第十一章『光の掟』・第四話『謎の言葉・麗しき血色の衣』Part2
『ありがとう、リフィア・・・・・・・貴女がいなかったら、お兄ちゃんはきっとそのまま死んでた』
「ううん・・・・・・」
リフィアがアレンを見て、綾乃もそれに倣った。
パーティ真っ最中で気付かれる可能性は低くて、助けの無いまま放置され、死んでいたかもしれない。
でも運よく、体調を崩したと聞いたリフィアがアレンの様子を見に部屋まで行ったからすぐに発見されたのだ。
早期の止血操作で、死は免れた。
だが問題は、別のところにあった。
裏世界は表世界とは違い、医療が発達してはいないこと・・・・・。
魔力持ちはその魔力量に応じて体を持ち堪えさせることが出来る。
麒麟であるアレンは恐らく本来の死を迎えるまで大丈夫だろう。
魔力はその血に宿るもの。
止血さえ出来れば、本当に一安心なのである。
「ごめんなさい・・・・・・私に力があれば・・・・・・・・・」
『サラちゃん・・・・・・・』
サラの治癒魔法があれば、すぐに治る筈だった。
どうやら臓器にまで刃先は到達していなかったようだし、切り傷なので切り口は綺麗だし。
でも今、サラにはその力は無い。
「姫様、あまり気にしないで下さい。このまま安静にしておけば、アレンさんは大丈夫です」
『ね、レイト君』
「何でしょう、綾乃さん?」
『もし、今・・・・・・私が、身体に戻ったとしたら、どうなるのかな』
泣きそうな顔をして、綾乃がレイトの前まで泳いできて差し出された手の上に乗っかった。
「それは・・・・・・恐らく、即死でしょう。今生命を保てているのは、魔力による自己治癒能力。アレンさんの影響が弱まり、アレンさんではなく綾乃さんが死にます」
自己治癒能力は、病気に対する抵抗力のようなもの。
魔力の強さに関わらず、守護神達皆同じ程度持っている。
回復が早く、痛みも軽減させることも出来る。
それで辛うじて生きていられているのだ、力を持たぬ綾乃ではそのまま死ぬだけだ。
「さて、リフィアさん、綾乃さん、姫様。部屋を出ましょう」
「うん、静かに寝かせてあげよう」
彼等が室を出たのと入れ替わりで、部屋の中にあの透けた少女が降り立った。
でも、たった一瞬。
アレンの様子を見るだけ見て、彼女は姿を消した。
四日後、リフィア一人看病の為付き添っている時に再び少女は現れた。
手に、オレンジ色の光の玉を持って。
「来たのか」と、リフィアが言えば、少女は若干驚いた顔を見せながらも、はい、と返事をする。
「太陽大命神、アストレイン様は、私の“対”になるお人。死なせはしないわ。例え、貴女が妨害しようとしてもね、フォリビア」
リフィアの横を通り、少女はアレンに近付いていく。
そしてベッド脇に膝をつくと、持っていた光の玉をアレンの傷のところに乗せた。
それは、前にサラがレイトの魔力の笛と交換した、彼女の魔力の結晶。
回復魔法が行使され、アレンの傷が消えていった。
「アタシの、邪魔をしにきたのか?」
少女は頭を横に振った。
「いいえ。アストレイン様の治療する為と、貴女に忠告をしに、ですわ」
「忠告?」
「はい。・・・・・・フォリビア、貴女は反逆者と見なされようとしています。このままでは、貴女にも刺客の手が伸びることでしょう」
「魂のみの存在のくせに、随分な口をきくんだな、姫」
苦虫を噛み潰したような顔をするリフィアを、少女は真面目な顔で見ていた。
「貴女がどう出ようと。私はこの方を守ります。アストレイン様は“鍵”。そしてレトゥイル様は“データ”を持つ者です。彼等はこれから何度も我が国の手に落ちる。でも、最悪の事態にだけはならせない」
言うだけ言って、少女は再びその姿を消した。
一人残ったその部屋で、リフィアは先程の少女の言葉を思い出して怯えていた。
反逆者と見なされれば、確実に待っているのは“死”。
でも、肉体の死ではない。
魂の、死。
魂は用無しとして廃棄され、肉体――――器は、再利用される。
“リフィア”は大量生産された内の一つなのだから。