第5話 王宮
「オーさすがは国賓が泊まる場所だな」
エントランスを入るとドア向こうにリビングダイニング、その奥にミニキッチン、ミニバー、特大のバスルームにバルコニーがついていた。
さらに主賓の寝る場所以外にベットルームが四つ付いている。付き人用の部屋のようだ。それぞれのベットルームにはホテルのシングルルームほどの設備が装備されている。机、椅子、ソファーにバス付きのシャワーまで付いていた。
「きゃー」
「どうした」
ルークがあわてて主賓室のドアを開けて部屋に入った。
「ごっ、ごきぶり」
「なあーんだ、そんなことか……」
彼の視線がエリザベスを捕らえたとたん泳いだことに、彼女は気がついていないようだ。
彼女の意識はゴキブリに完全に向かっていた。
エリザベスは脱ぎ終わったブラウスを胸の前で抱きしめていた。
ブラウスで隠しているとはいえ、横からは桜色の下着がはっきりと窺え、艶やかな肩が剥き出しになり、美しい鎖骨が目を引いていた。
しどけなくブラの肩紐が二の腕に垂れ、生地が肌蹴てとろけるような膨らみが、きわどい所まで露わになっている。
ブラウスで押しつぶされた連なりは、逃げ場を失い今にも零れ落ちそうにまろび出ている。
慌てている彼女の動きに合わせてゆさゆさと悩ましく揺れ動き、ルークの目を釘付けにした。
目を転じると、彼女の傍らに脱ぎ忘れられているスカートが見てとれた。
ルークはごくりと喉を鳴らした。
柔らかなブラウスの布地からもう一つの大切な部分、繊細な刺繍の施されたチュールレースの薄布が、ほんのり浮かび上がっていた。
ルークの位置からだと、きわどく切りあがったショーツから、生の太腿が大胆に露になって視界に飛び込んでくる。
引き締まったウエストから背中にかけて、肌理細やかな柔肌が白く輝いている。
絹のレースに縁取られた双臀は、匂いたつような女らしい曲線でムッチリと脂がのって艶めかしい。
ウエストの絞りこみが深く、逆に豊かに実った官能的なヒップラインが、足首へと流れるようなスタイルをよりいっそう強調していた。
見えそうで見えない姿が、かえって想像力をかきたて欲情をそそられた。
「それより早く服を着ろ。目のやり場に困る。たのむから、これ以上俺に負債を負わせないでくれ。まあ、見るだけなら何度でもいいんだけどな」
「えっ、きゃっ……」
エリザベスは慌てて奥の部屋に入って着替えてきた。
豪華絢爛な大階段を昇っていくと、ライオンの上にまたがった大帝がエリザベスとルークを出迎えていた。
左右には女神像。天井の絵も見事だ。
階段を登って最初の部屋についた。
「おお、これまた豪華だな」
「あら、ここは衛兵の控えの間よ」
「えっ、たしかによく見ると床は雑なタイル張りだな」
「泊まっていた部屋は、大理石張りだったでしょ」
「廊下の天井や壁の装飾は豪華で繊細だし、さすが大国フローレンス」
ルークとエリザベスが案内されながら宮殿の中を歩いていた。
「さて、今日はどのようなご用件かな。いっいや、エリザベスは娘みたいなものだからいつ来てもかまわないんだが、最近は忙しそうだし、用事がないと来ないかなと思ってのお」
エリザベスの母の兄がこの王のエドワードであった。そのため彼女は幼少のときより度々この宮殿を訪れて長期に滞在していた。頭の良い彼女を自分の娘のように王は可愛がっていたのであった。
近年、エリザベスは皇位第一継承者であるのと同時に、国境の大きな城を任されているため多忙な毎日を送っていた。
見事な刺繍のついた布張りのソファに上品に腰掛けているエリザベスは、美しい笑みを浮かべていた。
エリザベスに笑みを向けられ、王は優しげな目を返している。
彼女の後ろには、秘書兼護衛という立場のルークが立っている。
話は全てエリザベスが行うことになっているので、暇なルークは、視線だけを動かして屋内の様子を観察していた。
彼女も今日は普段の軽装ではなく、品の良いドレスに身を包んでいる。
「実は隣国のエラムことです。最近、旅の商人たちから興味深い話を聞きました」
「ほー、それは」
「麦を大量に買い付けているとのことです」
「それは……」
「それと呼応するように、私の国内でも不穏な動きがございまして」
「うむ、こちらも十分注意しよう。至急情報を集めるとともに、そちらにもお伝えしよう」
「ありがとうございます」
「まあ、せっかく来たんだ。難しい話はこれくらいにして、お茶でも飲んでゆっくりしていこうじゃないかリズよ」
「はい、おじ様」
たおやかな指で優雅にカップを持ち上げ王に礼を述べ、紅茶に口をつける。
にこやかな笑顔とともに二人の談笑は続いていった。
私事で忙しく、申し訳ございませんでした。ようやく続きを書けるようになりました。今後ともよろしくお願いします。