第十四章『闇の掟』・第一話『止まった砂時計・弾けゆく泡』Part4
「サラ、辛くないか?」
サラはううん、と頭を横に振った。
先程鎮痛薬が投与されて、そろそろ効いてきたころだった。
手段が見つからないまま、サラが傷を負って五日経つ。
金星国の医療研究機関のお蔭で延命出来ているが、サラはもう限界が近かった。
ジェインは額に載せられている布を取り、氷の浮かぶ水につけ、絞ったものをまた額に載せ直した。
周囲にはジェイン、シャネッタ、綾乃、テイム、シャルテがいる。
隣の部屋に、二時間程前に遅れて金星城にやってきたアレンやリフィア、ステアがいた。
聞いたところによると、まあそれなりに未来で情報が手に入り、シャルテの事も聞いていたらしいが、まだ直に対面はしていない。
サラの調子が悪いことも気になってはいたが、それはシャネッタやジェイン、綾乃達に任せ、ついて早々ではあるが今後の行動を考えることになったのだ。
「私・・・・・・・死ぬのかな」
『サラちゃん・・・・・・』
大丈夫、治るよ、なんて言えない。
そんな、根拠の無いことを・・・・・。
綾乃は俯いて、サラの顔を見れなくなった。
と、その時。
「あ」と、ステアが声を上げた。
ジェインもシャネッタも、綾乃も不思議に思って、ステアの視線を辿る。
その先に見えたものに、皆目を見開いた。
「そう・・・・・・・冥王星国が動き出したの」
アレンはコクリと頷いた。
アレン、テイム、リフィアが遅れてきたのは、ただアレン達が未来から帰ってくるのが遅かったからなどという単純な理由ではない。
未来組二人は、実は時空魔法のコントロールを若干ミスして、未来に旅立つ少し前の時間に戻ってきてしまった。
そこからどうしようか、という事になり、二人は太陽国に戻っていたのだ。
冥王星国の動きを一番把握しているのは勿論隣国海王星国だが、情報が集結している場は間違いなく太陽国と言える。
その為にサフィールと会って、今ステアに話したように未来で見聞きしたことを伝えてきた。
それからどうしたらいいかも、そちらでも話してきた。
「サフィール王と話したところ、この件がどうにかなり次第、太陽国で作戦を練ることにしようという事になった。太陽国の方では、もう戦争に備え物資の調達や、兵の確保がほぼ完了しつつある状態だ。いつ始まるか分からない以上、戦いの要になる筈の俺らがここに長居する訳にはいかない。そうだろ?」
「ええ、確かにそれはそうね・・・・・・」と、ステアは肯定した。
「本当に始まるんですのね・・・・・・・戦争が」
リフィアの言葉に、アレンもステアも肩を落とす。
「もう止まらない。どう足掻いても」
「でも、きっと大丈夫よ。だって・・・・・・ね、アストレイン様」
「ああ・・・・・。未来は、ちゃんとそこにあったからな。戦いが終わり、平和になった世界が」
ステアは安堵した。
結果が見えたものほど、安心感のあることはない。
何を選択したとしても、それは未来の自分も同じ選択をしたであろうことだ。
同じ結果を迎えるに決まっている。
ただ、気になるのは。
「リフィア、やっぱり・・・・・・・勝つ為には、アレをしないといけないだろうか」
「未来の貴方が言ったことですから、恐らくは。」
「でも俺はしたくない。犠牲にするようなものだからな・・・・・・・・」
そう。確かに、この戦い未来のシナリオ通りに行けば勝てるのだ。
けれど、逆にシナリオ通りだったならば計り知れない被害が出るのだという。
それは・・・・・・すぐ、身近な人の中からも。
と、ドアがノックも無しに突然開いた。
『お兄ちゃん!!リフィアさん!ステア!早く来て!!』
慌てた綾乃の様子に、三人は急いで隣の――――サラの居る部屋に向かった。