第十四章『闇の掟』・第一話『止まった砂時計・弾けゆく泡』Part3
「すまない。闇気を取り去る方法は・・・・・・我々にも分からないんだ・・・・・ただ少し、延命する程度しか・・・・・」
『そんな・・・・・!!』
綾乃達は3時間ほどで金星国に無事到着。
変わり果てたサラを見た金星国国王夫妻は青褪め、王妃シャネッタに至っては、ショックのあまり倒れてしまうほどだった。
一騒動が収束した後、サラは部屋に寝かされ、話し合いの為会議室が一室設けられた。
会議室に入ってから三時間。
無言が続くお通夜の雰囲気の中、口を開いたのはジェインだった。
僅かな希望ではあったけれど、皆期待していただけあって落胆が隠せず、サラの死という最悪の結末が眼前に迫っていることを改めて感じてしまう。
『本当に、本当に何も無いんですか!?』
「・・・・・・・ああ」
ジェインはそう嘘をついた。
ある。
あることには、あるのだ。
たった一つの方法で、守護神だけに可能な方法。
でも、言ってはいけない。
この方法で助かったと知ったら、サラは罪を感じる。
だから、言ってはいけない。
再び眠りにつき、目覚めたのはどれくらい経った頃だろうか。
周囲の映像を見て、レイトは愕然とした。
自分が眠っている間に何があったというのだ。
寝ていた為どうやっても知る術はないが、とにかくサラが死にそうになっていることを、レイトはそうして知った。
傷から噴き出す闇気から、それが冥王星から受けたものだという事は一目瞭然だ。
冥王星国と隣り合わせにある国の者だからこそ、その手の知識は人並み以上にはある。
加えて、読書家ということも大きかった。
それがあったから、レイトはジェインが隠したその方法を、彼もまた知り得ていたのだ。
その方法を実行するには迷いはない。
世界の真実を知って、その決断は更に容易になった。
まさか冥王星王も自分がこんなことするとは夢にも思わないだろう。
その方法は使われたことが無く、知識として限られた人にのみ伝えられていて長年表に出たことが無い。
レイトがそれを知ったのは、たまたまであったけれど。
知ったことがジェインに知れた際、友好国の王子でも何かあるかと覚悟したが、特にお咎めなしだった。
知ったからといって、悪用出来るようなものでもないから。
ただ、ジェインは問うた。
それを知って、君はどうしようと思ったか?と。
レイトは、「守る為なら。僕は、知った以上・・・・・・行使したいと思っています」と、素直に答えた。
その答えにジェインは、膝を折り、目線の高さを等しくしてレイトの手を取った。
やめてくれ。そんなことをしたら、誰が泣くと思う。
辛そうなジェインに、レイトはただはい、と頷いた。
でも今、夢にも思いもしなかったそのシチュエーションを前にして、使わずにはいられなかった。
もう少し、時間が経ったら。
冥王星王にレイトは取り込まれ、アレン達の敵の一部となり、脅威となる。
冥王星王に力を貸すのは本当に不快極まりなかった。
加えて、今このままいたとしてもあの子は救えない。
まあ・・・・・・願望が夢になったもので、予知夢じゃなかったらバカなものだけど。
さあ、とレイトは呼吸を整えた。
最後の、大仕事になる。
目の前の誰かに何かを渡すように両手を伸ばす。
やがてレイトの全身を水色のオーラのようなものが包み込み、胸の前で収束し、掌の上に移る。
掌の上の水色の玉が大きくなっていくにつれ、レイトの身体が霞んでいった。
玉は放たれ、どこかに消え去って行くのを見届けたレイトは、完全に消え去った。
そう、闇気に侵されたものを助ける手段である、あらゆる病から誰か特定の一人を助ける方法とは。
自分には一切回復魔法が効かない金星国守護神を助けられる唯一の手段とは。
―――――他の守護神がその身を捧げる事、だった。