第十二章『氷の掟』・第一話『一新する立場・共同生活』Part2
「何をしているんです?」
ヴン、と音を立てて中に部屋を作った木から出て来たレイトは、木の上に座しているアレンを見つけて言った。
呼ばれてアレンは声のした方を見下ろす。
《見張り。そういうお前は?》
「いいえ、特には何も。・・・・・・あの、見張り、本当は手伝いたいのですが、予知も何故か調子悪くて。断片的なモノしか見えないんですよ――――何だか力が戻る前に戻ったみたいな気分です」
《そっか。俺実は結構頼りにしてんだよな予知。残念だよ》
すみません、と言って苦笑するレイトは、アレンに気付かれないように一瞬だけその表情を変えた。
当たり前だ。
俺に、そんな力は無いんだからな。
“魔”にはレイトの魔力を持つ血を扱うことは出来ない。
作られたモノでも魂ならば成り代わることが可能だ。
けれど、“魔”はレイトの中に潜在的にあったもので、魂とは全く違うもの。
力は使えないから、そう言って使わなくていいように先手を打っておいたのだ。
今、本物のレイトは心の奥深くで眠りについている。
まるで、自分で睡眠薬を規定量以上投与したかのように、レイトは自分に飲み込まれていっていた。
起きようにも、それは不可能だった。
何かに優しく、でも逃れられないように強く包まれ、心は更なる深みに沈み込む―――。
そう、“魔”は差し向け続けていた。
そして、その最悪の道を、レイトは――――着実に、歩み始めていた。
「これから、どうなるんでしょうね?」
《これから、とは?》
「第三次魔法大戦が近々始まってしまうと言われていますから。本当にそうなってしまうのか、という意味ですよ」
ふむ、とアレンは木から下りてレイトの頭の上に乗っかった。
その話は、確かにアレンも太陽国で雑務を熟していた際最重要用件として書類が来ていたので知っている。
冥王星国は太陽国を支配し、裏世界を手に入れる事。
第三次魔法大戦が勃発するのは時間の問題だった。
《なるだろうな。お前もそう思ってるんだろ、レイト》
「・・・・・・・はい」
《戦うとなると、俺ら守護神が最前線だな。頑張ろう》
頷きはしたが、同時に“魔”は決心した。
レイトの力が必要になれば、自分がレイトではないとバレるだろう。
もしくは、疑われるかもしれない。
それまでに・・・・・・手を打つ。
《気が付けば、もう少しで新年だな》と、しみじみアレンは言う。
そんな時期に、戦争が始まる可能性があるなんて・・・・・。
「知ってましたか、アレンさん?綾乃さんには前にお教えしたことがあるんですけど」
《何?》
「この裏世界ではですね、新年になったら皆一斉に歳が一歳増えるんですよ」
綾乃が裏世界に来て間もない頃の、十月二十四日。
その日が誕生日だと喜ぶ綾乃に、その時はまだレウィンだったレイトは説明した。
アレンに、言ったように。
綾乃はじゃあ裏世界に来た以上、こっちの理に合わせるべきだよね、と言って未だ14歳でいる。
その時はまだ失恋をしておらず、初恋真っ最中であった。
レイトと同じ日に同じように歳を取れるのが嬉しいから、というのが彼女の本音。
でもそれとは別に、レイトの誕生日である二月十日も祝いだけはし合おう、と話したのが懐かしい。
その記憶は、“魔”がレイトから読み取ったもの・・・・・・。
まあ、彼もレイトの一部である以上、“見ていた”ことにもなるのだが。
《何だか、表世界の俺や綾乃がいた国の昔みたいだな》
綾乃と嘗てのレウィンの遣り取りを聞いたアレンはそう呟いた。
「それ、綾乃さんも言っていましたよ。それにしても、僕の弟か妹も、酷い時に生まれてくるのですね。もう予定日はすぐですから、年内に生まれるのでしょうけど」
《おお、そうだったな。ちょっと可哀相だな》
でも、そういう守るべきものがあるからこそ、レイトは強くなるのだ。
アレンの目からしても、レイトが必死に守ろうと戦うだろうということは火を見るよりも明らかだった。
だがしかし、“魔”は分かっていた。
“レイト”が、その近々生まれて来るであろう弟妹の顔を見る可能性は皆無であることを。
今レイトの身体を支配しているのは“魔”。
だから辛うじてレイトの身体は保っている。
あの時、アレンが選ばれてレイトは“捨てられた”。
その瞬間から、カウントダウンは始まっていたのだ。
レイトの身体は、レイト自身も気付く前から何度かノイズが走っており、気が付いた頃にはあと幾何も保てない状態であった。
もし今突然レイトの意識が戻ったとして、“魔”が身体を使っていた為に何らかの関係で若干時間が与えられることになるだろうが、それでもそう永くは無い。
《こんな状態じゃなかったらさ、出産祝いとかしてやりたいけどな》
言って木の中に入っていくアレンを見て、“魔”はふっと笑う。
「戦争さえ始まってなかったら、お前の代わりに見るだけ見てやるよ。次期海王星国王を」
まあ、海王星国守護神のレイトが生きてるけど死んでるような感じだから、シェイレ家も荒廃していく気がするけど。
生まれてくるのは、男の子。
レイトはそれを、予知夢で見ていた。
でもあくまで予知夢、現実ではない。
現実で会える日を楽しみにしていたのは、“魔”も知っている。
そして――――初めて“死”の夢を見た時から、会えないかもしれないとレイトが不安に思っていたことも、知っている。
予知夢は時に、幸せを運ぶ。
だがしかし、同時に不幸な未来がくると知った上で必ず避けられずその道を通る。
未来は、変えられない。
例え変えようと足掻いても、その足掻くこと自体が既に想定されていて。
・・・・・・・未来は、結局そうして・・・・・・変わらない。
何だか気が付けばもうラストに向けての盛り上がり(上がってないって?上がってるつもりなんです。)に差し掛かってきているんですが・・・・・・・。
あと、二十何章かになる予定だったのですが。
太陽国を出て地球国に留まるのではなくまたあちらこちらを転々とする旅になる事にしようと思っていたのを、太陽国に長期滞在して地球国に留まることにしたせいで一章の量が増え、章の数が減ることとなりました。
計算すると・・・・・・あ、メモしてた。
十七章です、多分。追加で書きたいことが無ければ。
ここから全ての謎が分かっていきます。
終わり次第、謎が分かった上で『分散せし四葉』の続きを書いていくつもりです。(←とか言いつつ、終わったら番外編書きまくってそう。)
※注意
作者は漫画等で「めでたしめでたし」となった物語があったとして、「彼等がその後どうなったかはご想像にお任せします」というのが嫌いで、「想像の域では満足出来ない!!公式にその後を発表して欲しい!!(←二次創作小説で欲求を満たしてる)」と考えるタイプなので、結構がっちり設定してます。
その後はエピローグと、分散せし四葉で完全に明らかになりますね。
え、駄目ですか。
・・・・・・むむ・・・・・やっぱりそれでもやります!!(反抗期(笑))