第十章『水の掟』・第三話『遭遇せし敵・新たなる刺客』
「水よ、俺に従いて・・・・その力、顕現させん!!」
「光よ!!我に仇なす者に・・・・・永久の戒めを与えよ!!」
二人の攻撃が一点に集中する。
案の定、待ち構えていたように“ポーン”が現れた。
湊生とテイムは魔法を連続で使い、敵の中で最も弱いというランクを蹴散らしていく。
洞窟は狭い割に数はというとやたら多くて、最弱というが大して弱くない。
やっかいな奴らだ。
ポーン達の格好は大体が黒い仮面に黒い衣装を身に纏っている、といった感じである。
都合が悪いことに、あまり暴れると洞窟が崩れ、水が入ってくる恐れがある点だ。
まあ、テイムの魔法で酸素を取り込んだ水泡を作って上まで上がれば助かるかもしれないが・・・・・この先、何があるのか分からない。
彼らが現れたのは、ちょうど最後のポーンを片付けた時たった。
「初めまして、太陽と水星の守護神。ここに来たらしいという報告があって、のこのこ出てきてやったヨ。感謝してよネ。・・・・アタシはナイトのイメルダ、隣にいるのはビショップのガージスだヨ」
頼んでもいないのに自己紹介をしてくれた。
にしても、女性の軍人とは珍しい。
イメルダと名乗った女の子はサラくらいの年齢に見えるのに大隊長クラス、ガージスという中年に見える男の中隊長らしい。
「本来なら太陽大命神アレン、オマエはアタシに勝てるでしょ。でも、もうクズ達相手にしてたせいで結構魔力消費してるんじゃなイ?ま、そっちの水星国のヤツは元々ダメだけどネ。きゃははははッ」
湊生とテイムは二人共図星であるためにチッと舌打ちをした。
にしてもポーンをクズ呼ばわりなど、何か気に入らない。
弱かろうと、クズはないんじゃないか、クズは!!
テイムにしてみれば、ランクが近いので自分も言われている気がしてならない。
「湊生・・・・・・!」
「ああ。強い魔法は後一回がやっと・・・ってとこだ」
「オレも。なんつーの?四面楚歌的な?」
「まあ、そんなとこかな」
人数を減らすのを優先するのか、強い方を弱らせるのを優先するか。
「アイツを・・・・・ビショップを狙おう」
「よしっ!!」
湊生の判断にテイムも同意し、ガージスを集中狙いすることに決めた。
突然イメルダからの攻撃を受けて、二人はほぼ同時に左右に跳躍する。
そのまま湊生はイメルダの後ろに回った。
ビショップというランクも伊達ではなく、すぐに振り返って魔球を放ってくる。
テイムと湊生がチャンスを探して逃げ回っている中、湊生はあることに気付いた。
「テイム!!何だかおかしくないかー?」
「なーにがぁー?」とテイムは攻撃を避けながら尋ねる。
「ビショップ見て何か気付きませんかー?」
湊生のテイムへの敬語使用は、ほぼテイムを見下してるか呆れてる時に行われるようになった。
今の場合は、返事があまりに緊張感のないものだったからだ。
あくまで今は戦闘中ということを忘れないで頂きたいものだ。
「一歩も動いてないっすねー。ナイトさんばっかオレら追いかけてますねー」
意外にも、あっさりそのことに気付いてくれた。
テイム、洞察力はあるということか。
「ああ。ビショップの方が実は強いんじゃないかなって今思案中」
「性格じゃなーい?イメルダさん、何でも武力行使のお馬鹿サンみたいだし」
「お馬鹿サンって言うナ~!!その口を今すぐ塞いでやル!!」
どうも、ナイトはオカンムリのようだ。
さっきよりも敵の攻撃の精度が上がった気がする。
それもこれも、テイムが失礼なことを言ったからだ。
まったく余計なことを。
「ナイトを狙うのは、それでも止めとこう!狙いはビショップ、変更無し!」
言って、湊生がビショップの方に右手を上げた。
背後では、「させるかあ!!」というナイトの声が響く。
こっちに攻撃がこないことを考えると、またテイムがおちょくったようだ。
バアアアン
放った渾身の一撃が、ビショップに接近していく途中で掻き消えた。
まるで空間が歪むように。
効かない・・・!!
湊生の最後の力はあっけなく砕け散る。
二人ともそれを唖然とした顔で見て、テイムはイメルダに攻撃することに変更した。
勿論勝てる訳などなく、イメルダは指一本で止めてしまう。
力がなくなった二人は為す術も無く、ただただ一心不乱に逃げ回る。
二人は、近くまで隠れている綾乃とリフィアが来ていることに気付かなかった。
そして何故か綾乃は気絶している。
実は綾乃が気絶しているのは、魚に乗り移る際に魂が殺気に直接触れた為だ。
リフィアが何かしたのではなく、ただ湊生の魔力は強かった為に彼は影響を受けなかったというそれだけの差だ。
リフィアは、二人の危機を見て取り。
僅かに、口を開く。
「闇よ・・・・・、織り成した見えない矢でその胸を貫き、死に至らせ・・・・・・!!」
二人の耳に入らないように小さな声で言うと、一瞬にしてイメルダもガージスも倒れた。
湊生とテイムからしてみると、走って逃げていたら急に敵が倒れちゃったよ状態だ。
呆然と生きているのか確認しようと近寄ってしゃがみ込む二人を、リフィアは見ていた。
「湊生、今何が起こったんだよ・・・・・」
「俺が知るか」
「なあ、この人達も冥王星国の一般人なんだよな?」
「ん?あー、何かアイツそんな報告書書いてたなー、そういえば」
「あいつ?」
「ステア」と、テイムは恐怖に怯えた顔をする。
先程よりもよっぽど怖がっているように見えて、何だか湊生にしては変な気分だった。
先程まで隠れていた岩のところまで走って行きながら、リフィアは自分のしたことを後悔していた。
助けてしまった・・・・・・・・・。
でも、見殺しにする気にはなれなかった。
折角・・・・・・守護神を、しかも二人消すことが出来そうだったのに。
胸がドクンドクンと早く脈打つ。
走ったからもあるが、それだけでは無くて。
不思議な感情が同時に全身を駆け巡って行った。
何の前触れも無く、突然それはやってきて。
「アタシ・・・・・・何て事を・・・・・」
無意識的に紅潮していく頬を、そっとリフィアは押さえた。
頭が助けなければ、という考えでいっぱいになった。
自らに課せられた任務も忘れて。