第十三章『風の掟』・第一話『その未来・銀色の閃光を纏いし娘』Part2
「ここが未来か・・・・・・」
その世界は、現在と殆ど変わりなかった。
「申し訳ありません、アストレイン様。私が実体であれば、空間魔法も併用し太陽国まで行けましたのに」
「いいや、気にしなくてもいい。どうせ、この世界では戦争は終わっている筈だ」
時間だけ経過したその場所は、間違いなく時空魔法を使った地球国のあの木の前。
それにしても、とアレンは腰を下ろした。
「何年時を経たのだろう。体力に限界を感じる・・・・・・・」
「大丈夫ですか、少し休まれます?」
アレンは頭を振った。
一刻も早く、太陽国に行きたいのだ。
ワールドコネクトベルトを探し、アレンとリフィアは急いで太陽国に向かった。
「レイト王子が今どうなってるのか知ってるの!?ねえ!!」
サラが動揺し、一瞬結界が揺らぐ。
それを狙って矢が一本飛んで来て、気付くのに遅れたサラはその矢を背中に受けた。
途端に結界は消え失せ、攻撃が強まる。
ステアが防御に回り、木で一行を包み込んだ。
だがその木にも攻撃が当たる音が響き、一点に集中攻撃を受けていることが分かった。
サラの背の矢を抜いた綾乃は、唾を飲み込む。
傷はそんなに深くない。
臓器にも達していなければ、脊髄にも脊椎にも損傷は見られない。
ただ少し出血が多くて、そこから何か邪気のような物が噴き出していた。
冥王星国の武器から受けた傷である以上、その矢にどんな毒が仕込まれているのか分からない。
少なくとも、それはただの傷ではなかった。
「綾乃!!サラの容体は!?」
攻撃を仕掛けていてそれどころではないテイムは、振り向かずに問うた。
矢を受けてすぐ倒れ込んだサラは、ぐったりとして動かない。
恐らく毒のような物が前進を駆け巡り、その身を苦しめているのだろう。
《どうしよう!?凄い危ない状態だよ!!》
「くそっ・・・・・闇気にやられたか・・・・・!!」
テイムが悪態をついた時、上空に歪みが生じ、そこから銀色の光が出現する。
その眩しさに皆目を瞑った。
「な、何だあれは!?」
敵兵も予想外の介入に驚きが隠せず、眩しくて見えないながらも懸命にその光を見ようとしていた。
パアン、と光は弾け、アレンが覚醒した時のような銀色の光が舞う。
その中を何かが落ちてきた。
落ちてきたものを見て、皆あんぐりとした。
「太陽国守護神への、謁見を願いたい」
アレンは太陽城まで来て、衛兵に頼み込んだ。
平然とはしているが、アレンは不安で一杯だった。
第三次魔法大戦が本当に起こったとして、それに勝てたのか?
自分は、それを乗り越えて生きているのだろうか。
もしや、死んだなどという事は・・・・・・。
「あ、太陽大命神様ですね?お会いになれると思いますよ。今日は床から起き上がれるそうですので」
「床から・・・・・?」
アレンは現代と変わらぬ太陽城の中を案内され、一室に通された。
どうやら、寝床のようであった。
「アレン様、お目通り願いたいという者がございます。お会いになられますか?」
ドアの向こうから、「通せ」と小さな声が聞こえてきた。
どうぞ、と中に入れば、天蓋で隠れてはいるが誰かがベッドの上に上半身を起こした状態でこちらの方を見ているのが分かる。
ドアが閉まると、近くに来るように手招きされた。
天蓋が開き、そこに居る人の顔が見えた。
「やっと来たか」
間違いなく、そこに居たのはアレンだった。
でも成人しているようで、顔は今とは違って大人びている。
「こんな状態ですまない。よく来てくれた、過去の私」
う、と未来のアレンは咳き込んで胸を押さえた。
どうやら何らかの病気のようだ。
「体調、悪いのか?」
「まあ・・・・・そうだな。病気ではないけれど。過去の、お前達のいる世界に侵されているんだ。それで、私は直に影響を受けている。このような状態なのはそれでだ。お前達が冥王星に勝ってくれたら、回復するだろう」
「俺らは、冥王星王に勝てるんですよね」
未来のアレンはコクリ、と頷いた。
だけど、と前置いて、
「失ったものは、大きかった」と辛そうに言った。
「あれから何年経った?」
「11年経つ。・・・・・・・お前の後ろ、リフィア・・・・・いるよな」
ひょっこり顔を覗かせた少女に、未来のアレンは顔を綻ばせた。
何て言うか・・・・・・懐かしそうな感じ。
アレンは驚いた。
もうこの世界では、あれから11年も経っているなんて・・・・・・。
ふと、アレンの視線がベッド脇の魚のぬいぐるみにいく。
自分が入っている、あのぬいぐるみ。
「今一体化してるってことは・・・・・・・綾乃、今その中に?」
未来のアレンは黙って頭を振った。