第十一章『光の掟』・第五話『集いし者・見え隠れす陰謀』Part1
「アレンを刺したのは・・・・クィルよ」
「・・・!!」
瞳孔が思いっ切り開いた。
クィルはアレン付きの宮女で、主に身の回りの世話や勉強を教えてくれていた。
太った身体を武器にして、守護神を集め終わって太陽国に帰国したアレンを半泣きにまで追い詰めるまで仕事を持ち込むこともしばしばで、他国にもよく知られている、有名で有能な女性だった。
・・・・そんな、彼女が?
アレンは信じられず、笑顔を作ってみせた。
その笑顔が歪んでいて、リフィアには痛々しく見えた。
「あ、あはは。リフィアも冗談なんて言うんだな。初めて聞いたよ。で、本当の犯人は誰?」
「・・・・。」
認めたくなくて再度尋ねても、リフィアは頭を左右に振るだけ。
「えっと・・・?まさか、本当に・・・?」
「アタシは、嘘なんか・・・つかない」
「・・・・っ!何で!?クィルは、綾乃がこっちに来てからずっと世話してくれてたんだぞ!?俺が悪いことしたら叱って体罰したり・・・!そんなことがしょっちゅうでっ・・・・!それなのにっ・・・!」
怒鳴っても、どうにもならないけれど、認められなくて。
信じられなくて。
だが、クィルがしたのは紛れも無い事実だった。
あの日・・・アレンが部屋を出ようとした時、クィルは刃物を片手にドアの死角に身を潜めていた。
そうするに至ったのは、半透明の少女が儀式中に現れたから。
飛び出してきたアレンを刺し、逃げ、城を出たところで捕らえられたのだそうだ。
彼女のエプロンドレスはアレンの血で染まっており、誰の目からも明らかだったのである。
でも、普通は殺人、及び殺人未遂を犯したならば、自分が犯人であることを隠すために証拠となるものは始末するものだ。
今回の場合、アレンの血が付着したものを綺麗さっぱり処分すればバレないハズだ。
動揺していて、という訳でもなかったという。
なのに彼女は、自分だと見つけてくれと言わんばかりにその格好のままで逃亡した。
そこに、何か違う意図がある気がした。
アレンはリフィアに支えになってくれるように頼み、綾乃をベッドに残したまま室を出―――地下牢へ無断で向かった。
「・・・アレン様」
クィルが入っている牢は、地下牢入口、監視所の付近だった。
アレンの姿を捉えると、クィルはその名を呼んで微笑んだ。
「お久しぶりですね」
クィルのアレンに対する敬語はそのままだった。それが、更に不審に思わせた。
「こんなところに、何の用です?」
「わかっているだろ?」
「・・・・・・・。」
クィルの服は前とは違っていて、布切れに穴を開けたり縛ったりして作られたものだった。
如何にも、囚人といったような。
「何故だ」
あまり声を出すと痛みを感じる為、静かに――――でもその声音に怒気を込めて、問う。
「何で、あんな馬鹿な真似をした・・・・・・!!」
「・・・・・・・敵である貴方に、ヒントを与えるような真似をすると思いますか?そんな、それこそ愚かな真似を」
敵・・・?
敵って、それってまさか?
「冥王星・・・・の・・・」
アレンが呟くと、クィルがにやりと笑う。
「ひとつだけ・・・もう少しだけ、教えておきましょうか?これが、私があなたにする、最後の講義です」
「・・・・・・・。」
「城に、冥王星の者が私しかいないなどと、お考えになられますな。特に・・・・素性が知れぬ、会話に矛盾が生じる者を」
「素性・・・?矛盾・・・?」
誰かいるがろうか?
でも、クィルは少女の頃から城の使用人としてやってきたと聞く。
しかも、テイムの家庭教師もしていたという。
となると、“いつ”はあまり関係ないようだ。
「そういえば・・・クィル、お前は『姫、私めが代わりに』とか何とか言っていただろう。どういうことだ」
「さて、何のことでしょう?」
すっとぼける彼女と、アレンの間には鉄格子がある。
それでも乗り出していこうとする病人を、リフィアは「落ち着いて」と押し留める。
「言え!!どうなんだよ!」
「さあ?」
「しらばっくれる気か!?そこまで言っといて・・・!どうせその姫って奴が、冥王星守護神でランクが“クイーン”なんだろっ!!」
考えてもいないことが、口を突いて出てきた。
アレンは驚いて、口を押さえる。
アレンの隣で肩を貸しているリフィアまで、びくりと震えた。
「・・・・うして、それを」
クィルも、認めるような発言をしてしまう。
「なんか、出任せ?」
アレンが素っ頓狂な声で返す。
「そうか・・・・・・そうなんだな・・・・・。儀式の時のあの子は、前にも俺の前に現れたことがある。その時は守護神の姿をしていた。という事は」
彼女が、冥王星国守護神。
それが、予想が確信に変わった。
でも、あの少女は今まで自分に危害を加えたことなど無いし、加えようという意思は感じられなかった。
それでも彼女が“クイーン”・・・・・・。
その後もいろいろと問い詰めてみたが、流石にそれ以上は何も教えてくれなかった。
けれど、十分な収穫だった。
アレンは悟った。
城は、いや、どこも彼処も全て、・・・安全ではないということを。