第十二章『氷の掟』・第二話『目覚めたココロ・永久の別れ』Part1
その日、またレイトが体調を崩した。
眠りについているとはいえ、レイトの身体であるには変わりない。
それ故に、ノイズが走ることは無くとも時折苦しみが襲うのだ。
少し前まではアレンも同じように体調を崩していたが、今ではそれは無い。
無くなったのは初めてレイトにノイズが走った日の事だ。
アレンが選ばれたから、彼には症状が出なくなり、逆に選ばれなかったレイトに現れる症状の頻度が上がったのである。
交互に世話をすると言って聞かないテイムとアレンは、特に体調の悪化が見られる夜もレイトの部屋で看病することになった。
最初に言い出したのはテイムで、彼は出会った当時はある出来事からレイトに一時的服従状態にあったが、いつの間にか仲良くなっていたのである。
感染性も無い(存在が消えようとしている為の症状だから当然だが)という事で、留まろうとするテイムに“魔”が何かしないか見張る為にアレンも残ったのだ。
看病する為とか言いながら、早々に二人はベッドに凭れて寝始めてしまった。
逆に風邪を引きそうな感じな彼らに、レイトが自分のベッドの殆どを譲り、自身はベッドの隅っこで寝ることになった。
アレン、テイム、レイトが眠りについて、三時間経った――――午後十二時頃。
「眠れないの?」
暖炉の明かりだけのリビング内は、思いの外明るかった。
一行が男女共用としているそこには、ソファがテーブルを囲むように並べられている。
近付いてきたサラに、レイトは顔を上げた。
「うん・・・・・昼間もずっと寝ていましたから。眠りが浅かったようです」
「でも寝てなきゃ。原因不明の病気、まだ治ってないもの。・・・・・魔法で、治せたら良かったんだけど・・・」
魔力が戻って最初の発病の際、サラは回復魔法で治そうと試みた。
しかし、それは叶わなかった。
それには魔力を失っていた時と同じように無力感があった・・・・・・。
寝て少しは回復して欲しいとは思うが、こうして二人きりになるのは久々の事。
だからサラはどうしても嬉しくて仕方が無かった。
レイトとは反対側のソファに座り、持ってきた二つのマグカップの片一方を差し出す。
中にはココアと味も色も似た飲み物が入っている。
「ありがとう。・・・・・・ステアさんやリフィアさん、綾乃さんも寝た?」
「寝てる。ぐっすりよ。そっちは?」
「起きて、現在冷戦中です」
「冷戦?」
レイトは、現在自分の部屋で起こっている現状を話し始める。
事の発端は、アレンの寝相が非常に悪いことにあった。
空中を漂いながらも暴れ、ちょうどタイミング悪く眠れずダイニングに行こうとしたレイトに体当たりする事態に至り、そのままレイトは前のめりに倒れた。
その音で、テイムも飛び起きることになったのである。
事の次第を聞いたテイムは、当事者を無視したアレンとケンカになったらしい。
「アレンさんは、寝相は不可抗力だとおっしゃって、テイムさんは病人相手に不可抗力だとか関係無いと」
「そう・・・・・具体的にはどんなケンカなの?」
もしそんな状況に居合わせたら、間違いなくレイトなら仲介にはいる筈だ。
なのに今もケンカ中という事は、どういう訳なんだろう。
「最初は口喧嘩だったんですけど、結局お互い一歩も引かないし、僕もどう止めようかと考えていたら・・・・・・・最終的に表世界のゲームで勝敗を決めようとかになって、だんだんと趣旨がずれてきました。放っておいても心配はないと思いますよ」
「なら良かった。調子はどうなの?大丈夫?」
「落ち着いてるから大丈夫です。それにしても、いつまで木の中で生活をし続けなければならないのでしょうね・・・・・・姫様、辛くはありませんか?」
サラは頭を横に振った。
よかった、とレイトも安堵の表情を見せる。
だがその裏で、“魔”は思っていた。
確か、太陽大命神アレンの傷を癒したのはリフィアが行使したとはいえ、サラの魔力だったな。
また邪魔されたら厄介だ。
まずはこいつを始末した方が早いかもしれない。
「姫様」
レイトは立ち上がり、片手をテーブルについてもう一方の手をサラの額に当てた。
「レイト王子・・・・・?」
訳も分からず呆然としているサラは、次の瞬間全身に電気が走り抜けた気がした。
そのまま気絶するようにソファに倒れ込む。
レイトはサラの傍まで来ると、“魔”は半分“レイト”を目覚めさせ、シンクロ状態になった。
つまり、レイトの意識を支配し、魔力が使える状態になっているという事だ。
これは他の人の前では出来ない。
すれば、即座にレイトではないと守護神にはばれてしまうからだ。
更にこの方法には限界がある。
半分ではあれど目覚めさせればレイトの“時”は少しずつ動き出す。
ここぞという時にしか使えないのだ。
だから普段は、今は本当に調子が悪いとしても、回復したとしてもずっと悪い振りをし続けようと“魔”は考えていた。
そうすれば、好都合。
皆油断するし、何よりも例え戦うシチュエーションが勃発しても病人扱いをされて戦わなくてもよくなるだろうから。
レイトの手に、半分しか意識がない為に使える魔力に制限があるが、それでも普通の守護神とは比にならないくらいの大きさの魔法球が現れる。
まるでプロミネンスのように風が丸く渦巻いているそれを、レイトはサラの方に向けた。
「・・・・・・・・死ね」