第十四章『闇の掟』・第一話『止まった砂時計・弾けゆく泡』Part1
何かが急速に欠けて行く気がした。
その不快感に目を覚ましたレイトは、自分がまだ生きていることを知る。
我ながらなかなかしぶといな、とは思うけど。
そんな簡単には死なせてくれないのは、サラの件同様に彼もまた守護神であるから。
加えて、彼の力は白翼Sランク。
白翼の中ではトップに位置する者だ。
1ランクでも違えば潜在する力も段違いな為、もし闇気に侵されたのが彼だったならば一年くらい軽い筈だ。
それほどの力を持つ者が、簡単に死ねる訳がない。
あの時。
天王星国に降り立った彼の前に現れたのは、リフィアだった。
だが、知っている二人とは全く違った。
一人は今アレン達と一緒にいる。
そしてもう一人はもう既に消えてしまったと聞いた。
辛うじて正気を保ちながら、警戒心を露わにしつつ見ていれば。
俯いた彼女は顔を上げ、こちらを見た。
その瞬間、レイトは息を飲んだ。
嫌な汗が伝って行く。
彼女は――――リフィアは、見たことも無いくらいに荒れ狂った表情をしていた。
それが、多分フォリビアを始末した冥王星王が新しく作った魂。
裏切らないように。
ただ命令を忠実に聞き、闇に生き、殺意の塊のような魂を。
そうして作られたのは、そんな狂気に塗れたものだった。
レイトは直感的に勝てないと悟った。
でも死ぬ訳にはいかなかった。
思い出すのは、旅の仲間達。
記憶を失った自分と共に今まで旅をしてきた綾乃。
ムードメーカーで少し調子のいいところはあるが、頼りがいがある湊生。
出会いは最悪だったけれど、今となってはアレンと同じくらい信頼しているテイム。
共にいた時間は誰より短いけれど、女性陣の中ではお姉さんとして相談相手になっていたり、時にはテイムの暴走を抑制する役割を担っていたステア。
それから。
自分が死ぬ運命にあるなど知らずに、将来を誓い合ってしまった相手である少女、サラ。
あの夢に出て来た、クリーム色の髪の女の子の事も気に掛かった。
早く助けなければいけないのに。
それでも、無視出来なかった。
リフィアが動く気配を見せ、レイトは構えた。
だがその動く姿を捉える前に、レイトは意識を失った。
どれくらい経ったろう。
気付けば、暗闇の中に居た。
辺りには何も無い。
ただ一つの光さえ、自分の姿さえ見えなかった。
初め、死んでしまったのかと思った。
これが綾乃から聞いた表世界の地獄というものなのか、と。
こんなところが天国な訳がない。
自分が天国に行ける訳がない。
それ程自分は、罪深いのに。
でも逆に地獄に来れたと思えば何故か安堵感があった。
天国に行けたら、きっと自分は不相応だと自分の罪を背負っていくことになる。
それより地獄に来て、自分のしてきたことを罪と認められた方が解放された気がして楽だ。
ま、楽になったらなったで罰にならないじゃないかとは思うけど。
天国にだけは居てはいけない、そんな気がして仕方がなかった。
死を覚悟した時、サラとは来世で、何て思ったりもしたが。
地獄に来た以上、輪廻転生からは外れてしまうのかな。
転生出来ても、罰として苦しい一生を送るのかな。
そんなことを来てすぐには考えていたけれど、冷静になってみれば、どうも自分は生きているとしか思えなくなってきた。
と、視界が一気に開け、今度は真っ白な空間へと早変わりする。
微かに足音がして、そちらを振り返れば遠くの方から誰かがやって来ていた。
一人ではない。
二人。
一人はリフィア。
もう一人の顔は見えない。
面のようなものを付けている。
「時空の狭間へようこそ、海王星国守護神レイト」