第十二章『氷の掟』・第三話『帰らざる人・波立てる予知夢』
《俺とリフィアは、ついて行かない》
「どういう・・・・・ことなの?」
《俺とリフィアは、未来に行ってこようと思う》
「どうして?」
《俺の麒麟の力があったとしても、恐らく勝ち目はない。未来で、何らかの戦法を教えて貰わないければならない》
「わかった」
リフィアとアレンを除くメンバーは、夜の内にワールドコネクトベルトで海王星国に向かうことになり、リフィアとアレンは時空魔法行使の為に体力の消耗に備え、もう一眠りすることにした。
その頃、地球国の火星国寄りの場所で隠れるようにして木の上で眠りについたレイトは、また予知夢を見ていた。
「弱い・・・・・。太陽大命神と匹敵する筈の海王星守護神の力は、こんなものではあるまい」
膝をつく水色の髪の青年が、目の前に立つ黒い服の男を睨み付けた。
黒い服の男は嘲笑し、勝利を確信している。
でも逆にそれが、彼にとっては不思議そうであった。
そんな事は、青年はどうでもいいことだった。
気に掛かるのは、男が右腕にしっかり捕えた5,6歳の女の子のこと。
「・・・・・・娘を、返せ」
「ん?ああ、なるほど」
たった一言の青年の言葉で、男は全てを察する。
「何がだ」
「可能性に行き着いたのだ。このアイシャルとかいう娘、人魚だという。守護神よ、お前は娘を人間にするのに絶えず力を注いでいるのだろう。しかも、その力の殆どを」
「くっ・・・・・」
「やはりな。そして娘が人魚に戻れば力が跳ね返り、そう遠からずお前は死ぬ。娘の方もお前の守護が無ければ死ぬ。大人になるにつれて魔力のバランスが均等になるだろう。そうなれば守護する必要はなくなるが、幼い今なら確実に死ぬだろう。娘は連れて行くぞ」
「どこに連れて行くつもりだ!!」
「過去の、第三次魔法大戦を控えたあの時に」
言って、男の姿が揺らいだ。
「アイシャ―――――!!」
はっと目覚めると、レイトはすぐに夢の意味を考え始めた。
青年は、間違いなく自分だった。
年齢は分からない。
守護神は二十歳を過ぎると死ぬまで成長も老いもせず同じ姿を留めるからだ。
にしても、どうして未来の自分が存在する?
消える運命にあるというのに。
それから、あの女の子。
男は人魚だと言っていた。
それがもし本当だったら、異常だ。
人魚自体おかしいが、人魚であるという事はつまり少なからず魔力を持つという事。
それが更に本当に自分の娘だとしたら。
“守護神から守護神は生まれない”というのに反する。
それはそれで気になったが、あの女の子・・・・・・・。
外見から言えば、目は気を失っているのか瞑っていて分からなかったが、髪はクリーム色だった。
そしてその髪は地に着くほど長く、ふわっとしたウェーブが掛かっていた。
パラレルワールドで自分が生きてサラと結婚し、子を成したらそんな感じの子になるのかなとレイトは思った。
ただのレイトの心の奥の願望が夢に出て来ただけじゃないのか。
本当に予知夢なのか。
けれどもし、本当で、第三次魔法大戦前の時である今に連れて来られるのならば、あの男は冥王星に関係のある者になる。
そして今冥王星国には魔力を抽出する技術があるという。
・・・・・・放っては、おけない。
本当だったら、取り返しがつかなくなる。
娘かもしれない、女の子の為。
サラとの未来の、可能性の為。
助けなければ。絶対に。
レイトは冥王星国に単身乗り込もうとして、そこに至るまでに消息を完全に断った。