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第7話 新たな助っ人

「ちょっと、休憩しましょ」

「あの公園で一休みするか」

 大きな整備された公園に向かった。

 フリーマーケットや大道芸がそこかしこで行われていた。

 大雨の逃避行より一週間が過ぎ、すでに領内に戻っていた。


「さあさあ、寄ってらっしゃい、見てらっしゃい。種も仕掛けも無いこの小さな球、ここで呪文を唱えるとアーラ不思議。赤と青のボールが宙に浮き始めました」

「おー、すごい」

「そこのお兄さん、何かしていると思うでしょ。ほら手を後ろに持っていってもこの通り」

 両手を後ろで組んだ。

「おー、おー」

 周りの観客から拍手が起きる。


「ねえ、ねえ、あれはどうなっているの」

 エリザベスがルークに聞いた。

「珍しいな、たぶん、あれは風の魔術師だ」

「えっ、風の……」

「そう、風だ。火や水の属性の魔術師はけっこう居るが、風はめったに居ないからな」

「そうね、火や水だと生活にも役立つから、よく見かけるけど風は始めて見るわ」

「風は火と水をマスターしてからじゃないとできないんだ」

「じゃあ、エリート?」

「そう、風が使えると言うだけで、たぶん仕官の口には困らないと思う」

「じゃあなんで、こんなところで大道芸をしているの」

「さあ、そこまでは……」


「さあさあ、お客さん、ついでにこんな事も出来るんですよ」

 男は懐から鳥のおもちゃを取り出すと、ぱっ、と宙に放り上げた。

 鳥が空から落下し始めると、地面すれすれでいきなり浮上、羽を広げて観客の周りを周回しはじめる。

「鳥さんが空に飛んでる」

 子供が喜んで指差している。

「じゃあお嬢ちゃんにサービスしてあげよう。ちゃんと怖がらずにまっすぐ立っていてね」

 男は言うや否や、女の子の頭に指を置く。

「えいっ」

 子供が指に吊られて浮き始めた。

「えっ、どうして、浮いてる。ママ、ほら、空飛んでるよ」

「もう1つサービス。ほら」

 子供が男の頭の上まで浮き上がってきた。

「わー、遠くまで見える」

「いかがでございますか皆さま、お気に召しましたでしょうか」

「おーすげえ、始めて見た」

「ほんと、どんな仕掛けがあるのやら」

 観客が次々にコインを前においてある帽子の中に投込んでいった。

「ありがとうございます。ありがとうございます」

「それでは今日はこのくらいにして、はい、終了」

 ゆっくり子供が降りてきた。 

「おじちゃんありがとう」

「どういたしまして、これ協力してくれたお礼だよ」

 男は女の子に棒つきの飴をプレゼントした。

「ありがとう」

「どうもありがとうございました」

「いえいえ、こちらこそありがとうございました」

「ばいばい、おじちゃん」

 母親が挨拶して、娘は手を振って去っていった。

「できれば、お兄さんと呼んで欲しかったな」

 親子ずれが去っていく後姿を見ながら男は独り言をつぶやいていた。


「よう、あんちゃん。やるねえ、あんた風使いだろ」

 人々が去ったのを待ってルークが男に話しかけた。

「よく、分かりましたね」

「まあな、色々旅してると詳しくなるのさ。ところで風使いの中でもあそこまで緻密に風をコントロールできるってことは、あんたかなりの使い手と見たが……」

「いやー、それほどでは」

 男は、ばつが悪そうに頭を掻いていた。

「ところで風が使えながら、こんな事といっては失礼だが大道芸まがいのことをやっているんだい」

「まあ、こちらは本職ではないんですが、本業は薬師でして、山で取れた薬草を精製して薬にして売りに来てます。これをやっているのは、けっこう余禄になるので」

「それにしても、あなたほどの実力があれば山奥に住まなくても仕官する先はいくらでもありそうなのに」

 エリザベスが話しかけた。

「いやー、若気の至りでして、もう亡くなった宮廷魔術師のダーン様に真っ向から歯向かったことがございまして」

「あの魔術師の神と言われた」

「まあ、一般的には神なんでしょうが、我々から魔術師側から見ると余り故人の悪口は言いたくないのですが、独裁者と言いますか……私の行く先々で私を雇うなら今後魔術師を派遣しないと各城主を脅す始末」

「それで干されちゃった。という訳か」

「お恥ずかしいことながら。今はしがない薬師でございます」


「特技と言えば、これくらいの事しかありませんが」

 男が軽く指を動かす。

 エリザベスのスカートが風をはらんでふんわりとたくし上がった。

「はう……っ」

 そこにはなんとガーターベルトに吊るされたストッキングと、総レースの桜色の小さな下着が丸見えになっていた。

 絶妙の加減で、まくられたスカートはもはやエリザベスの臀部を覆う役割を完全に放棄して、彼女の大事な部分をほとんど露わにしていた。

 ガーターベルトのすき間からむっちりとした白い太腿が覗き、適度な膨らみをもった真っ白な双臀が白日の下にさらされた。

 ほんの二、三秒だったが、一瞬も目を離すまいと集中していた二人は、じっくりとエリザベスの生尻を堪能することができた。


「きゃっ、なによこれ」

 エリザベスは両手であわててスカートの裾を押さえた。

「ありがたや、ありがたや」

 二人は手を合わせてエリザベスの臀部に向かって拝んでいた。

 そして、ルークはくるりと風の魔術師のほうを向くと、

「いやあ、よかったよ。なかなか優れた技だ、しかし、相手を間違えたな、ご愁傷様でした」

 ルークが男に手を合わせ深々と合掌した。

 それを待ちきれないかのようにエリザベスが何とも言えない形相ぎょうそうで睨んできた。

「見たわね」

「はっ、はい」

 男は脅えながら答えた。

「代償は高くつくわよ」

「あーあ、俺、知らねー」

 ルークはよそ見して、口笛を吹いた。

「あなたは、どこの国に住んでいるの、家族はいるの」

 エリザベスがかなり強い口調で詰問する。

「この国に住んでいます。親戚一同ここにいます……」

 彼は話しているうちに背筋に冷たい嫌な感じがした。

「かわいそうね、良くて全員禁錮ね。まあ、悪ければ皆、明日から土の下よ」

 姫が勝ち誇ったように腕を組んだ。

「私の名を知っている」

「いえ」

「エリザベスよ。ちなみにこれ家紋」

 短剣の柄を見せると、百合の紋章が描かれていた。

「えっ……」

 あまりの事に絶句した。自分のしでかした事の大きさに頭を抱えた。百合の紋章は誰でも知っている王族のしるしであった。そしてこの家紋は許可無く使用した場合は罰せられる事になっていた。

 つまり、正真正銘の王家の証拠であった。

 彼はいいところの商家の娘くらいに思っていたので、まさか王族に手を出したとは思わなかった。

 冷や汗が全身から流れ出て、足をふらふらとさせながら一瞬逃げようとした。

 エリザベスが軽くルークに合図を送る。

「こら、さっきの威勢はどうした」

 ルークにがっちりと肩をつかまれていた。

 満身創痍の彼はその場にへたり込むしか無かった。

「どう、私に従う気ある。そうしたら家族の安泰、考えてあげてもいいわ」

「もっ、もちろんです」

「よし、決まり。じゃあ城まで一緒について来なさい」

 ルークは後ろを向いて『ご愁傷さま』とつぶやいた。

「いやー、仲間ができてうれしいよ」

 ルークはすこぶる機嫌が良かった。

 後年、風の大魔導師として名を馳せた男との出会いであった。

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