・・・。

 麗人は、未だ震えが治まらず俯いたままでいるサラに目を遣った。






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