第十三章『風の掟』・第二話『特殊に生まれし者・次代の双子』Part1
「ヴァ、ヴァーイェルドって・・・・・・太陽国の王族の姓じゃ!?」
女の子―――シャルテは、あっさり頷いた。
「そうだよー、あたし、太陽国の姫だもん」
太陽国の姫と言えば、養女とはいえ綾乃の事だ。
とはいえ、シャルテは嘘を言っているようには見えない。
「どういうこと?」
「あたしはね、11年後の世界から来たの。お父様に頼まれて、お兄様を助ける為に」
「11年後!?じゃあ、貴女のお父さんは・・・・・・」と、ステアが再度問う。
「アストレイン=ヴァーイェルド。お母様は、フォルフィリア=クリュリー、だよ」
《お、お兄ちゃんの!?》
綾乃が驚いてシャルテを見上げた。
確かに、似てる。
自分にも、兄にも。
その事実に驚きはしたものの、次の瞬間には皆納得してしまっていた。
アレンは大抵誰とでもいい感じな関係を築けるが、実の妹である綾乃を除いては少し他よりもレイトを友人として信頼しているだけで、基本一線を引いているかのように一定以上は気を許さない。
それは表世界のアレンの死の裏に何らかの意思が感じられていて、人を信用し切れないというトラウマからだ。
加えて、クィルの裏切りが、それに拍車をかけた。
そのアレンが、突然現れた少女に気を完全に許していたのだ。
以前一緒に旅をしていたリフィア、つまりフォリビアにはそのような態度を取ってはいなかった。
彼女にだけ、だった。
リフィアは昔から知っているのだと言った。
まるで、同様にアレンもリフィアの事を知っているかのような。
綾乃もその二人の雰囲気から、両者に互いをどう思っているのかそれぞれ問うたことがあるが、共に脈有りだと感じた。
似合いのカップルだとは思う。
けれど、リフィアは敵国の姫君。
太陽大命神であるアレンとしては、想いを寄せてはいけない相手だ。
今考えてみれば、だからこそアレンは問われた時に明らかな肯定を示さなかったのである。
「あたしは、小さいからまだ未来で何が起こったのか分かんない。でも、お父様が教えてくれた事なんだけど、過去の誰かがあたし達の時間に来て、魔力を持つ子供達を攫っていったんだ。それは二人で、一人はお兄様なんだ」
《シャルテちゃん、お兄ちゃんの名前は何て言うの?》
「フェト。フェティスト=ヴァーイェルドだよ。お兄様とあたしは双子」
・・・・あれ?
綾乃は疑問に感じた。
本当にシャルテとフェトの双子の兄妹がアレンとリフィアの子なら、魔力持ちは有り得ない筈である。
守護神から守護神は生まれない、それは古くから伝わるもので、若干信憑性に欠ける気がしなくもないが、間違いなく本当の事だ。
でも魔力を持つ子供としてシャルテの兄、フェトは連れ去られたという風にしか聞こえない。
もしそうならば、連れ去ったのは魔力を奪う技術を持った冥王星国でしか有り得ないのだ。
それはそれで最悪な展開だった。
《ちょ、ちょっと待って、フェト君は魔力持ちなの?》
「そう。魔力持ち。そして、一部、私も含まれる。この異常な事態が起こり、皆私達のような者を守護神とは呼ばず、“特殊”と呼ぶの」
「気を付けて帰ってね」
未来のアレンの容体が悪化し、咳き込みが激しくなったことからアレンとリフィアは予定していたよりも早く帰ることになった。
退室し、城の入り口まで見送りについてきた未来のリフィアは、そう言って手を振った。
「はい」
あの、傍についていなくても・・・・・と、未来のアレンが気になったリフィアがおずおずと言えば、大丈夫よすぐに戻るわ、と笑みが返った。
「貴方達も、早く戻ってあげて。今、大変なことが起こって居る筈だから」
「大変なこと・・・・・って、例の捕えられたっていう、お、俺と・・・・・リフィアの息子に・・・・・・?」
若干吃ってしまっているのは、危機感を感じつつもアレンが照れて口にするのを戸惑ってしまったからだ。
娘の存在を知らされ、自分の妻となっているのがリフィアだと知り、そしてもう一人男の子がいるのだと聞いた。
綾乃達がシャルテから聞いた内容と、ほぼ同じようなことを。
「いいえ、フェトは・・・・・・今はまだ大丈夫ですわ。シャルテも、貴方達の旅の仲間と合流している頃でしょう。大変なのは、別の事。戻ったらすぐに分かるわ・・・・・でも、きっと大丈夫。貴方達なら」
それがサラの生命の危機であると知るのは、彼らと合流する数日後のこと。