第十一章『光の掟』・第五話『集いし者・見え隠れす陰謀』Part2
「ねえ、リフィア。話がある」
一瞬目を見開き、「分かった」とリフィアは告げた。
そのまま二人は城の庭園にあるベンチに誰も周囲にいないことを確認して腰を下ろした。
「アレン、貴方はアタシの秘密を知った――――そうだろ?」
「でもこれも予想の範囲だよ。あのクィルが言っていた冥王星の者。・・・・・・君なんだろ?」
コクリ、と嫌に素直な肯定が返ってきて、アレンは拍子抜けした。
まるで、そのことを言おうと思っていたみたいな・・・・・・・。
リフィアが冥王星国の者だと疑ったのには、あの“姫”の存在と、火星国での矛盾。
民狩りがあったのは事実だが、実は行われた年が違うのだ。
もし、行われた時に生きていたとしたら、とっくに常人なら死んでしまっている。
他にも、おかしい点は数多だった。
「姫、居るんだろ?出てきなよ」
リフィアが言えば、ベンチから2メートルくらいのところに例の透けた少女が姿を現す。
「あ・・・・・!!」
アレンが驚きに声を上げる。
「仕方ない。どの道アタシは反逆者だ、なら本当のことを言っても差し障りないだろ。・・・・な、姫?」
「言うのですか、フォリビア」
・・・・・・フォリビア?
アレンはその名に疑問符を浮かべた。
え、だってリフィアだろ?違うのか?
今までリフィアと呼んでいた少女がフォリビアと呼ばれた。
アレンは動揺し、二人の顔を見比べる。
「フォリビアって・・・・・一体、どういうことだ?」
「アタシはフォリビア。こっちが、本物のリフィア」
「本物の・・・・・?」
半透明の少女が一歩、二歩と近付いてくる。
「私がリフィア。本名は、フォルフィリア=クリュリーと申します。冥王星国守護神ですわ」
本当に、姫だったのか・・・・・・。
でもじゃあ、水星国でイメルダとガージスが倒れたのは!?どういうことだ!?
「でも、リフィア――――じゃなくってフォリビア、お前魔法使えるんじゃないのか!?水星国で、とか・・・・・!!」
「それも知ってたんだ・・・・・そうだよ、使える。これは姫の身体だからね。そしてアタシの心は偽物なんだ」
その物言いに本物のリフィアは一瞬眉間に皺を寄せたが、すぐに嬉しそうな顔をする。
「フォリビア、私の言っていたことを理解したのですね?だから――――私を呼んだのでしょう?」
嘗て、リフィアは自らの身体から心―――魂を抜き出された際、冥王星王の手によって代わりの心をその身体に入れられた。
冥王星王に忠誠を誓い、その命令を確実に執行するよう設定された、まるで奴隷のような心を。
取り出された心はアレンの心が入っていた物と同種の“チューブ”の中に入れられ、度々アレンの元を思念体として訪れていたのである。
時折、代わりにリフィアの中に入った心・D-11254フォリビアは思念体のリフィアと言い合いをしていた。
ある日、リフィアはこう言った。
『フォリビア、貴女は伯父様のいう事は何でもする。偽りの心でも――――心は心です。いつかは命令に従うことをしたくないと思う日が来る筈』と。
「アレン、アタシは、王からアンタを殺すように言われていた。でも、共に旅をする中で・・・・・皆を見て。それを実行することは出来なくなっていた・・・・・・・」
フォリビアは、「いろいろ騙しててすまなかった」と言って俯いた。
いや、気にするなよ、と肩に触れようとしたその瞬間、フォリビアの身体を黒い球体が包み込む。
驚いて立ち上がった時には、完全に全身を包み込んでいた。
「あ・・・・・・駄目っ!!伯父様がお怒りに・・・・・!!フォリビアぁっ」
恐らく、リフィアの魂の本体は冥王星国にあるので両方の風景が見えているのだろう。
冥王星国の状況がどうなっているのかはわからないが、リフィアは酷く怯えた表情を見せた。
アレンは何が起こったのか皆目見当もつかず、伸ばし掛けた手をそのままに固まってしまう。
次第に黒い球体は収縮し、弾けて消え去った。
「多分・・・・・・フォリビアは、始末されてしまうでしょう」
「始末って・・・・・!!」あまりの驚愕に、アレンは言葉を失った。
「アストレイン様。聞いて下さいませ。恐らく、また違う心を入れられ、私の身体は差し向けられる筈。私は出来る限り貴方方一行をお守り致しますが、どうかお気を付けて。それから・・・・・これを、お返し致します」
差し出されたのは、サラの魔力の玉。
ありがとう、と礼を言えば、僅かに口元に笑みを浮かべてリフィアは姿を風景に溶かした。