第十一章『光の掟』・第三話『清き継承の儀・孤高の光』Part2
突然誰かがアレンの肩に片手を乗せ、もう一方の手でアレンの手を握った。
「えっ?」
思わず振り向いたアレンの横には同年代の、半透明の少女が立っていた。
その顔は、知り過ぎていた。
リ、リフィア・・・・・・!?
先程式場を見回した時にリフィアの姿も見えた気がしたので、見えたと思ったところを再度見た。
そうすれば、そこには誰もいなかった。
いた、気がしたんだけどなあ・・・・・・・・。
『大丈夫よ』
「・・・・・・・何?」
アレンの肩に乗せられていた手が外され、少女は両手でアレンの手を包み込む。
急なことで、アレンは顔を真っ赤にした。
だが少女は平然と続ける。
『大丈夫。大丈夫だから。・・・私と一緒に』
他の人々には少女の姿は見えていないようだった。
まだざわついたままで。
気になることと言えば、彼女はリフィアとは瓜二つ。
でも話し方が違う。
“アタシ”と言うリフィア、“私”と言う少女。
語尾も違った。
まるでそれは、そう・・・・・姫君然とした感じの。
言われてみれば、雰囲気も違うような・・・・・・?
でもリフィアはいないし・・・・・何より、少女は透けている。
幽霊か?と思うと怖い気がしたが、少女からはそんな気配など無い。
何より、アレン――――いや、篠原湊生自身がそのそも死人であり、霊体だ。
怖いとか言える立場ではない。
まあ、怖いとか怖くないとかはいいとして、一体何者・・・・・!?
そのことに気を散らしていると、少女に『復唱して』と言われ慌ててその想像を振り払い、集中した。
『トゥルス・ノア・ドービル・ネアレス・シェーダ』
「トゥ・・・ルス、ノ・・・ア、ドービル・ネア・・・レス、シェーダ・・・」
アレンが呪文を紡ぎ始めると、式場中が一気に静まり返る。
綾乃もほっと胸を撫で下ろし、サフィールやクィルの頬も緩んだ。
呪文は、たった五分くらいの長さ。
所々、つまり、アレンが言えなくなったら少女が教える、その繰り返しだった。
だが、真似でも呪文を唱え始めると足の下に魔法陣が浮かび、翼が現れる。
銀色の光が弾け、光の粒が宙を舞った。
民衆は皆黙り、事の末を案じた。
『クラッセ・ジャスティアーノ・・・え?』
少女がアレンを驚いたような目で見た。それは、隣でアレンが彼女よりも先のフレーズを言っていたからだった。
(もう・・・・・大丈夫、ね・・・・・・)
「――――・・ケルト、ラージア・・・シャルノーラ!」
言い終え、振り返るとそこに少女の姿は無かった。
・・・・・大丈夫。大丈夫だから。・・・私と一緒に
・・・・・・トゥルス・ノア・ドービル・ネアレス・シェーダ・・・
・・・・・・我は真の“彼の継承者”。 応答せよ、我が力。
・・・・・クラッセ・ジャステイアーノ。ケルト、ラージア・シャルノーラ
・・・・・其は絶対なる革命者なり。 “核”を寄せ、全てを我が手に託せ
アレンの前から姿を消した少女は、アレンが最後まで呪文を唱える姿を遠巻きに見つめていた。
自らと、対になる者を。
こうして儀式は無事終焉を迎えたのであった――――・・・