第十一章『光の掟』・第一話『恋人達の逢瀬・再びなされた約束』Part3
「こうして姫様とのんびり過ごすのは久しぶりです」
砂漠の国の数少ない湖の辺に腰掛けた二人は、木陰でのんびりとしていた。
昔からそこが二人の遊び場だった。
別に何をする訳でもなく寝そべってみたりして。
大抵レイトは本を読み、サラはその横で仰向けになり言葉を交わしたり寝ていたり。
城下町で走り回ることも多かったが、基本午後はそうして過ごした。
そんなことを思い出しながら湖を眺めるレイトを、サラはじっと見つめた。
返事が無いことを不思議に思って、もしかして寝てしまったのかと振り向いたレイトと目が合って、サラは慌ててそっぽを向いた。
ベタな展開だからこそ、逆に意識させるのだ。
二人は顔を真っ赤にして、両者共にあの日の夜を思い出す。
ただ手を重ね合って、想いを告げて。
互いの身体を引き寄せて抱き締めただけだったけれど、まだ恋愛の手引きが必要そうな二人にはそれが精一杯だった。
「姫様。姫様、こちらを向いて下さい」
恐る恐るレイトの方を見れば、顔が赤いのを隠そうとはせずはにかむレイトの姿があった。
「まだ十二歳で婚約なんて言われてもピンとこないでしょう?」
レイトは物心ついた頃から言われ続けたことなので、ピンとはこないにしろ当たり前のこととなっている。
「・・・・・・・うん」
「僕も同じです。これからの人生を姫様と共に歩いて行くのだと認識はしていても、そこまでなのです。認識でしかありません」
サラは無言で、ただただ頷く。
「昔から、よく聞きます。守護神は守護神と結ばれるのが一番幸せなのだと。幼い頃は半信半疑でした・・・・・それで想い人がいるにも関わらず政略結婚させられて、本当に幸せなのでしょうか?って。守護神は300年も生きる為に想いが届かないことも多いでしょうけれど、僕は例え相手が守護神ではなくても本当に好きな人を選ぶべきだと、そう思っていました」
「・・・・・・・・。」
「とはいえ、もし姫様が普通の人だったならと考えたら寒気がします。やはり同じ時を生きられるというのは何にも換え難いものがあると、今は感じています」
微笑むレイトに、サラの口から自然に「レイト王子・・・・・」と、声が漏れる。
「僕が好きになった姫様が守護神で、本当に嬉しいです」
ノーリネス家に守護神が生まれるのは予知から絶対だった。
けれど、サラがそうとは限らなくて。
生まれながらに守護神として覚醒していたレイトは成長するに従って恐怖していた。
もしかしたら最愛の人を早くに亡くし、残りの200年を一人で生きていくことになるかもしれないことを。
純粋過ぎるほど純粋なレイトは一夫多妻や再婚を考えたことなど無かった為、想像の果てはいつも独り身だった。
サラの前では笑顔でも、裏では不安で一杯だった。
子供なりにあれこれ考えた。
自分が守護神であることを悔やんだことは無いけれど、どうしても束縛感は否めなかった。
運が良かったのは、生前から婚約が決まっていた異国の姫が、とても可愛らしかったこと。
出会った当時は妹のような感覚だったけれど。
昔、「レウィンはもう一人のお兄様みたい」と言われた時は、お互い兄妹感覚であったことが判明してこの婚約大丈夫かとも思ったこともある。
十歳になって、サラが覚醒した。
どれだけ嬉しかったか。
今隣で赤面している貴女には、伝わらないのでしょうね。
「私・・・・・も」
「・・・・?姫様?」
「私も、レウィンがレイト王子で、本当に嬉しかった・・・の」
「どうしてですか?」
「だって・・・・・身分は違うし、守護神と一般人だし・・・・・ね?そうでしょう?」
本心を暴露するのを恥じらい、同意を求めてくるサラにレイトは慈愛に満ちた笑みを浮かべる。
「さあ、そろそろ行きましょう、姫様。日が暮れてしまいます」と、レイトがサラに手を差し出し、
「うん」と、サラはその手を取った。
第一話(サラとレイト編)終了。
次から継承式編に入って行きます。