第十一章『光の掟』・第三話『清き継承の儀・孤高の光』Part1
この太陽系の王様の44年後の話の連載を始めました!!
太陽系の王様Ⅱ~分散せし四葉~よろしくお願いします。
こちらと謎を共有し、キャラ達の未来の姿が登場する為に、連載は徐行運転で行こうと思っています。
今回、カラーイラストを2枚載せています。是非ご覧ください♪
継承式当日・・・
儀式の間へ向かうその瞬間まで、アレンは衣装室にいた。
とっくの昔に純白の神官のような正装に着替え終わっているが、まだ装飾をしようと考えているらしい小間使い達に引っ張りだこだ。
ファッションにわずかならず興味のあるアレンも真剣に選んだ。
その服には元々宝石がいくつかアクセントに付いている。
なんだか如何にも神っぽい、神聖な感じだ。
(・・・・・・・いや、本当に神様なんだけどね。)
アレン以外の守護神達は既に支度を整え終わっていると聞いたから、もう式場の各々の席に坐しているのだろう。
彼等も、同じ道を通ってきたと思うと、何だか変な感じがした。
自分には守護神である自覚はあったが、こうしてみると公ではまだ認められてなかったんだなあ、と思えて若干切なさを覚える。
衣装室の入口にたっぷりと吊るされた赤い幕が揺れて、そこから魚のぬいぐるみが顔を覗かせる。
今綾乃の身体と一体化しているので、つまりはそれが綾乃だ。
そうして見てみれば、違和感がある。
いつもはその姿をしているのは自分であって、わざわざ鏡や水面に自分を映したりしない限りはそうそう自分の全身を見る機会は無い。
だからこそ、中に綿がたっぷり入っているのだと簡単に予想出来るぬいぐるみが、そこら辺をふわふわと飛んでいるのは見慣れないのだ。
自分が綾乃から初めて分離した時、皆同じように感じていたのかもしれなかった。
「おー、綾乃」
《お兄ちゃん。・・・・・大丈夫?緊張してない?》
「緊張はしてない。けどさ、一大イベントがあるんだよな」
一大イベント?と疑問符を浮かべる綾乃に、そうだ、説明を受けた時綾乃はいなかったっけ、と記憶を手繰り寄せる。
「指揮中の項目に、“呪文の詠唱”ってのがあるんだってよ。それは太陽大命神と冥王星国守護神の二人の守護神だけが知り、同じ呪文を継承式では唱えるんだそうだ。だから王も知らなければ他の守護神達も知らない。古い記録によれば、自ずと浮かんでくるとか。曖昧なものに頼らなきゃいけなくてなぁ・・・・・・・その点、不安が大きいだけだ」
《太陽大命神と、冥王星国守護神・・・・・・・裏世界を支える、2大神だったっけ。太陽大命神は時間を司り、冥王星国守護神は空間を司る。2神揃って初めて、世界はバランスが取れ、安寧が訪れるって》
「安寧、か・・・・・・この状況のどこにそれがあるんだろ。そもそも、誰も冥王星国守護神について話してくれる奴がいねェ。一体どうなってるんだよ」
《冥王星国守護神か・・・・・・そういえば、あの紫の宝玉・・・・・》
サフィールから渡された宝玉は、テイムの、サラの、ステアの、レイトの。
あともう一つあった。
紫色の、玉が。
アレンの分が無いのは当たり前だ、その宝玉の中には表世界の彼らが入っているのだから、表世界のアレンである綾乃が出て来ていたら無いのは当然のこと。
考え込んだ綾乃の発した言葉の意味が分からず、アレンは首を傾げた。
暫くしてクィルが遅い、と連呼しながらやって来たのは小間使い達が装飾品に満足をしてようやくアレンを手放してくれた頃。
彼女によると、城下町から城で唯一入ることが許された儀式の間まで、人で埋め尽くされているらしい。
それを聞いて、アレンは危うく倒れそうになった。
「これから太陽の守護神、太陽大命神の任命式及び王子・アレン様の歓迎式典を執り行いたいと思います。まず、太陽王サフィール様より―――」
プログラム・・・式典の内容はまず、王サフィールの挨拶、アレン入場、各国からの祝いの言葉、呪文の詠唱となっている。
その呪文の詠唱がメインの式であるが、直前になってもアレンはその呪文を知らなかった。
再度確認したところ、サフィール曰くやはり自然に浮かんでくるものだ、とか。
要するに、冗談でなく本当に王自身も知らないのだ。
実際、ここ長年太陽大命神はおらず、皆書物とかの伝承的にしか分からないのである。
挨拶が済むとクィルはアレンの背を押し、民衆の前に出るように言った。
しぶしぶの入場であったが、姿を現すなり人々は歓声を上げ、大拍手を送る。
数万人もの拍手の音は、儀式の間がよく響く造りになっていたのもあってとても大きく、アレンを感動させた。
と同時に、気が引けた。
足が後ろに下がりそうになれば、背後から何らかの―――十中八九クィルからの―――殺気に近いオーラを感じて、引きずるように足を進める。
だが次第に、学校の校長先生の言葉を思わせるような長々しい各国の言葉に、うっすらと眠気を感じるほどまでに緊張の糸は解けていく。
目が細くなって、視界が狭くなる中、仲間の守護神達の姿を捉えた。
そうなると、余裕が微かに出てきて―――会場全体を見回し始めた。
アレンや各国の王といった身分の高い者達は二階席、一階席の民衆の衣装はバラバラで、正装の者や民族衣装っぽいものやらを着た者もいる。
十国のそれぞれの領土はその名の順に緯度分けされていて、各国をエスカレーターみたいなものが一直線に繋がっているので、最も遠くから来ている海王星の人々でも三時間くらいで来れる。
ご苦労なものだ、などと暢気に考えていたアレンを、放送の声が現実に引き戻した。
「今日のメインイベント、呪文の詠唱を行います。アレン様、前へ」
呪文の詠唱、その存在を忘れかけていて、一気に青ざめた。
そろそろと立ち上がって一階のステージへ行き、中央に立つ。油汗が一筋伝って行った。
「出来ないんじゃないか?」
誰かの声が聞こえて、サフィールの膝の上に座って事を見守っていた綾乃はビクついた。
一人声を上げれば、不安に駆られたり元々不信感を持っていた人々が罵声を上げ始める。
その声は、大きくなっていった。
「いや、ただ単に適さないだけでしょ」「そもそも魔力ゼロとか?」「間違いなんじゃねえ?」
見るに、アレンは緊張してきたのか皆の声は聞こえていないようだ。
見兼ねてクィルが、「王様、このままでは・・・」と耳打ちする。
「大丈夫だ。あの子なら―――アレンなら、きっと」
王サフィールは少しも疑わず、ステージのアレンを見た。
その言葉は、まるで自分に言い聞かせているようだった。クィルの顔に焦りの色が浮かぶ。
「ですが、このまま呪文が言えないということになれば・・・アレン様を選ばれたのは王様です。王様への国民の信頼にもしものことがあれば・・・!」
「それは、まあ・・・そうだが。そうなったら私の責任だ」
一生懸命説得を試みるクィルを手で制し、王は断言した。
綾乃は心配して、遠くに見える兄の姿を凝視する。
一方、アレンの方は無言で四分経過しそうになっていて、混乱真っ只中にあった。
突然誰かがアレンの肩に片手を乗せ、もう一方の手でアレンの手を握った。
「えっ?」
思わず振り向いたアレンの横には同年代の、半透明の少女が立っていた。
その顔は、知り過ぎていた。
リ、リフィア・・・・・・!?