第十三章『風の掟』・第二話『特殊に生まれし者・次代の双子』Part2
《フェト君ともう一人を助けるには、冥王星国に行かなきゃいけないみたいね》
綾乃の言葉に、シャルテはコクリと頷いた。
その時、室のドアがノックされて皆一同に振り返る。
覗いた顔は、以前見たことがある人のもの。
「あ、あら、いらっしゃい。こんな辺境までよく来てくれましたね」
レイトの母、そしてサフィールの妹エリィことエフェリーだ。
走ってきたようで、息切れをしている。
女官が慌てて追い掛けて来て、産後間もないのですから安静にしていて下さい、お身体に悪いですよ!!と顔を真っ青にしているのがエリィの背後に見えた。
エリィは、きょろきょろと見回して眉間に皺を寄せる。
「うちの子は・・・・、レトゥイルは、どうしました?」
「それが・・・」と、テイムが口籠る。
皆同じ何とも言えないような顔をして視線を逸らした。
「そう・・・・何かがあったとは、分かっていたのだけれど・・・・」
「わかっていた?いったいどうして・・・・」
「王様には、予知能力があるのよ。御存知でしょう」
「予知能力・・・・・あ、そうか」
納得はしたが、魔力持ちではない海王星国王が予知出来ることなど普通は有り得ない。
あくまで予知出来るというのは噂だった。
その噂に賭けて来た訳だが、まさか本当だったとは。
エリィは仮定を述べた。
レイトは生まれる前から冥王星国から呪いを受け、魔力を封じられた。
その反動として生まれつきの水色の髪を持ち、トランスに予知能力のようなものが備わったのだろう。
トランスが力を手に入れたのは、ちょうどレイトがエリィの腹に身籠ったと分かったのと同時期であったから。
「レトゥイルが、行方不明になることも知っていたわ。どこにいるのかも。でも、その力が突如として消えてしまったの」
《え!?分かってたんですか!?》
「ええ。あの子は地球国からこっちの方角に向かって凄い勢いで飛んで来ていたみたいだけれど・・・・・・天王星国に到達したのを確認したのを境に――――王様の力は」
消えてしまったのですね?とステアが言い、エリィは黙って肯定の意を示した。
その予知能力は、レイトの力を抑えた時の反動でトランスが得たものであるとはいえ、レイトを魔力の源として発動していたのだろう。
力が使えなくなった、それ即ち。
レイト自身が、死したということ・・・・・・。
その事実に一番に辿り着いたテイムは、青褪めた。
そういえば、エリィはこの部屋に飛び込むようにして入ってきた。
それはレイトがいるかもしれないと思って―――?
気が付けば、今綾乃達がいる部屋は子供部屋のようだった。
それ以外の部屋が行事の為に使用中であることが原因で通された部屋な訳だが、皆贅沢は言えないと流していたのだが。
「この部屋・・・・・・・」
「この子の部屋だ」と、エリィの後ろ、妃の不良行動に肝を冷やしている女官達の更に後ろから現れた海王星国王トランスの腕には、生後間もない赤ん坊が抱かれている。
レイトの死の事実を勘付いたテイムとステアのお通夜な雰囲気ですら、全て吹っ飛んだ。
《可愛い!!》
綾乃が興奮して、その子の顔を覗き込んだ。
ぐっすりと眠っていて、起きそうにない。
「名は、レウィンです」
言いながら、エリィはトランスから赤ん坊を受け取った。
綾乃は、その名に懐かしさと切なさを覚える。
好きな人の名前・・・・・・。
「この部屋は、この子の部屋。それと同時に、幼い頃にこの城を出た、レトゥイルの部屋でもある」
そう言われて初めて、綾乃は海王星国に来たんだという実感を得た。
ここが、レイトの生まれ故郷。
それどころではなかったのは、サラの容体が悪かったからだ。
どんな感じだったっけ、と思い出せば、大海原に囲まれた島国みたいな地形の国だったような気がする。
こんな状態でなかったら、海王星国なんて滅多に来れない国だし、ゆっくり観光でもしたかった。
因みにレイトの部屋は、やはり彼らしくシンプルの一言だった。
けれど5歳で城を去ったとはいえ、その部屋は分厚い本が入った本棚がいくつかあったのには何とも言えなくなった。
やはり生まれながらの天才だったか、と思うテイムの視界の端ではステアが嬉々としてレウィンを抱かせてもらっている。
綾乃は今身体を兄アレンに貸していることを何気に後悔しているかのようで、良いなー私も抱っこしたかったーと頻りにレウィンの傍を飛び回っていた。
何だか非常に楽しそうな女性陣に蚊帳の外へ追い遣られた感のある男性陣―――トランスとテイムはお互いに顔を見合わせて苦笑した。
「そういえば、アレン様と、冥王星国の姫は?共に行動していると予知で見たのだが」
今頃は未来に居る筈です、とテイムが答える。
「時空魔法か。歴代の守護神は失敗し成功した者は殆どいないと聞くが、流石アレン様、麒麟だけあって制御が出来るようだな」
「はい。そして、あちらの娘はシャルテ。未来から来た彼らの娘だそうです」
「未来の・・・・・・!?以前継承式の際に垣間見たアレン様に面持ちは似ているようだが。本当か?」
勿論です、と言えば、レウィンを興味津々に見ていたシャルテが反応して振り返る。
ステアがレウィンをエリィに返し、皆に交じろうと近寄ってくる。
「では、サラネリア姫は?」
「今、別室で治療を受けているの。報告があって、私が許可しました」
ちょうど報告を受けた時、トランスは抜け出せない状態にあり、代わりにその要件を聞いたのはエリィだった。
だからトランスはそのことを何も知らず、首を傾げた。
「治療?」
その時、治療をしていた医師が室に項垂れたような感じで入ってきた。
でもどこか、青褪めた表情をしていて。
「皆様、申し訳ございません」
最悪の展開が、脳裏を過った。