第十一章『光の掟』・第四話『謎の言葉・麗しき血色の衣』Part1
あの少女を大半の人は見えていなかった。
けれど、何人か見えていた者がいた。
「何故、ここに・・・・・!!」
誰も聞こえないくらいの大きさで悪態をついたその人は、きつく拳を握り締めて歯を食いしばった。
継承式の後、大広間にてパーティが開かれた。
中央ではかかっている曲に合わせて人々がダンスをし、少しサイドでは豪華な料理がたくさん並べられている。
楽しげな話し声が聞こえてくる中、主役である筈のアレンは一人バルコニーに出て手摺りに突っ伏していた。
気になるのは、儀式中に姿を現した少女。
別の身体が透けた少女は見たことがある。
でも、彼女もリフィアに瓜二つであるとは言え、目は漆黒、髪は深紫。
それから翼があって―――――と、そこまできて、それが答えだと思い当たる。
今日見た少女と、あの少女は同一人物・・・・・・。
ならば、辻褄が合う。
覚醒モードでなければ、今日見た少女のようにリフィアそのままの茶目・栗毛だったのかもしれないからだ。
と、そこまで考えた時、再び件の体調不良に襲われる。
でも良かった、儀式中は辛くなくて。
結構重いものだと悟って、アレンはサフィールに一言断りを入れ、自室に戻った。
何とかそこまでは持ち堪えたが、ベッドのところまで来るとそのまま倒れてしまう。
幸いなことに、意識が遠のくような感じはしなかった。
だからベッドに俯せになったまま、先程の続きを考え始める。
何故限られた者しか知らない筈の呪文を知っていたのだろうか。
限られた人・・・・・それは、太陽大命神と冥王星国守護神。
最悪の展開がアレンの脳裏を過った。
もしかしたら。
透けた少女は・・・・・・・・。
アレンは平素の何倍にも感じる重力を抱えたまま、身体を無理矢理起こした。
考えが正しかった場合、早く対処を取らないといけなくなる。
手を拱いていたら、手遅れになる・・・・・・!
手近な棒を取ってそれを支えにし立ち上がった。
そういえば―――・・・・
アレンはふと水星国でのことを思い出した。
いったい何故、イメルダとガージスは倒れたのだろう?
アレンも、テイムも、何も攻撃などしてはいない。
なのに・・・?
「・・・あっ!」
確か、あそこに・・・リフィアがいた。
彼女は確かにそこに同行してきていた。
もし、彼女がそれをしたとしたら・・・。
リフィアに直接聞いて詳細を確かめなければいけないとアレンは再度思った。
ドアを開き、廊下に飛び出す。
と、背後に気配を感じ、振り返ろうとしたその瞬間―――体に激痛を感じた。
腹部から血が、まるで決壊したダムのように噴き出す。
アレンは創部に触れ、手に付着したものを見た。
血・・・・・・・。
そのままアレンの体は赤い絨毯が敷かれた王城の廊下に倒れ込んだ。
見開かれたアレンの目に、落下してくる血の付いた包丁が映った。
「姫・・・私めが代わりに・・・」
言って、“その人”は立ち去っていく。
アレンは自分を刺した人の顔を見なかった為、誰だか分からなかったが、よく聞き覚えのある声だった。
視界が歪み、意識が薄れ行く中、“その人”の去っていった反対側からリフィアがやって来ていることに気付いた。
リ・・・・・フィア・・・・・・・。
助けを求めて、手を伸ばす。
血の海に体を委ねるアレンの姿を見たリフィアは、顔を真っ青にして駆け寄ってきた。
「――――あ・・・・・アレン!!アレン!!」
ど、どうしよう!!
リフィアは、慌てて助けを呼びに走り出した―――。