第十一章『光の掟』・第四話『謎の言葉・麗しき血色の衣』Part3
アレンが意識を取り戻したのは、刺されたあの日―――儀式のあった日の、二週間後だった。
目をゆっくり開けば、見慣れた天井が映る。
「・・・痛っ!!」
自然な感じに体を起こそうとしたアレンは、その身体の痛みに呻いた。
あの少女が行った治癒魔法で傷は消えてしまっているが、本来の魔力の保持者が施行した訳では無い上にあまりに深かった為、更に数回に亘って魔法をかけなければ予後の疼痛まで消し去ることは出来なかったのだ。
残った痛みが、全身を駆け抜けていく。
今はもうない創部を押さえ、座位を取った。
ころり、とアレンが起き上がった影響で魚が転がった。
どうやら、布団の上で寝ていたらしい。
ったく綾乃は、とよく綾乃にやられたように尻尾を掴んで逆さ吊りにする。
いい感じに形成された鼻提灯が弾けたが、起きる様子は無かった。
「大丈夫・・・?」
今まで気付いていなかったが、ベッド脇の椅子にリフィアが腰掛けていた。
その他に、アレンの部屋には誰もいないようである。
アレンは頷いて、笑ってみせた。
「だ、大丈夫だ。ちょっと、痛いけどな」
「そう」
「・・・・・・・俺、どれくらい寝てた?」と、恐る恐る聞けば、二週間だ、とリフィアは答えた。
「そんなに!?今、どうなっている!?」
リフィアが訥々と語るところによると、太陽国に長期滞在していたレイトとサラは仕事の為にそれぞれの国に戻っており、冥王星国の動きは特に無し。
そして、アレンを刺した人は既に捕えられており、今は太陽城の地下牢に入っているのだという。
「そのことについて聞かされたのは一昨日の事だ。皆、驚きを隠せないようだった」
「驚きを隠せない・・・・・?俺を刺した、その人が誰かってことか?」
頷くリフィアに、ごくりと唾を飲み込んだ。
聞きたいけれど、聞くのが怖い。
自分を殺そうとしたのは、一体誰だったんだ・・・・・・!?
「誰・・・・・・・なんだ?」
「聞いて、後悔しない?絶対、すると思うけど」
「後悔しない保証は出来ないな。・・・・・・でも、聞くべきだろ」
言いながらも、手が震えているのが分かる。
頭では分かっているのに、聞きたくないと思えてきてしまう。
「じゃあ、言うよ。いい?」
「ああ」
「アレンを刺したのは・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・クィルよ」
アレンが挙げられた名に衝撃を受けているまさにその時、ほぼ各国同時に衝撃が走った。
先程届けられた文書には、アレン達守護神のこの先の生活を大きく左右する内容が書き綴られていた。
冥王星が先日、とある機械を手に入れた。
それは、“魔力を取り出す”機械なのだという。
冥王星の動向を監視していた者から、その機械を冥王星王がどこからか手に入れたらしいと報告があったと。
それはどうも造ったものではないらしく、何らかのルートがあると考えられている。
取り敢えず、機械に守護神を取り込み起動すると、守護神の命が失われる代わりに魔力が取り出せるのだそうだ。
守護神の魔力の籠った“血”を手に入れる為の方法だった。
本来は、守護神自身が魔力を取り出そうという意思のない限り取り出すことは出来ず、加えて取り出しても魔力を持たぬ者には行使出来ない。
だが、それによって例え民だとしても魔力を持ち得るという状況が起こる。
魔力を持つという事は、守護神に成り代わるという事。
寿命300年、一国を支配し、その一族共々生活を保障される。
今はその技術を持つのは冥王星一国だが・・・・・・・。
一つ、言えることが出て来た。
「誰一人・・・絶対に、冥王星に捕まってはならなくなった」
サフィール王は悔しげに呟いた。