第十三章『風の掟』・第一話『その未来・銀色の閃光を纏いし娘』Part3
落ちてくるのは、幼い6,7歳の女の子だった。
地点的に、ちょうど綾乃達の真上に当たる。
受け止めたステアは、その女の子をじっと見た。
セミロングよりは少し長いくらいの黒髪、恐らく絹であろう服。
「な、なんだその娘は・・・・・!?」
声に反応して、女の子の目が開いた。
視界に冥王星国の兵士達を捉えた途端、再び女の子が銀色の光が纏い、一行を除いた冥王星国の兵士達が吹き飛ばされてそのままどこかに消えた。
敵が一掃され、綾乃達は一時的に安堵したが、サラの呻き声に緊張が走る。
女の子は地面に降り立ち、サラを見た。
「危険な状態ね・・・・・・」
「ああ。敵を追い払ってくれてありがとうな。これで海王星国に行ける」
「海王星国に行きたいの?」
「そうだ。君も、ここに居たら危険だ。一緒に行こう」
テイムは動けなくなっているサラを抱き抱え、ステアが女の子の手を引いて海王星国まで走った。
「綾乃が・・・・・・いない?」
未来のアレンは、こくりと頷いた。
「どういうことですの、アストレイン様。何があったというのです」とリフィアが問えば、未来のアレンは重い口を開いた。
「綾乃はいない。冥王星に勝つ為に綾乃は身を捧げたのだ」
苦しそうに言う彼に、アレンは絶句した。
「その方法は、ここに書いてある。後で、決心が出来たら見ろ。それから、今頃私の娘がお前たちの時間に行っている筈だ。娘を頼む」
「む、娘!?」
アレンは綾乃がいないという事実以上に驚き、思わず飛び跳ねた。
その反応に未来のアレンも苦笑する。
だって、それは11年前自分もしたリアクションだったから。
「俺と、誰の!?」
半ば迫るように問い詰めると、未来のアレンは少し戸惑ったような顔をする。
あまり未来のことを言うのは、とは思ったが、結局自分が行った未来でも教えて貰ったことを思い出す。
言ってもいいか。
見れば、アレンから少し下がったところに立つリフィアが不安げな顔をしている。
未来のアレンは、大丈夫だよ、とリフィアに笑みを送る。
するとリフィアは、自分の考えていることが見透かされたのを知って顔を赤らめた。
その時、コンコンとドアが叩かれる音がした。
「アレン、今いいかしら」
「いいところに来たな。ちょうど過去の私達が来ているところだよ、リフィア」
ドアが開かれ、そこに姿を現したのはドレスを纏った、でも実体を持っているリフィアだった。
「あら、今日だったの」
ああ、と未来のアレンは頷き、過去の自分を真剣な眼差しで見詰めた。
「私と、リフィアの、娘だ」
冥王星国に着いた綾乃達は、レイトの両親トランスとシャネッタに会えるように城の者に頼み、その前に許可を取って城内の一室を借り、城の医師にサラを見て貰っていた。
生憎シャネッタが男の子を出産したばかりという事で、バタバタしてしまっているのだ。
明日新年を迎えるという事もあり、客人を落ち着いて持て成すどころではないことは綾乃達も分かっているので、部屋を借りれて治療を頼めるだけでも有り難かった。
医師にサラを任している間、別の一室で、女の子への矢継ぎ早の質問が開始されようとしていた。
「貴女、名前は何て言うの?」
綾乃が女の子の傍に近寄ると、お魚さんだ、と女の子に力の限り抱き締められ、綾乃が悲鳴を上げた。
ごめんね、とすぐに腕の力は緩められるが、放そうとはしない。
まあ、それくらいの年齢だと人形やぬいぐるみが好きなのは分かる。
仕方ないので綾乃は抵抗するのを止めた。
「あたしの名前は、シャルテ。シャルティール=ヴァーイェルド」
え、と皆目を見開いた。