第十一章『光の掟』・第二話『頻発する異変・少女の本性』Part2
水星国での水減少事件以来、リフィアは悩んでいた。
綾乃達一行に同行してから今まで、特に目立たないようにしていた。
・・・・・・疑われることの無いように。
一人一人の性格、魔力の強さ、一行の中での役割。
旅の目的、そしてその動向を観察してきた。
隙あらば綾乃の持つ宝玉の一つ、冥王星国守護神の表世界の人間が入ったものを奪う任務もあった。
メインは、特定の人物を殺すことであったけど。
ついでに言えば。
火星国で父親が死んだなんて、全部嘘。
そう、ウソ。
確かに昔、民狩りは本当にあった。
けれど、リフィアは狩られた方じゃない・・・・・・それを、指揮していた方。
成長しないから老いることも無い、その体を使って。
でも何故だろう、とリフィアは心の中に渦巻く変わった感情を手に余していた。
一緒に旅する中で、情でも移ってしまったのだろうか?
そこまで考えて、リフィアは苦笑した。
「作り物のアタシに、情なんてものは無いんだよ・・・・・ただ、あの方の為に」
だったらどうして、水星国で助けてしまったのだろう。
“闇属性魔法”――――冥王星国守護神の力を使って、放っておけばくたばっていただろう湊生とテイムを助けてしまった。
自分の手を煩わせることなく、殺せたのに・・・・・・どうして、出来なかった?
分からない。
どうしてなんだろう。
どうして、見殺しに出来なかったんだろう。
掌を見れば、そこには気を失てしまっている湊生がいる。
無防備な状態の彼を殺すことは簡単なこと。
でも、どうしてもそうする気が起きない。
心が拒否してる。
感情なんて、取り払われてしまったのに。
その命に背くつもりは無かったが、知らず知らずに逃げていた。
リフィアは湊生を抱いたまま綾乃の部屋に行き、ベッドの上に寝かせた。
《ん・・・・・・あ、リフィア?》
ベッドに降ろされたその僅かな衝撃で目を覚ました湊生は、すぐにリフィアを見た。
気を失う寸前にうっすら見たような記憶があったことから、綾乃の部屋まで連れて来てくれたのが彼女だと知る。
《ああ、そうか・・・・・君が運んでくれたんだろ?》
「そうさ。具合はどうだ?大丈夫か?」
《まだちょっとな。でもお蔭様で少し楽になったよ。ありがとうな》
若干目がしょぼしょぼして、身体が睡眠を欲しているのが手に取るように分かる。
そして何故か、全身を魔力の気?みたいなものが駆け巡って行く感覚がした。
ただの病気ではないんだろうか?
でもそのせいで、湊生の目には違うものが見えていた。
《・・・・・なあ》
「何?」
《お前が、もう一人見える》
ベッドの脇の椅子に座っているリフィアの後ろ、1メートルくらいのところに別の少女が立っていた。
目は漆黒に染まり、深い紫色の髪は長く、その背に生えた翼は白い。
・・・・・・守護神・・・・?
ンな訳、無いよな・・・・・目がおかしいのかもしれない。
湊生はそう思って、一度、二度と瞬きした。
けれどまだ見えた。
少女はリフィアに限りなく似ていた。
リフィアは栗毛、茶目で髪型も少女とは違うけれど・・・・・・・似ている。
一般市民のリフィアは男勝りな言動が多く、その名に似合っていない印象を受ける。
一方少女は、姫君然としていた。
白く長いワンピースを着た彼女の身体は透けていた。
幻なのかもしれない。
《そっか・・・・・・君》
湊生の視線が自分に向いているのではなく、その後ろにあると知ったリフィアはパッと振り向こうとした。
「湊生、アンタ一体何を見て・・・・・・」
リフィアがその姿を捉える寸前に、少女は姿を消した。
「何も無いじゃないか。今も意識が朦朧としてるみたいだし、どうせ幻覚でも見えたんだろ」
《消えた・・・・・・》
消えた少女は悲しそうな眼をして、何かを伝えたそうにしていた。
でも彼女を見た瞬間、湊生は変な感じがした。
欠けていた自分の何かが揃った、みたいな。
何だろう、この感覚。
君は、誰なんだ・・・・・そして、どうしてそんな顔を?
眠りに身を委ねながら、湊生は傍らのリフィアでさえ聞こえないくらいの小さな声で呟いた。