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第3話 猛獣退治

「ほーら、いつまでボーっとしてるの、うちはただ飯喰らいはおいてないの。さあ出かけるわよ」

 エリザベスの執務室の一角で、ルークは何をする訳でもなく外を見つめてたたずんでいたのであった。

「おおう、人使い荒いなあ。そんな事じゃ婿の来手が居なくなるぞ」

「あら、この美貌とナイスバディを世間は放っておかないわよ」

 身体をしならせてポーズをとる。

「たしかにスタイル抜群なのはわかるが、実際見ているしなあ」

 ルークはにやりと笑った。

「恥ずかしいこと言わないで」

 両手ですばやく服の上から胸を隠した。

「うっ、おほん、気を取り直して、さあ、行くわよ」

「どこへ?」

「ちょっと森まで熊さん退治よ。村で被害が出始めてるの」

「まあ、いいでしょう。どうせ暇だしお供します」



 二人は木漏れ日の落ちる森の中を歩いていた。

「なあ、念のために聞くけど森のどの辺で出るのか知っているのか」

「えっ、森を歩けば分かるかなとか思ったりして」

 彼女は当ても無く森を彷徨っていたのであった。

「おい、おい頼むよ。どうするか」

「まあ、なんとかなるわよ」

「とりあえず、川か湖の方にでもいくか」

「なんで」

「あのね、動物は水を飲まなきゃ生きていけないの。つまり水辺に集まるのさ。そしてその動物を狙うために肉食動物も集まって来やすい」

「おおーっ、博学」

 エリザベスは拍手していた。

「冒険者としては、基礎中の基礎だ」

「だって、私王女だもん。そんな知識知らないし」

 彼女は口を尖らせていた。

 とりあえず歩いて行くと、水の流れる音が聞こえてきた。

 音の感じからすると小川らしい。

 しばらく進み藪を抜けると、浅い小川へとたどり着いた。

 どうやら豊富な湧水が川を作っているらしく、川底から水がボコボコ湧いており水草が流れにあわせてたなびいている。向こう岸で鹿が数頭小川の水を飲んでいた。

 いきなり、一鳴きすると鹿が起き上がり走り去った。

 奥の方から草を踏みしめる音が聞こえてきた。

「噂をすれば」

「あっちからよ」

「おうっ」

 音が聞こえた森のほうへ注視する。藪から現れたのは巨大な熊のような生き物だった。真っ黒な体に目は妖しく赤黒く光って、爪も青緑に照りが出ていた。

「ビンゴ。戦うぞ」

「そうね」

 ルークたちは剣を構えて強大な熊に応対した。


 巨大な熊はまるで品定めするかの様にこちらを眺めていたが、うなり声を上げていきなり突進してきた。

「はやっ」

 ルークはすばやく避けた。

「ちょっと、逃げてないで何とかしなさい」

 エリザベスはあわててその場から飛び退く。

 勢いを止めないまま突進した熊は、彼女のいた背後の木を振り上げた手で粉砕してしまった。

 ものすごい音を立てて木が倒れていく。

「おいおい、デーモンベアーにしてはちょっと大きくて強すぎないか」

「あれ、言わなかったかしら。デビルグリズリーよ」

「おい、熊って言ったら普通デーモンベアーでしょ」

「まあ、どっちだって似たようなもんよ」

「ばか、えらい違いだ。デビルグリズリーはデーモンベアーの倍の力があって頭脳も狡知に長けているんだぞ」

「あら、そうだったの、これから気をつけるわ」

「おいおい、今はどうするんだ」

 止まったルーク達に容赦なくデビルグリズリーは襲い掛かってきた。隙を見てルークは剣で斬りかかるが、グリズリーの爪で弾かれる。

 エリザベスは避けるのがやっとで近づくこともできなかった。

「なによあの強さ。出鱈目もいいところよ」

「だから言ったろ。最初から分かっていれば銛とか弩とかの飛び道具持ってきたのに。来るぞ」

 エリザベスが慌てて見れば、すでに熊は突進しようと身構えている最中だった。

「仕方がない。人前では余り使いたくないのだが……」

 ルークの全身が何かに包まれていくのが分かった。

「はぁぁぁ……」

 ルークが気合を込めて剣を構えると、その何かが剣に纏わり付いていく。

 剣が青い炎のように輝き始めた。

 グリズリーが手を振りかぶって猛烈な一撃を放ってくる。

 グリズリーの腕がルークと重なった。

「あっ」

 エリザベスが驚声を放った。

 黒い塊が彼女の前を通り過ぎていった。

 鈍い衝撃音とともに、なにかが木の幹に突き当たる。黒い毛に覆われたグリズリーの片腕であった。

 片腕をもがれたグリズリーからは大量の血が迸っている。

 グリズリーはそれでも猛然と突き進んできた。

 ルークはひらりとかわすと、グリズリーの背後から剣を一閃する。

 大きな音を立てて、残りの腕も切り落とされていった。 

 グリズリーは、しばらくもがいていたが力尽きて倒れていった。


「ふーっ、疲れた」

 安心したのかルークは崩れ落ちるように膝から力を失っていく。

「ねえ、大丈夫なの、ねえ」

「ああ、大丈夫、疲れただけだから」

 ルークの意識は抜け落ちていき、目の前が暗くなっていった。




「んっ……」

 ルークが僅かに身じろぎをする。

 木々の葉の間から小鳥のさえずりが聞こえ、優しく吹き込んでくる風は、僅かに花の香りまでも運んでくる。

 そよ風に髪をなびかせながら、ルークは深呼吸した。

 陽射しが眩しく感じた。

「おっ、何時の間にか、眠ってしまったか」

 ルークはしっかりと瞼を開けた。現状が理解できずに固まった。 

 目の前に覗き込むエリザベスの顔があり、後頭部にはなにやら柔らかいものを感じ、視界にはエリザベスの上半身しか見えない。

 もしかして膝枕されているんだろうか。ようやく認識してきた。

 あお向けに寝転がったルークの視線と暖かく見つめるエリザベスの視線と交わり合った。

「そろそろ起きないと」 

 起き上がろうと頭を起こすが、多少ふらついた。

「まだ寝てて」

 そう言って再びエリザベスの膝に寝かされる。


 エリザベスは微笑をたたえ、優しげにルークを見つめている。

 二人はボーっと何をするでもなくただ空を眺めていた。

 青空を一切れの雲が漂い、小鳥達の鳴き声や風にゆれる木々の静かな音が聞こえてくる。

「どう、少しは楽になった」

 優しい声で労わる。

「なあ」

「なに」

「足しびれないか」

「大丈夫よ、まだしびれてはいないわ」

 笑顔で平気そうに言う。

「情けねぇ、あれくらいで倒れるとは」

「でも、助けてくれたわ」

「そうは言ってもなあ……」

 考えないようにしてもどうしても後頭部の感覚に意識が行ってしまう。

 意識をすると柔らかい感触とほのかに甘い香りもしてくる。

 やばい、これ以上負債を増やすのは……。別の事を考えて気を紛らわすことを考える。

「ありがとう」

「…………」

 ルークは半端に口を開けたまま、言葉を紡ぐことも出来ずに微笑む彼女を見惚れてしまった。

 透けるような白い肌と柔らかく澄んだ眼差し、風にたなびいている髪は金色に輝き幻想的な美しさを醸しだしていた。

 ルークは急いで視線を逸らした。彼の顔は照れで熱くなっていた。

「さてと、もうそろそろ行こうか」

「そうね」

 ルークが先に立って、土を払って立とうとしているエリザベスに手を差し出した。

「ありがとう」

 それを手にとって、彼女も立ち上がる。

「さ、行きましょう」

 彼女は歩き出す。

 ルークも彼女に合わせるようにして歩き出した。

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